3


あふれ出すように記憶が流れて来て、思わず立ちくらみがした私は目の前の冨岡さんのジャージを弱々しく掴んだ。
鬼殺隊、鬼、柱、情報量が多すぎて頭がついていかない。

少しだけ吐き気がしてきた時、背中に回された手が優しく上下に動かされた。


「無理はしなくていい。ゆっくり深呼吸しろ」

「っ、は…はっ…」


処理しきれない記憶の濁流に過呼吸になってきた私を冨岡さんが抱き上げてくれた。
自分の最期らしき所を見たら何も無いはずの首やら腹やら足が熱い。


「煉獄、宇髄。少しここを頼む」

「うむ!ここは任せて月陽くんを保健室へ連れてってあげるといい!」

「後で奢ってもらうぜ」

「あぁ」


呼吸が荒くなる一方の私を優しく抱えて歩き出した冨岡さんは保健室へ向かうと一言教えてくれた。
必死に頷いて答えると、ぽんぽんと正しい呼吸のリズムで背中を優しく叩いてくれる。


「安心しろ。俺がいる」


酸欠だからなのか、記憶に混乱しているのか、優しいその声に涙が次々にあふれ出した頃保健室へ着いた冨岡さんにベッドへ丁寧に降ろされた。
私達を出迎えてくれた、校門にいた女の子と同じ髪飾りをした女性は気を使ってくれたのか部屋を出ると言って退室してしまった。

袋を渡された私の呼吸が段々と落ち着くまで、冨岡さんの手は離れる事なく背中を撫でてくれている。


「…落ち着いたか」

「は、はい」

「ならいい」


背中を擦っていた手を離し、目を細めた冨岡さんに胸がぎゅっとなる。
何から話そうかと俯いて自分の手を握ると、ベッドに腰掛けた冨岡さんにもう一度抱きしめられた。

どうしたんだろう、こんなにスキンシップの多い人だっただろうか。
私が思い出した限りでは言動全てにおいてとても最低限の人だった気がするのに。


「あ、あの…」

「言いたいことがある」

「はい!」


最後に見た私の記憶。
悲しそうに眉を寄せ私の亡骸をきつく抱き締めてくれた冨岡さんの姿を思い返す。
お叱りを受けるのだろうか。
継子として頑張ると言ったくせに私は呆気なく死んでしまった。


「ごめんなさい!」「すまなかった」


思わず居た堪れなくなった私が大声で謝ると、同時に聞こえた冨岡さんからの謝罪。
意味が分からなくてきょとんとしてしまった私は冨岡さんの顔を見つめた。


「…え、いや。何で冨岡さんが謝るんです?」

「間に合わなかった」


後悔を滲ませ、強く拳を握った冨岡さんは私の首を優しく撫でた。
もしかしたら私が最期を迎えた後こうして顔を歪ませていたのかもしれない。

こんなに優しい人を私は残して逝ってしまったのだと、心苦しくなった。


「冨岡さん、本当にごめんなさい」

「お前が謝る必要はない。あの時の俺達に課せられた使命を全うしようとしただけだ」

「でも、貴方にそんな顔をさせたい訳じゃなかったんです」


心がとても苦しい。でも冨岡さんはもっと苦しい思いを下に違いない。
この人はとても優しい人だから。
強く握られている冨岡さんの手を両手で掴んで祈るように額に当てもう一度謝った。




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