3

家に帰ってからも月陽の笑顔が頭から離れなかった。
結局貰ってしまった薬を懐から取り出して眺める。

においを嗅いで見ると、花の香りが控えめに鼻孔を擽った。まるで彼女が側に居るようで少し落ち着かない。
会って間もないはずなのに俺の頭の中は月陽の事ばかり。手に巻かれたハンカチは彼女らしい薄桃色をしている。
またあの笑顔を見たいと思ってしまう辺り自分は重症なんじゃないかと思ってしまう。


「礼をしなくては」


彼女は何が好きなのか、初めて会った女性をどうしてこんなにも考えてしまうのかその日一日色々と考えた。
どうやら一目惚れをしてしまったのかもしれない、そう結論づいた時は頭を抱えそうになった。


それから俺は週に一回は月陽の元へ贈り物を持って訪ねることになり、胡蝶には呆れられたようにまたですかと言われるようになった。  

俺は月陽が好きだ。


「あ、冨岡さーん!」


今日もたまたま蝶屋敷の近くを通り掛かったら私服姿の月陽が門の所で手を振っていた。
驚いて思わず足を止めて片手を上げ答える。


「こんにちは、冨岡さん。しのぶ様に御用ですか?」

「いや…」

「そうだったのですか。私、今日は非番でこれから買い物に行こうと思ってたんです!」


薄く化粧をした月陽も可愛い。
そうか、と返事をして束から外れた髪の毛を耳に掛けてやるとわかり易いくらい顔を赤くした。


「化粧をしているのか」

「はい、少しですが」

「男に会いに行くのか」


こんなに可愛い格好をして他の男に会いに行くのだろうか、そんな考えが過ぎってつい口に出してしまった。


「違いますよ!」

「そうか。なら嫌でなければ俺も共に行ってもいいか」

「も、勿論です!嬉しい」


男なら勇気を出せ、と錆兎の声が聞こえた。
何も考えず思った事だけを口にすれば月陽は嬉しそうに微笑んで了承してくれる。
許可を得た俺は隣をいつもよりゆっくり歩きながら街への道を彼女の話を聞く。


「そう言えば!」

「?」

「何だか今の私達恋仲に見えますかね?」


頬を赤く染めて、少しだけ俺の方に寄り添った月陽に抑えている感情が溢れそうになる。
自分らしくないと思いながら日々彼女と接してはいたが、これは煽られているのか何なのか悶々と頭の中で問答が繰り返された。


「…恋仲に見えたなら、嬉しいのか」


やっと振り絞って出た返事がこれだった。
さっきより近くなった月陽の顔を覗き込むと元々丸い瞳がもっと丸くなっている。
歩みは止まり、徐々に赤くなってくる耳が彼女の心境を表しているかのようで勘違いしそうになる。


「わ、私は…」

「俺は嬉しい」


横に下げられた月陽の手を、前に俺の手当をしてくれた時のように出来る限り優しく握った。





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