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都会の路地にある、小さなカフェ。
休みという休みは全く無い社畜な私の唯一心安らげるスペース。

お昼休みを何とかもぎ取って今日は来れた。

メニューはそう多くないが、コーヒーも紅茶も美味しいし店長オススメのランチは何でも美味しい。

ここには店長とペットの蛇君しかいない、とても素敵な空間。


カラカラと音が控え目になって中へ入るとオッドアイの瞳を携えた店長と目が合った。
相変わらずカッコイイなと思いながら一度頭を下げてテーブル席へ座る。

今は午後の3時だから人も少なくてラッキーなんて思いながらメニューを見てると蛇君が私の席におしぼりを咥えて届けてくれた。
最初このサービスに驚きはしたけど、一生懸命運んでくれるこの姿に心奪われて今では蛇君のファンになってる。


「ありがとう」


そう言って顎を撫でてあげると嬉しそうに顔を押し付けてくれる。
もうこれだけで私の心が浄化されて泣きそうになったのは最初の頃。


「久し振りだな」

「はい、お久しぶりです!やっと来れました」

「てっきり他の男に浮気をしたものかと思っていたが…お前はきちんと寝ているのか?酷い顔をしているぞ」

「あはは、なかなか休みが取れなくて」


席に座る私の後ろから覆い被さるように片手をテーブルについた店長さんが目を細めて笑った。
ここはホストクラブだったかなと思う程店長さんはカッコイイし、仕草がとても女心を刺激されて悶絶する。
何とかいつも通りを装って答えはするけど、男性経験の浅い私からしたらカッコいい人が近くにいるだけで緊張するのだ。


「疲れているならミルク多めのアールグレイだな。文句はあるか?」

「いいえ、店長さんにお任せします」

「食事もいつも通りでいいな。少し待っていろ」

「はい、お願いします」


紅茶もコーヒーも私はどちらも好きなので、頼んでいる内に好みを把握してくれた店長さんはその日の私に合わせて飲み物を選んでくれる。
ストライプのシャツに黒のスラックスがとても似合っていて、料理をする姿をひたすら眺めるのも私の楽しみだったり。


「ねぇ蛇君、あなたのご主人はとってもステキだよね。他の人にもあぁして距離が近いのかな」


各テーブルに置いてある蛇君用のベッドにトグロを巻いきながら私を見上げてくれる顎を擦りながら話し掛ける。
いつからこのお店に通い出したかは忘れてしまったけど、来るうちにここの雰囲気を好きになって蛇君を好きになって、私は店長さんを好きになっていた。

結構上から目線の言葉遣いをする割には所作はとても上品だし、言葉の節々には優しい気遣いを感じる。

私は休憩がいつもお昼時を過ぎてからだから、他のお客さんを接客している所を見たことがない。
だからあの距離感は誰にでもしているのかもしれないと考えると少しばかり胸が痛くなる。


「それとも、彼女さんや奥様が居るのかな」

「どちらも居ないが」

「うわっ!?」

「随分と楽しそうに鏑丸と話していたから、パスタが茹で上がる時間まで俺も社畜の話を聞いてやろうと思ってな」


向かい側にも椅子があるのに敢えて隣に座った店長さんは紅茶を置いて、頬杖をつきながら私を見つめた。
いい匂いはするし、少しはだけた鎖骨が色っぽすぎるし、マスクで唇は見えないけど少しだけ細められた瞳がカッコよすぎるしで一気に恥ずかしくなってしまって俯きながらお礼を言ってカップを両手で包む。


「い、いえ。何となく、店長さんは素敵な男性だから恋人とか居るのかなーなん、て…」

「ほう、俺を素敵と思ってくれているのか。先程も答えた様に俺は恋人も配偶者も居ない。どうだ?満足か?」

「えっ!?あの、満足って言うか…」


少しホッとしました、なんて好意丸出しな事なんて言えるわけがない。
言葉に詰まる私の顎を持ち上げて無理矢理に目を合わされた。

店長さんの綺麗なオッドアイが私の心を見透かしてしまうんじゃないかと心配になって、視線をそらす。

その瞬間、パスタが茹で終わったことを知らせるアラームが鳴った。


「ちっ…少し待っていろ」

「へっ、あっ…はい!」


内心舌打ちした!?と思ったけど、パスタのお陰で逃げ道ができた事にとりあえず安心する。
蛇君、ではなく鏑丸君に視線をやると首を傾げながら舌をチロチロとさせていた。


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