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あれから店長さんは私の代わりに電話を出てとても難しい単語を使った会話をしていた。
一瞬私に向けてご飯を食べていろと口パクで言ってくれたので慌てて食べ始める。
その間も店長さんの饒舌さは留まることを知らず、最後まで不敵な笑みを浮かべたまま通話を終わらせた。
「あ、あの…ご馳走様でした」
「あぁ」
「それで、私はこれからどうなるんでしょうか」
店長さんは私をここで雇ってくれると言うのだろうか。
さっきのキスの意味は何だったのだろうか。
頭の中がぐちゃぐちゃで何が何だか分からない。
「俺は店長さんじゃない、伊黒小芭内だ」
「伊黒、さん」
「…まだ思考が追いついていないようだな。全く、その上手く機能していない脳みそに叩き込め。一度しか言わんぞ」
「は、はい!」
「ずっとお前が好きだった。俺と結婚しろ」
「……」
目が溢れるんじゃないかってくらいに自分の目が見開いたのが分かった。
付き合うじゃなくて結婚?結婚を前提にという事なのだろうか。
でも、何でもいいのかもしれない。
私だって前から伊黒さんを好きだったのだから。
「あの、私で良ければ喜んで…!」
「お前がいいから選んだのだ。これからはずっと俺の元に居ろ。その代わりに俺はお前の生活も睡眠時間も、幸せも保証してやる」
「う、う"ぅっ…」
「分かったな?」
「はいっ、私も…あなたが好きです」
「知っている」
その後早めに店を締めた小芭内さんは、私の荷物を取りに会社へ一緒に来てくれた。
私が男の人と来たことに社内がざわついたけど、上司が何かを言ってくることはなく寧ろ逃げる様にその場を去っていく姿が見えた。
小芭内さんは何を言ったのだろうと顔を見つめると、彼はなんてこと無いように当たり前の事を言っただけだとしか言わない。
「あの、小芭内さんはどうして私が好きだった事知ってたんですか?」
「あれだけ見つめられていては気付かない方のがおかしいだろう。それに、」
「それに?」
――俺もお前を見ていたからな。
手を絡めながら耳元でそう囁かれ顔に熱が集まる。
「そう言えば月陽の家はどこら辺なんだ」
「あ、小芭内さんのお店から大体20分くらいの所です」
「…なら俺のマンションのが近いな。鏑丸を迎えに行ったら家へ来い」
「お家にですか!?」
「そうだ。勿論泊まっていくだろう?」
腰を引き寄せられて、そんな風に笑いかけられてしまったら断る事なんて出来ないじゃないか。
無言で頷く私に満足気な顔をして小芭内さんのお店に向かう。
かっこよくて少し意地悪な小芭内さんに敵う事は一生無いのだろうけど、この人にならついていきたいと思える程私は彼を好きになっていた。
「その内指輪でも買いに行くか」
「もう、ですか?」
「付き合ったと同時にお前は俺の婚約者でもあるんだ。指輪を送るのは当たり前だろう」
「…ありがとう、ございます」
当たり前のように私を考えてくれて、当たり前のように幸せな時間をくれる小芭内さん。
付き合っていなかった頃も、きっとこれからも私の居場所はあなたがいる所。
おわり
カフェ店員の伊黒さんとか絶対すけべ。絶対かっこいい。
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