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「邪魔をするぞ」
一言声をかけて部屋に入れば月陽に抱き着く我妻のだらし無い顔が一瞬で青ざめて自分のベットへ戻っていた。
最初からそうしておけばいいものをと思いながら、俺の名前を呼ぶ炭治郎の側に歩み寄る。
「冨岡さん!お見舞いに来てくれたんですか」
「怪我の具合はどうだ」
「はい、このままならもう直ぐ任務にも行けそうです!」
「そうか」
俺に何か言いたげに一生懸命話し掛ける禰豆子の頭を撫でやり横に置いてあった椅子に座る。
我妻は震えながら俺の様子を伺い、嘴平は勝負しろと叫んでいるが無視をしてやった。
困った様に笑っている月陽が嘴平の背中を撫でて居る姿に少しばかり心に違和感を感じる。
「伊之助君はまず怪我を直してから柱稽古してもらおうね」
「うるせー!俺は今、ここで勝負するんだよ!」
「嘴平」
「あ"ん?」
「月陽を困らせるな」
「ぐごっ」
席を立ち嘴平の頭を拳骨して黙らせてやった。
傷に響いたのかすっかり大人しくなった姿を見て唖然とする月陽の顔を見る。
「すまない、騒がしくしてしまった」
「い、いえいえ!きっと冨岡様が来てくれて嬉しくなっちゃったんですよ。さすが冨岡様ですね」
一言詫びればすぐにまた出会った時の様な微笑みが返ってきて心が暖かくなる。
後ろで謝る炭治郎と、更に震え出す我妻を一度見やり帰ろうかと扉へ向かって歩いた。
「あっ、冨岡さん帰っちゃうんですか?」
「あぁ。顔を見に来ただけだからな」
「何もお構いできずすみません!」
「そんな事は求めていない。怪我を早く直せ」
「はいっ、ありがとうございます!」
元気に返事をした炭治郎に頷いて今度こそ部屋の外へ出た。
今日は特に予定もない、家へ帰って休もうと足を早めようとした瞬間後ろからこちらへ向かってくる足音が聞こえ歩みを止める。
「冨岡様!」
「…なんだ」
「あの、宜しければこれをお持ちください!私が調合をしたものですが、良ければ手の甲に塗ってください」
「気にするな」
「いいえ、気にします。どんな小さな傷でも化膿すれば痛いのですから」
そっと俺の手を取り、渡そうとしていた傷薬の蓋を開けて中身を優しく塗ってくれる。
優しく触れている月陽の手を振り払う事が出来ずただ伏し目がちなまつ毛を眺めた。
綺麗だと思った瞬間、また心臓が不整脈を起こす。
「はい、これで大丈夫です。これは消毒の役目もありますから、傷口をキレイにしてから塗ってくださいね」
最後に懐から出したハンカチを俺の手に巻いて月陽は再度俺に薬を渡した。
握りこませるように俺の指を両手で包み込むように握られる。
その動作が終わっても無言で月陽の顔を見る俺に首を傾げられ、やっと視線を外す事ができた。
「あの、不快にさせてしまいましたか?」
「…いや」
「それなら良かったです。冨岡様、これからお帰りになられるのですよね。お出口までご一緒します」
安心したように笑った月陽は俺の進行方向へ一歩歩み出てこちらです、と歩き出した。
見送りは不要だといつもなら言う筈なのに、そのまま彼女の側を歩く。
元々話好きなのか、はたまた俺を気遣ってか知らないが門の付近にある花がもうすぐ咲きそうだとか話していた。
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