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「だからもう、ご自分を責めないでください」


血が滲んだ掌に頬擦りをして懇願する。
この人はいつも自分ばかりが背負おうとしてしまう人だった。
天涯孤独な私が死んでも悲しむ人など居ないと思ったけど、大いに間違っていた事に気付く。


「もう二度と居なくなるな」

「はい」

「離れる事は許さん」


あの時と変わらない冨岡さんの香りが鼻腔をくすぐる。
側にいてもいいのだろうか。
幸いこの世界は前より平和ではあるけど、冨岡さんは先生で私は生徒だ。

これは記憶が戻ろうと今世の決まりであるから不味いことには変わりがないのだけど。
ふとそこまで考えて思考を停止した。


「あの、冨岡さん」

「なんだ」

「今ナチュラルに受け止めましたが、その…もしかして?」

「…あぁ、PTAの事か」

「いや、そうじゃなくて!そっちも大切だけど!」


冨岡さんのさっきの言い方だと私を好きだと言っているように聞こえるけど、相手が相手だ。
私の勘違いという事もある。けど、PTAを気にしたって事はそういう事であってるのだろうか。


「…勘違いじゃない」

「え?!」

「俺は前世も今も変わらずお前が好きだ」


前世では冨岡さんから向けられる事がないと思っていた感情が、鬼殺隊の時から変わらず今でも私に向いていると言ってくれている。
あの時から私と冨岡さんが想い合っていただなんて嬉しすぎる。


「冨岡さん、私もです」


言葉に出して伝えたら、冨岡さんは無言で頷いてくれた。
もしかしたら前世では私の気持ちに気付いてくれていたのかもしれない、なんて。

本当は鬼の事や、冨岡さんは何歳まで生きてくれていたのか聞きたい。
でもそんな事は今聞く事じゃない。
この平和な世界で天命を全うするまでに聞けたらいいなとは思うけど、それより今を生きる冨岡さんのことを知りたいと思った。


「冨岡さん…じゃなくて、冨岡先生」


私が今知っている冨岡さんの情報は私の先生という事。師範とはまた違う師だけど、決まりがある以上それを守らなくてはいけない。

先生呼びに微妙な反応を示していたけど彼も教師だからか、とりあえず首を傾げて私の話を聞いてくれるみたいだ。


「もう授業が始まると思うので、私は教室に向かおうと思います」

「…そうか」

「だから、学校が終わったら冨岡さんのお話を聞かせてください。そして今の私の話を聞いてください」


ずっと撫でていてくれた冨岡さんの小指に指を絡めて見つめる。
本当はこのままサボってしまいたいけど、今の私達には時間があるから。
鬼が出たと知らせを聞くこともなければ、命の危険など殆ど無いこの世界でまた出会えたからこそ後でゆっくり話すことができる。


そんな思いが伝わったのか、絡めた小指を少し強めの力で絡め返してくれた。

今度こそは貴方と添い遂げたい。
この平和な世界で、前世の仲間たちと共に生きていきたい。



おわり。
死→転生ネタ!何番煎じという話ですが、やはり悲恋で終わるというより未来くらいは幸せにしてあげたいんだ。



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