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「いい飲みっぷりだな」
「本当だね」
口の周りをミルクで汚しながらも懸命に飲み続ける姿に胸がキュンとする。
抱っこしながら片手でミルクを飲ませてあげる義勇もぎこちないながら凄くかっこいい。
「…男ならばたくさん飲んで立派になれ」
「ふふ、きっとあの子達の子どもだもん。立派になるに決まってるよ」
まるで父親のように恋太郎君に語り掛ける義勇に寄り添って頬にキスをする。
恋太郎君を抱っこしているからリアクションはほぼ無かったけど、珍しく私から送るキスに目は少しだけ見開かれていた。
どうしようもなくキスしたくなっちゃった自分に私自身だって驚いている。
「…へへ」
「そういう、可愛い事はまた別の時にしてくれ…」
「だってしたくなっちゃったんだもん」
耳を赤くした義勇が私から目を逸らして恋太郎君を見つめてる。
抱っこしてるしミルクも上げてるから今の義勇は照れ隠しが出来ないんだ。
そうしている家に恋太郎君はミルクを飲み干したので、今度は私が縦に抱っこして背中をぽんぽん叩く。
ミルクを飲んだ後はゲップを出させてあげないと吐いてしまうと書いてあった。
何度か叩いた後盛大なゲップを出した恋太郎君は満足そうに手足を動かしてくれる。
「よし、次はオムツ替えだ…ね…」
カシャリと音がした方を見れば義勇が私と恋太郎君をケータイで撮っている。
何だかとても嬉しそうだからあえてスルーしたけど、久し振りにムフフって笑ってる義勇を見た気がするなぁなんて思いながら新品のタオルケットの上に恋太郎君を寝かせた。
お腹が一杯になってご機嫌な恋太郎君にバッグに入っていたおもちゃを渡して、友人達が来る前に見たオムツ替えの動画を頭の中で流す。
「えっと、新しいオムツを1番下に敷いて…テープを外して拭いてあげると」
バッグから新しいオムツを取り出して手順を思い出しながら丁寧に早く取り替えていく。
オムツが外れた開放感からなのか、両足を真っ直ぐ伸ばす太ももが凄く可愛くて頬が緩んでしまう。
「あはは、ムチムチさんだねぇ」
「柔らかいな」
「あぶぅっ!」
「伸び伸びしている所失礼しますねー!拭き終わったので古いオムツはないないさせて頂きますよーっと」
古いオムツを引き抜き、漏れないよう付け根の締り具合を気にしながらテープを貼れば初めてにしては上出来な状態で履かせられた。
お腹も一杯になって、オムツも新品で恋太郎君のテンションはマックスになったのか更に手足を動かして楽しそうに何かを話している。
「それにしても、お母さんやお父さんって凄いなぁ」
私が感心するようにそう言えば義勇も無言で頷いてくれた。
これをほぼ毎日1年間旦那さんが出かけている間一人でしているんだから、ほんとに尊敬する。
睡眠も思う様に取れなくてギスギスしてしまう家庭もあるだろうけど、友人の家は旦那さんがベタ惚れなのでフォローは万全だろう。
付き合う前からずっとあの子を大切にし続けてくれた旦那さんなのだから。
「ねぇ恋太郎君。恋太郎君はお唄って好きかな?」
「ぶ?」
「きらきら光る、夜空の星よーって」
学園で私は音楽の授業を担当している。
歌は得意だし、恋太郎君が分かってくれるかは知らないけど知っている童謡を小さめの声で歌う。
気に入ってくれたのか、手に持ったおもちゃを振り回しながら私を見てくれている。
義勇も穏やかな顔をして恋太郎君のお腹を優しく撫でながら聞いてくれていた。
きっと子育ての大変さなんかまだ私達に理解しきれてはいないけど、愛する人との子が生まれ一緒に家庭を築く事はとても素敵な事なんだろうなと思う。
あの子も恋太郎君が生まれた時、幸せ過ぎてたくさん泣いたし胸の高鳴りが収まらなかったと言っていた気がする。
それから私は手遊び歌や、恋太郎君の腕やお腹を優しく撫で感覚を刺激しながら遊んだ。
義勇も最初の態度はどこに行ったのか、恋太郎君に男たるものなんて話をしていたから早すぎるよって、きっと話の内容なんて理解していない恋太郎君と三人で笑う。
たくさん遊んだからか、少しうとうとしてきた恋太郎君を抱き上げゆらりゆらりと体を揺らした。
時間的にももう直ぐ友人達が帰ってくる時間だ。
寂しいな、なんて思っていたらお気に入りの蛇の人形を抱えた恋太郎君が寝息を立て始める。
「寝たのか」
「うん、そうみたい。可愛いなぁ」
すやすやと穏やかに眠る恋太郎君の寝顔を二人で覗きながら静かに会話をする。
ソファに座った私の肩を義勇が抱き寄せて、唇を重ねられた。
触れるだけのキスだけど、何となく義勇が何を言いたいのかが分かって少し笑ってしまう。
恋太郎君を揺り籠に寝かせて、肩を寄せ合い寝顔を見つめる。
ケータイにもうすぐここに着くと連絡が入っていた。
「月陽、俺達も結婚しないか」
「え…?」
「結婚式を挙げた後、いつか子を授かろう」
穏やかに話す義勇に、まさか恋太郎君の前でプロポーズされるなんて思わなかったなと思いながら近くにあった手を絡めた。
断る理由なんて一つもない私は返事の代わりに義勇の指に口付けする。
「なら今夜から頑張るか」
「もう、恋太郎君の前でそういう事言わないでくれるかなー」
そんな事言っても内心満更ではない私が居た。
子どもは大好きだし、義勇とだってそろそろプロポーズしてくれないかなとか思ってたし。
きっと義勇となら幸せな家庭を作れるんだろうなって思う。
もう一度キスをしようと目を閉じた瞬間インターホンが鳴った。
「…続きは後でね」
「そうだな」
唇が触れ合う寸前で止まった私は迎えに来た友人を迎え入れる為に眠る恋太郎君を義勇に任せて玄関へ向かった。
きっかけは凄く意外な人から貰ったけど、これはこれで全然ありだと思う。
幸せになろうね、義勇。
おわり。
ただ冨岡さんに赤ちゃんを抱かせたいという願望から生まれた短編。
恋太郎君のパパとママはご想像におまかせします。笑
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