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その日の伊黒さんは不機嫌だった。
普段から上機嫌な日って早々ない方だけども。


「あのー、師匠」

「何だ」

「そろそろ離していただいてもいいでしょうか」


初めて冨岡さんの柱稽古に参加してみた感想を伊黒さんに伝えると、ここへ来いと誘われ何故か膝の上で後ろから抱きしめられている。
普段からネチネチ文句くらい言われているので、何と言わず抱き締められてる今この状況が怖くてならない。


「断る」

「えぇ…」


お願い甘露寺様助けて下さい。
逆にお説教無しとか勘弁して下さい。
伊黒さんは何を言う訳でもなく私の羽織に顔を埋め、私の質問に単語で答えるのみだ。

もう冨岡さんでそれは嫌と言うほど味わったので伊黒さんまでやるのはやめて頂きたい。
嫌がらせなのかなと思い始めた頃、やっと伊黒さんが顔を上げた。


「柱稽古は甘露寺と胡蝶の所以外に行くな」

「何を言ってるんですか師匠」

「何を言ってる?逆にお前が何を言っているんだ?お前は俺の継子であって、他のゴミ共に教えを請わなくてもいいんだ。それなのに冨岡の所だ?巫山戯ているのも大概にしろ。もう一度言うぞ、その余り働かない頭に刻め。お前は俺の、継子だ」

「あっ、いつもの伊黒さんになった」

「話を聞いているのか」

「えぇ、聞いていますよ。要するに男性の柱稽古に参加するなと言いたいんですね」

「…その言い方では俺が嫉妬をしていると聞こえるんだが?」

「え?違うんですか?」


やっと伊黒さんらしくなってきて、私は肩の力を抜いたのだけど彼はそうでもないらしく大きな目を細め後ろからお腹を締められた。
ぐえっと声が出たけど、大したことはない。
鏑丸が伊黒さんの横で心配そうに私を見ているのに気付いて顎を撫でてやった。


「師匠、私は嬉しいですよ」

「何がだ。俺がこうして女々しく言っていることが嬉しいというのか?」

「女々しいなんて思ってないですけど、貴方がこうして私を想ってくれてるなら嬉しいですって事です」

「…」


黙って抱き締めたと思ったらネチネチしだして、いつも通りになったかと思えば今度はまた黙ってしまった伊黒さんの方へ身体を向ける。
視線を合わせて、包帯の上から口づけをした。


「蛇の呼吸は水の呼吸の派生なのでしょう?だから、貴方の継子として勉強しに行っただけです。私が師と尊敬し、異性として愛しているのは小芭内さん。貴方だけですよ」


あまり恥ずかしい事を言わせないでくださいと、今度は私が羞恥心で伊黒さんの首筋に顔を埋める事になった。

その後、満足そうに目を細めた伊黒さんに寝室へ連れて行かれたのは別の話。


「昼間から盛らないでください!お風呂も入ってないのに!」

「何だ、まだそんな事言う余裕があるのなら続けても良さそうだな」

「ちがーう!!」




おわり。

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