鳴海爽太、21歳。
俺には小さい頃から好きな子がいる。名前は苗字名前、近所に住むとにかく可愛くて仕方ない女の子だ。物心がついた頃から名前に夢中で、遊んでやっては満たされていた。あっちは17歳、つまり4つ差。俺には絶対に隠し通さなきゃいけないことがあった。

「うたちゃあん」

コンコン、と俺の部屋がノックされる。時計を見れば名前がちょうど下校してきた時間だろう、暇さえあれば俺の家に寄ってくこいつが可愛くて可愛くて堪らない。あっちは俺のことどう思ってるか分からないけど、いいお兄ちゃんくらいには思ってもらえてるだろう。

「はいどーぞ」

短く返事をしたら勢いよくドアが開かれた。ブレザーに身を包む名前。ほぉ、今日は学校帰りにそのまま来たんだ。

「ただいま、うたちゃん!」
「こら、お前の家じゃないだろ」

えへへ〜と表情を緩ませる名前。たまらん。俺は平静を装いながらソファへ移動すると、おいで、と隣を叩いて見せた。名前がスカートを揺らしながら俺の許へ近づいてくる。

「うたちゃん今日も学校行かなかったの?」
「行かなかったっていうか大学生はまだ休みなんだよ、高校生と違って」
「ふうん、いいなあ。わたしも早く大学生になりたい」
「その前に受験勉強しないとな」
「うえ〜、お母さんみたいなこと言わないでよ〜」

名前は顔をわざとくしゃくしゃにして嫌がった素振りを見せる。可愛い。でも、本当に嫌がってる顔はもっと可愛いんだろうなあ…。俺のどうしようもない妄想が広がっていく。

「うたちゃん?」
「はい」

うたちゃん、というのは小さい頃に付けられたあだ名で、そうた、からうたを取って、うたちゃん。俺の緩む口許に気づいたのか、声を掛けてくるけど、このうたちゃん呼びもなかなかに可愛くて俺は気に入っている。

「なんか顔がだらしなかった」
「悪い、考え事してて」
「ふうんどんなこと?」
「何でもないよ」

名前の頭をぽんぽんと撫でてやる。バレるわけにはいかない。勿論名前が好きだってことも、でもそれより、名前のことを性的に見ているということの方が隠さなきゃいけない。

「今日は何しに来たんだ?」
「あ、そうだ!今日ね、調理実習でクッキーを作ったの。うたちゃんにも作ってきてあげたよ」
「はは、お前が?変なもん入ってないだろうな」
「ちゃんと食べられるもん!」

ぷくっと頬を膨らます名前。可愛い。変なもん入ってても良かったんだけどな。お前のものなら、唾液でも、髪の毛でも、経血だって大歓迎。

「うたちゃん、顔が…」
「おっと悪い何でもない、じゃあ紅茶でも淹れてくるよ」
「何おしゃれ気取ってるの?」
「たまにはいいだろ、待ってろ」

また悪い妄想が広がった。にやける口許を押さえながら慌てて部屋を出ていく。はあ、あいつの体液舐めてえ。こないだ母さんが社内レクリエーションの景品で貰ってきた紅茶があったからそれを持っていこう。小洒落たパッケージを無遠慮に破くと、香りのいいティーバッグ。お湯に沈めて適当なカップを掴み、さっさと部屋に戻っていった。何も入ってないにしても名前が作ったクッキーだもんな、早く口に入れたい。ドアを開けると真っ青な顔をした名前がびくっとこちらを振り返り、ぎこちない笑顔を浮かべている。

「あ、ちがうの…これは…」

名前が真っ青になりながら手にしているものを見て、俺も真っ青になった。ソファの前にあるローテーブルにトレーを置くと、俺の本棚の目の前で動けなくなっていた名前に近づいて手首を掴む。少々乱暴だったかもしれない。

「名前ちゃん」

俺が優しく名前を呼ぶと、名前はびくっと肩を上げる。

「ち、ちがうの、わたし、うたちゃんが普段どういうの読んでるのか気になって、うたちゃんのこともっと知りたかったから、は、はなし、話題が作れると、おもって」
「名前ちゃん」
「ごめんな、さい、ごめ、わたしこういうのあるなんて、知らなかったから、わたし、うたちゃんともっと仲良くなりたかっただけで、」
「名前」
「あ……」

呼び捨てにするとスラスラ唱えていた言い訳をピタリと止める。名前は真っ直ぐ俺を見つめて、静かに涙を溢した。

「わたし、うたちゃんのことが好きなの…」

こんなに最高な告白があるか。俺は名前を今すぐにぶち犯したいのをぐっと堪え、名前の涙を拭ってやる。それを拒むでもなく名前はただ俺をじっと見上げていた。

「うたちゃんともっと近付きたくて、それで見ちゃったの、ごめんなさい」
「ちゃんと謝れて偉いな、お前は」
「あ、あの、でも、うたちゃん」
「うん?」

名前をそのままベッドへ突き倒す。ぐらっと揺れる視界に驚いたのか、それとも俺の行動に驚いたのか、いや、怯えたのか、名前は目をまん丸くさせながらベッドへ背中を付ける。慌てて起き上がろうとしている名前を追い掛けるように俺が覆い被さると、名前は焦ったように笑顔を作った。

「うたちゃん、ねえ、やだようたちゃん」
「どうした?」

俺は自分が着ていたシャツを捲り、ベルトを外していく。名前の顔はみるみる真っ青になっていって、さっき拭ってやった涙がまたぽろぽろ溢れてきた。

「ねえ、やだ、うたちゃん」
「見たんだろ?」

俺が名前の顔の横へ手を付いて体重が掛からないように名前に体を重ねると、名前は無理矢理作っていた笑顔を消して途端に愚図り出した。まるで小さい子のように首を振る。

「う、うたちゃん、こんなの、おかしいよ」
「ああ、おかしいだろうなあ」
「やめてよ、うたちゃん」
「でも、見たんだろ?」

俺の言葉に何も返せずにいる名前は俺を見上げることしかできないようで、その可愛い瞳を潤ませながら俺を誘う。何年この瞳に耐えてやったと思ってんだよ、人の気も知らないで。俺は口端を釣り上げると、わざと鼻で笑うように名前を見下ろした。

「そういえばお前、俺のこと好きなんだっけ?」

好きなのは俺の方で、多分こいつより俺の方がずっとずっと先で、好きの度合いも違うなんて分かりきっていた。それでも狡くそんなことを言う。バカみたいにふるふる横に振っていた首をピタリと止めて、こくんと一度だけ頷く名前が世界で一番可愛いんじゃないかと思ってしまう。本当に誘ってる。

「でもうたちゃん、おかしいよ…」
「おかしいよ、俺は」
「あ、あんなの、読んでどうするの?」
「決まってんだろ、お前に試すんだよ」

俺は外したベルトを名前の手首に巻き付けると、手早くベッドヘッドに括り付けて強く縛った。恐怖で名前の顔が強張る。この表情、この泣き顔を何年も妄想してきた俺はそれだけで完勃ちしそうだった。名前の目からは涙が止まらない。

「俺のこと、好きなんだもんな?」



END
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爽太くんは何を読まれてしまったのでしょうか。名前様、お付き合いありがとうございました。
20161021
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