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「………」

「……わぁ」


休日、私と義勇は友人の赤ちゃんを預かることになった。
付き合って長いけど、こんな事は初めてでちょっとドキドキしている。

友人は親の御見舞に行かなくてはいけないらしく、たまたま休みだった私達が見る事になったんだけど


「ちっちゃいねー」

「……あぁ」


揺り籠に入って眠る赤ちゃんはおしゃぶりを吸いながら小さな手で布団を握ってる。
ぷにぷにした独特のちぎりパンのような腕も、やわらかなほっぺたも凄く可愛い。

お互い教師業をしているから子どもは好きだし、扱いは分かっているつもりだったけどここまで小さな赤ちゃんは初めて触れ合う。


「えっと、とりあえず哺乳瓶とかキッチンに置いてくるね」


預かったメモや、哺乳瓶と消毒用の箱をセットするために私が立ち上がろうとすると腕を引っ張られる。
行かないでくれと言わんばかりの義勇としっかり掴まれた腕を交互に見て私は困ったように笑った。


「大丈夫だよ、すぐそこだもん」

「俺は赤子の面倒を見たことがない」

「そんなの私も一緒だよ。大丈夫、すぐ戻るから」

「……分かった」


不安そうな義勇の頭を撫でてあげると渋々ながら頷いてくれたので、友人が持ってきたバッグを持ってメモを読みながら歩く。

まずは消毒液に哺乳瓶を浸さなきゃ。
赤ちゃんを起こさないように少量の水を出して手を清潔にする。
その後消毒用の箱に固形の錠剤を入れて、内側の線まで水を汲む。


「えーと、名前は恋太郎くんね。ふふ、あの子達らしい名前だなぁ」


少し古風なのかもしれないけど、とてもいい名前だ。
ちらりとキッチンから義勇と恋太郎君を見ると無言で覗き込む姿が見えて、ちょっと笑ってしまう。

恐る恐る指で頬を触ってつつく義勇が凄く可愛く見える。
生徒の子ども達から怖がられて居るけど、何だかんだ子どもが大好きなのが彼で私はそんな所に惹かれて今こうしてお付き合いしている。


「そろそろミルクの時間なのかな。でも泣いてなかったら無理にあげなくていいって言ってたしなぁ」

「…月陽!」

「なぁにー?」

「起きたぞ」


立ち上がって彼なりに焦った顔をしながら恋太郎君を指差している。
とは言え私はまだ消毒液の準備をしてる最中だ。


「義勇、抱っこしてあげて」

「!?」

「首は据わってるみたいだし大丈夫だよ」

「…………」


固形の消毒剤が溶けて満遍なく混ぜたら哺乳瓶をしっかりと浸さなきゃいけないし、一応ミルクの準備もしておきたいからぷるぷるしてる義勇に抱っこしてて欲しいとお願いする。
いや、私が抱っこしてあげたいけど絶対義勇にこっちは任せておけない。

ケトルに水を汲みとりあえず抱き上げる所まで手伝おうとボタンを押して手を拭きながら恋太郎君に近付く。


「あう」

「かっ…わいい」


お利口さんなのか、あの子に似て人懐こいのか大きな瞳を瞬かせて私に手を伸ばしている。
抱っこしてほしいのか手足も動かして必死にお話する姿に胸を打たれながら、慎重に抱き上げた。

軽いなぁなんて思いながら腕の中で、私を見つめ続ける恋太郎君へ笑い掛ける。
義勇も私の腰に手を回しながら恋太郎君を見てる。


「こんにちは、恋太郎君」

「んばぁ」

「あら、お利口だね。ママとパパは用事があるから、ちょっとだけ私達と居てね」

「あぶぶぶぅーっ」

「……ふっ」


唇をぶるぶるさせた恋太郎君が面白かったのか息だけで笑った義勇につられて私も小さく噴き出した。
赤ちゃんを私が腕に抱きながら、それを覗き込む義勇に結婚して子どもが授かったらこうなるかななんてちょっと思ってしまったりして。

でも、そんな妄想もすぐ終わりになる事になる。


「う"…ぅぅっ」

「あ、ミルクだよね。義勇、恋太郎君抱っこしてて」

「……受け取り方が分からない」

「なら私が腕に移動させてあげるから、こうして腕を…」 


私も恋太郎君が来る前に動画で勉強しただけなのだけど、ぎこちない義勇に何とか教えて優しく乗せてあげた。
ぐずってきてるから少しやり辛そうだけど、胡座をかいてあやすように身体をゆっくり揺らす義勇に任せて私はミルクの手順が書かれた紙を見ながら作り始める。

お湯を少し入れて、粉ミルクを一杯。
そこからまた半分お湯を継ぎ足し用意されていたミネラルウォーターで温度を少し下げる。

瓶越しにまだ熱いと感じた私は冷水で少しずつ温度を調整して、最後に手の甲へ垂らして人肌になったか確かめた。

そうしてる間にも恋太郎君の泣き声が大きくなってくるけど、何分慣れていない私はついもたもたしてしまう。


「ごめんね恋太郎君ー!義勇ももう少し待ってね!」

「大丈夫だ」

「うぇぇぇぇえん!!!ああぁん!!」


そう大きくはない義勇の声をかき消すほどの力強い泣き声に立派な声だなぁと思いながらもう一度水に浸す。
火傷させてしまっては申し訳が立たないし、再びミルクを少量手の甲に垂らせば何となく人肌くらいになったと思い義勇の元へ走る。


「はい、義勇!」

「俺がやるのか…?」

「だって義勇が抱っこしてるから…私はバッグからおむつとガーゼ持ってくる!」


人肌温度になったミルクを渡してキッチンに置いたままのバッグとメモを取りに行く。
熱くないだろうかと、また恐る恐る口元へミルクを持っていく義勇を見ると勢い良く乳首を吸い始める恋太郎君に少し安心する。

こっちまで勢い良くミルクを飲む音が聞こえてきて、恋太郎君のお母さんを思い出して似てるなぁなんて笑ってしまった。

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