1

「メリークリスマスー!」


仕事から帰宅した義勇にパン、という音が響いて紙吹雪が降り掛かる。
目の前には赤を基調とした所謂サンタコスの月陽が満面の笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「………」

「えへへー、義勇!どうかな?」


短いスカートをはためかせて1回転しながら抱き着いてくる可愛い彼女を無言で抱き締め、甘い香りを肺いっぱいに吸い込む。

今日止まりに来る事は知っていたがまさかこんなに可愛らしいことをされると思っていなかった義勇は内心驚きと下心で心臓が煩かった。


「あ、あれ?義勇?」

「可愛過ぎて心臓が止まるかと思った」

「えっ、本当?」

「あぁ」


可愛いと素直に伝えれば嬉しそうに抱き返してくれる月陽に少しだけ距離を置いてキスをする。
付き合って間もない二人はそれだけでも照れ臭そうに微笑み合い、手を絡め合う。


「じゃ、手を洗ったらご飯にしようか!今日の月陽ちゃんは手に塩を掛けて豪華なディナーを作ったんですよーっと」

「そうか」

「今日はいつもお仕事頑張っていい子な義勇だけのサンタさんだからね!」


大人しく洗面所まで歩いた義勇の後ろでむんっと胸を張る。
他と比べると大きめの胸が少し苦しげに布を引っ張っているのが目立ち、義勇は無言で手を洗いながら鏡越しにその姿を見つめていた。

結局の所彼も男なのである。


「どうしたの?」

「いや、その姿も新鮮でいい」

「もしかしてサンタさん気に入ってくれたの?」

「あぁ」

「やったー。恥ずかしかったけど着たかいがあったよ」


義勇の下心を知りもしない月陽はその言葉にまた嬉しそうに笑った。
タオルで濡れた手を拭き終わった義勇の手を取り、リビングへ向かうとテーブルの上には和洋食の混ざった豪華な食事が並べられている。

大方和食は義勇の為である。


「凄いな」

「気合い入れて作り過ぎちゃった」

「いや、腹が減っていたし調度いい」

「本当?無理しないでいいからね?」


大丈夫だと頷いた義勇はいつも通り無言で箸を進め、あっという間にテーブルの上の食事を平らげた。
その表情を見るととても満足そうにほんの少しだけ顔が緩んでいる。

この微弱な表情の変化に気付いた月陽は嬉しそうに頬についた米粒を取ってあげた。


「美味しかった?」

「あぁ」

「それは良かった。でも食後のケーキはどうしよっか。流石にお腹いっぱいでしょ?」


そう言って首を傾げた月陽に、彼女からする甘い匂いはそういう事かと心の中で手を叩いた義勇は少し考えて頷いた。


「だよねぇ。じゃあプレゼント先に渡しちゃおうかな!」


そう言って背中から小さい箱を取り出した月陽は満面の笑みで義勇にそれを差し出している。
その箱を受け取った義勇は、一度テーブルの上に起き玄関の方へ歩くとまた月陽の前へと戻って来た。


「俺からもある」

「えぇぇ!?用意してくれてたの!嬉しい…」

「同時に開けるか」

「うん!」


せーの、と言った月陽の声にあわせて二人で箱を開ける。
義勇は箱に入ったキーケースを持ち上げ、箱の内側に付けられていた小さい紙を読む。

そこには月陽の字で、
【Happy Christmas!義勇!これからもよろしくね】
と書かれている。

一方月陽は騒がずにただじっと箱の中身を見ていた。


「…不服だったか?」


不安になった義勇は心なしか心配そうに黙ったままの月陽の顔を伺っている。
声をかけられた月陽ははっと意識が戻ってきたかのように顔を上げ首を横に振った。


「ち、違うよ!何か、その…色々意味を考えちゃって」

「そのまま受け取っていい」

「えっ!?」

「月陽、これから一緒に住まないか。ここが嫌なら引っ越したっていい。側に、妻として居てくれ」


義勇は二人分の指輪が入った箱を月陽から受け取り、左手の薬指に口付けた。
その行動に顔を真っ赤にした月陽の瞳には徐々に涙が溜まっていき、ゆっくりと頷く。


「不束者ですが、よろしくお願いします…」

「不束者なんかじゃない。月陽は最高の女性だ」

「うぅ…もう、大好きだよ義勇」

「これからも側にいてくれ」


そっと左手の薬指に指輪を通した義勇は月陽の柔らかい唇にキスをして自分にも指輪を付け僅かに微笑んだ。
そしてキーケースを取り出し、指をさす。


「これもそのままの意味で受け取っていいのか」

「えっ!?知ってたの?」

「この前、プレゼントを探していた時にたまたま見掛けた」

「あぅ…恥ずかしい」

「物は違えど想う事は一緒だったと言う事だな」


顔を両手で抑えた月陽の顔はサンタの衣装に負けないくらい真っ赤で、義勇はそのまま押し倒し顔中にキスを落とす。

リップ音が響く中、お互いの手が絡み合い徐々に口づけが深いものへと変わった。


「んっ、ん…はっ…ね、ねぇ義勇っ」

「…なんだ?」

「ま、まだお風呂…入ってないよ」


義勇の右手が太もも辺りをなぞった時、顔を紅潮させた月陽に止められ少しだけ不満そうな顔をする。
お互いに風呂に入っていない事は承知だった義勇は一瞬固まって見せると、何を返すわけでもなく月陽の首筋に顔を埋めた。


「えっ、話聞いてた?」

「気にしない」

「私が気にするよ…」

「目の前にこんなに可愛いサンタが居て我慢した俺を褒めてほしい」

「そ、そんな事言われても…」


強請るように首筋を吸えばぴくりと反応する月陽にあと一押しだと思った義勇は、既に元気になった自身を腰に擦り付け耳元で囁いた。


「愛している」

「―――っ、もう!私も愛してるよ!」


低く囁いた声で折れた月陽にこっそり微笑みながら日付の変わった後も義勇は愛し続けた。
そうして結局風呂も一緒に入る事に成功し、浴槽に浸かりながら良い香りのするバスボムを溶かしゆっくりした時間を過ごす。


「今日の義勇、凄くえっちだった」

「サンタの乱れる姿がいやらしかったからだな」

「もう…でも、クリスマスだしいっか」


変な所で抜けている月陽の背中を抱きしめ首筋に口付けすると擽ったそうに肩を竦める。


「メリークリスマス、義勇。これからもずっと一緒に居てね」

「あぁ、こちらこそ」


クリスマス仕様のバスボムが溶ける頃、再び熱を持った二人の聖夜はまだ続いた。



おわり。
キーケースの意味→一生側に置いて、あなたとずっと一緒に居たい
らしいです!

[ 83/126 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -