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いつの間にかおはぎを食べ終わらせた実弥さんは真剣な眼差しで私を見つめている。
いつもならあの大きな瞳に見つめられたらキュンキュンと胸の鼓動が鳴り止まないのに、今はどちらかと言うと怖くてドキドキしていた。
こんなドキドキなんていらないのに。
「………い」
「え、あ…ごめんなさい、聞き取れなくて」
理由を言ったのだろうか、柄にもなく震える声と身体を必死に抑えてもう一度実弥さんに聞き返す。
「……嫁に来いって言ってんだよ」
「…………へ?」
「何度も言わせんじゃねェ」
突然の発言に私はまた頭が真っ白になる。
そんなに頭のいい私ではないけれどこんなに連発して真っ白になったのは初めてだ。
今、実弥さんが嫁って言った?
「…え、嫁?」
「嫁っつっても将来的にだがなァ」
「ひっ…!!」
嬉し過ぎて悲鳴が出そうになった自分の口を全力で塞いだ。
いいのか、私がこんな素敵な方とお付き合いして。
将来的に嫁?は?今すぐにでもなりますとも、なんて脳内会議がされる。
「で、返事はねぇのかよ」
「喜んで!!」
「…おせぇよ、返事が。まぁいい、さっさと食え」
「っ!は、はい!」
男性にこんな風に例えるのはとても申し訳ないけれど、まるで花が綻ぶように笑った実弥さんに私の心が奪われた。
私が嫁?違うわ、実弥さんが嫁だわこれ。
そんなアホのような事を考えながらも餡蜜を頬張る私を実弥さんが一段と優しい表情で見つめている。
これ幸せで死ぬかもしれないなんて脳内の独り言が止まない。
餡蜜を食べ終わった私達はおばちゃんにお金を払ってお店を後にする。
ぶっちゃけいつもと変わらない美味しさだったのだろうけど、今日は実弥さんのお陰で味とかよく分からなかった。
お店を出てから隣を歩く実弥さんを見上げると、何だかいつもより近い距離に居るような気がして盛大に照れる。
「…ンだよ」
「幸せ過ぎてニヤけちゃってどうしたらいいのか分かりません!!」
「はぁ?」
照れ臭さを拭うように元気よく実弥さんに答えたら馬鹿にされたような顔をされた。
いや。ような、じゃない。馬鹿にされたんだと思う。
だってずっと好きだったんだ。
恋人にならなくても側に居られるだけで幸せだとこの数年言い聞かせて頑張ってきた。
それが今日の一瞬が全てを変えてしまった。
どうしたらいいのか分からなくなってしまうのも仕方ないと思ってもらいたい。
両手で口元を隠しながら横を歩いていた私は急に立ち止まった実弥さんにつられて足を止める。
どうかしたのだろうかと実弥さんの目を見ると何故か無表情で私を見つめていた。
何故ここで無表情、なんてつっこみをしそうになった自分の頬をとりあえず殴っておく。
「……おい、目瞑れェ」
「へ、あっはい!」
無表情な実弥さんが私にゆっくり近づいてきた所で言われた通り目を閉じた。
何でどうして何かしたかななんて思いながら私の肩に実弥さんの手が触れてびっくりしながらも指示に従い続ける。
「あんまり煽んなァ」
実弥さんの声が聞こえた後、唇に柔らかい感触が当たった。
肩に置いてあった筈の実弥さんの手は私の顎へ移動して下を向かないよう固定されている。
こ、これはもしや私は接吻をされているのではと未だに閉じていた目を開けたら唇にあった感触が離れていった。
至近距離で優しい笑みを浮かべた実弥さんの顔が私を見つめている。
「〜〜〜〜〜!!!」
「これぐらいでへばるんじゃねぇぞォ。これからはもっと色々な事する予定だからな」
「ひぇっ…」
「あ!?おい!」
神様仏様実弥様。
月陽は幸せです。
薄れゆく意識の中、最後の力を振り絞って声を出した。
「実弥さん、大好き…です」
目を覚ましたら夢でしたってオチは勘弁して下さいね、神様。
おわる。
初実弥さん夢!
ギャグ思考のヒロインちゃんが書いてて楽しくて好き。笑
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