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「伊黒さん、甘露寺さんからのお手紙です!」

「あぁ」

「伊黒さん、お夕食の準備が出来ましたよ!」

「とろろ昆布の汁物はあるだろうな」


なんてことの無い日常全てが、私にとっての幸せだった。
伊黒さんの側にいて、素っ気無くも優しい彼の近くは心地が良くて大好きだ。


「切り込みが甘いし、踏み込みも駄目だ。それでは貴様の刀が鬼の頸を取る前に殺されるぞ愚図め。それでも俺の継子か」

「はいっ!すみません!」

「太刀筋もなってない。柱稽古の時に教えた事をもう忘れた訳ではないだろうな」


伊黒さんは凡才の私を凄く熱心に指導してくれた。
いつだって厳しく教えるのは私達を死なないように考えての事だから、手からどんなに血が出ようと、呼吸をしっかり整えられず血反吐を吐こうと耐えられる。

伊黒さんは、とても愛情のある人だから悲しませたくなかった。
悲しませたくなかった、のになぁ。


「早く逃げて!」

「お、お姉ちゃんは!?」


買い物の帰りだった。
伊黒さんは任務で遅くなるって言ってたから、お吸い物だけでも作ってさしあげたくて街へ買い物に行っていたのだけど、帰り道で鬼に襲われる子どもを見つけて助太刀に入ったのに私では敵わないような血鬼術を使う鬼で。

身体の至る所から血が吹き出る。
呼吸で止血してる暇なんかない。

それでも今目の前にある子供の命だけは助けたかった。
取りこぼすのは、私の命だけにしたかった。


「何て弱い!勇んで出てきたくせにもうボロボロじゃないか!」

「黙れ!私は負けないっ!」


私は刺し違えてでも目の前の鬼の頸を刎ねなくてはいけない。
ここで死んでしまったら、私の身を案じ振り返るあの子も殺られてしまう。


「大丈夫、大丈夫、大丈夫…私は伊黒さんの継子なんだ!」

「死ねぇぇぇぇ!!」

「蛇の呼吸弐ノ型 狭頭の毒牙」


最後の力を振り絞って鬼の背後を取り頸に向かって日輪刀を振り下ろす。
頸を刎ねたと思った瞬間、腹に衝撃が走ったけどどうにか勢いを殺さずに腕を振り切った。

そのまま私は地面へ落ち、頸を刎ねられた鬼の身体も頭も同じ様に転がる。
灰のように崩れ落ちる鬼は消えながらも私を指差し笑った。


「お前も死ぬ!もう助からん!ざまあみろ!!あはは、あはははは」

「…うん。でも人を食えなかったお前の負けだ」


嘲笑いながら消えていった鬼に言い返す。
お腹に空いた風穴のお陰でもうまともに呼吸すら出来ないし、なんの感覚もない。

ふと目の前に誰かの足が見える。
誰かは分からない。もう殆ど目も見えない。


「そこの、人…言伝を、どうか…伊黒さんに…すみませんと…つた、え」


目の前の人は私が鬼殺隊である事は知らないかもしれない。
伊黒さんを知らなければ意味が無いのに、どうしても遺したかった。
どうしてか私の手を握ってくれたこの人なら伝えてくれると思ったの。

大好きな、大好きな伊黒さんに。


「すき、でし…た」


何もかも力の入らなくなった私はそこで事切れた。


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