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「おはようございます」


校門に立っている青いジャージを着た先生に私は朝の挨拶をした。
今日からキメツ学園へ転校し、新たな高校生活を送る私は新品の制服へ袖を通している。

風紀員らしき人たちがボードを持ち、順番待ちをしている生徒達がいるから制服検査をしているのだろうかと、少し視線を上げて先生の顔を見た。


「…月陽」

「へ?」


青いジャージを着た先生は顔を見るなり目を大きく見開いて私の名前を呟いた。
知り合いだっただろうかと記憶を探っても名前も顔も出てこない。

でも先生が呼んだ名前は私のものであっている。
もう朝の挨拶はしたし、頭だけ下げて列に並ぼうとしたら腕を引っ張られた。


「ひゃ!?」

「やっと、会えた」


先生が生徒の私を抱きしめる奇行にただただ驚いて短い悲鳴が飛び出た。
ななな、何だこの先生。こんな堂々と生徒にセクハラする学校だなんて聞いてないぞ。

誰かに助けを求めようと先生越しに辺りを見渡せば、何故か優しい目でこちらを見る生徒の人達がいた。

なんで、そんなに優しい目をしているの?


「あらあら、先生ったらこんな所で生徒を抱き締めるだなんてPTAが黙っていませんね?節操無しは嫌われますよ?」

「よもやよもやだな!」

「てめぇにしちゃ珍しくド派手にやってるじゃねぇか」


言っていることは皮肉交じりなのに穏やかな表情をしている、蝶の髪飾りをつけた女の子。
大きな瞳に炎のような色を宿し、笑っている先生とフードを被りながら銀髪を持つ派手な先生が青いジャージの先生に向かって声を掛けている。

まるで皆知り合いかのような雰囲気に胸が暖かくなっている事に気がついた。

この雰囲気、知っている気がする。

未だに黙って私を抱きしめる先生の顔を見たくて身体を捩ると深海のような色を持つ瞳に見つめられて頭を金槌で打たれたような衝撃が走った。

私は、知っている。
この人達を、目の前の彼を。


「し、はん」


そう思った瞬間溢れるように私の口からある人の呼び名が出た。


「…思い出したのか」

「っ、待って…今、ちょっと混乱してて」


師範と呼んだ目の前の男性は目を見開き私の髪を撫でてくれる。
ぐるぐると脳みそが回っているかの様な感覚に陥りながら、少しずつその記憶を拾った。

黒い隊服に身を包み、それぞれ特徴のある羽織を着た背中がある。
緑や黄色にピンク、猪のような被り物をした人物も頭に浮かんできた。

そして、自分によく似た女性が師範と呼んだ彼に抱き締められ命を散らした映像が流れてくる。
最期に呼んだ彼の名前は、


「冨岡、さん…」


そう呟いた瞬間涙が頬を伝って地面に落ちた。



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