「お前それ遊ばれてね?」

思わずスマホを落としそうになった。落としちゃったらこの画面で可愛い名前をちゃんと見れなくなるから慌ててキャッチしたけど、うっかり手の力を抜いてしまうくらいの衝撃。あ、あ、遊ばれてる?おれが?名前に?

「えっ、そ、そうなの?」
「そうだろ、逆にお前はそんなワガママ放題されてて何で本気だと思うんだよ」
「え、いや、彼女の可愛いワガママ…じゃない…?」
「んなわけねえだろ!じゃあワガママ1回叱ってみろよ、そしたら捨てられるから!」

な、手っ取り早いだろ、と言ってくる友達の顔が上手く見れない。名前は俺のこと好きじゃない…?いや、名前はいつも、恥ずかしそうに俺のキスに応えてくれて、俺にくっついてきてくれて、それで、好きって……え?好きって言われてる?たまに、すごくたまに言ってくれる……そう、たまに、でも名前は恥ずかしがり屋だから、たまに言ってくれたら俺はそれで十分だし、でも、それがもし嘘だったら…?ぐるぐる不安が頭を支配する。

「じゃあ、捨てられたら名前は俺を弄んでたってことになるの…?」
「まあそうだろうな」
「なに、それ…」

名前が男を弄ぶなんて、なんて、なんて小悪魔で可愛いんだろう!そんなことしそうにないのに、もし遊んでるとしたらすごい可愛い!あ、でも相手は俺なのか……俺のこと遊んでたら、嫌だ…。テンションの波が激しくて、小悪魔な名前も可愛いと思う反面俺とは真剣に付き合っててほしいと思う気持ちがある。それを叱って確かめなきゃいけないなんて…。

「俺には、むりだよ…。名前が例え遊びでも俺は名前が好きだし、付き合っていたいし、それに名前を叱るなんて、そんなの可哀想。もしそれで泣いちゃったら…?傷ついたら?おれ、そんなの、で、できない…」
「お前はそんなんだから遊ばれるんだよ!もっと危機感持たせねえと!」
「危機感?」
「そうだよ。悔しいことに顔は良いし、一途なんだから、もっと他にも女はいるんだからなくらいの気持ちで付き合ってかねえと、」
「っ、いない!いないよ!おれ、名前としか付き合う気ないし、これから一生名前といたいし、一生なんて軽く聞こえるかもしれないけど、俺、本気で名前のことがっ、」
「あああ分かった分かった、つーか分かってるよ。でもそれを相手に分からせたらだめだろって話!男はやっぱこう、もっと危なっかしい感じがいいんだよ!」
「そ、そうなの、かな…」

じゃあもう手遅れじゃん、おれ名前に捨てないでくださいって何回か泣きついちゃってるし、もう確実にだめじゃん。思ったけど言えない。さらに言葉を続けられる。

「いいか、今日という今日は絶対に叱れよ。絶対だからな。そしてどうなったかちゃんと俺に報告してこい」
「や、やだよ、それで俺フラれちゃったら、」
「やじゃない、やるんだよ!」

そんな、強引な…。




夜7時。
今日は名前の塾がない日だから一緒にごはんを食べる。名前とごはんを食べるようになってからは、名前が俺に作ってくれたり、俺が名前に作ってあげたりで少し大変だ。料理なんて全然だめだけど名前が教えてくれるから頑張る。本当は名前の手料理をずっと食べてたいんだけどなあ。食べ終わって俺がお皿を洗い終わると、名前がソファでごろごろしながら俺を手招く。可愛い。

「ね〜浩汰、アイス食べたいね」
「え?うん」

おれは名前のことが食べたいけどね。

「わたしはね、ザクザクチョコがいいなあ……クランチバーみたいな」
「そうなんだ!買っ…」

買ってきて、あげたい。名前も絶対買ってきてほしいって言ってる。そういう言い方してる。でもパシりにされるなって今日言われたばっかだ。

「じゃあ、一緒に買いにいく?」

これならいいかな、我ながら名案!と思ったのに、名前はええ〜っと声をあげた。

「今から出掛けるのはめんどくさいよ〜。じゃあいい」
「え、で、でも、アイス食べたいんじゃ、」
「いい〜!もういらない!」

それよりテレビ見よ、と名前。めんどくさがりなところもすごく可愛い。いつもなら俺が買ってきてあげるのになあ。買ってきてあげたい…。でも我慢。

「こうたぁ、暑い。冷房下げて!」

ソファに寝転んでる名前は起き上がるのも嫌らしい。可愛い。これはワガママとかパシりとかじゃないもんね。絶対名前のが近いけど俺が立ち上がってピッと冷房のリモコンを操作してあげる。ありがと、と微笑む名前が天使で困る。本物の天使だったらどうしよう。しばらくテレビを見てると名前が眠たそうに目を擦った。テレビつまんなかったのかな?眠たい名前可愛いなあ…。

「こうた、おふろ」
「えっ、い、一緒に、入る?」
「んーん、お湯ためてきて…」
「あ、そういう…」

一緒に入りたかった。一緒に入って名前を洗ってあげて、拭いてあげて、ドライヤーしてあげて、マッサージしてあげたかった。名前は恥ずかしがって嫌がるけど、俺が世話焼きたいだけだし任せてほしいのに。スッと立ち上がってから、俺が名前ん家のお風呂入らないのにお風呂掃除してお湯ためてあげるのって、パシり?ってちょっと思った。俺はそう感じないけど、どうなのかな。でもこのくらいはただのお願いだよね。浴室へ向かうと、テレビが盛り上がってきたのか名前が小さく笑う声がする。可愛い。後で自分の部屋戻ったら今の笑顔ビデオで絶対見る。
お風呂の掃除が終わって部屋に戻ると、名前は興味津々とばかりにテレビを眺めていた。か、かわいい…!この後ろ姿たまらない。

「浩汰みてみて!この水族館!」
「水族館?」
「うんっ!ナイトショーめっちゃ綺麗……ねえ浩汰、ここ行きたい!」

そ、そっか〜!かわいい!今すぐ連れてってあげたい。今から行く?って口から出そうになるのをぐっと我慢する。水族館より家で名前見てた方が俺は幸せだけど、水族館ではしゃぐ名前はもっと可愛いんだろうな。俺生きて帰ってこれるかな。

「いいよ。名前いつ空いてる?」
「今週末!チケットとっといてよ。あ、あとホテルも!ナイトショー見たらどっか泊まって帰りたいし、次の日その周辺を観光してから帰ろうよ。浩汰プラン立てといてくれる?」

可愛い顔で、浩汰こういうの得意だよね、なんて言われたら俺もう何でもしてあげたくなっちゃう。全部俺に任せてほしい。でも、これは、ワガママに入るのかな?おれ分かんないよ、だって可愛いじゃん、全然気にならないのに!

「名前、」

それでも今日は約束しちゃった(させられちゃった)し、名前を叱らなきゃいけない日。うう、可哀想に。泣かれたら俺は死ぬ。

「こういうのはさ、ふたりで考えない?いつも俺ばっかだから名前の行きたいとこも聞きたいし…」
「え〜、わたしが行きたいのは水族館だよ、言ったじゃん。あとは浩汰が決めていいよ」
「そうじゃなくて。ふたりで出掛けるんだからふたりで決めよ?ね?」

こんなキツいこと言ったら俺捨てられる気がする…。何だか俺の方が泣きそうなんだけど、名前はめんどくさそうに首を傾げるだけ。最強に可愛い。

「浩汰どうしたの?いつもならやってくれるじゃん」
「うん、そうなんだけど、あの…いつも俺ばっかだから、こういうの良くないと思う…」

思ってないよーーー!思ってない!俺のバカ!死んだ方がマシ!ああっ、俺が変なことばっか言うから名前がため息ついた。捨てられるかな、捨てられる…かな。

「何急に、嫌なら最初から言えばいいじゃん。行きたくないならいいよ」
「えっ、いやじゃ、ないよ。俺も行きたい。でも、そうじゃなくてね、俺はふたりで決めたいんだよ。名前がもう少し俺に協力的なら嬉しいなって…」
「めんどくさい…だって浩汰が決めてくれるじゃん」

ああ、もう謝りたい。俺が悪かった。俺だって別に思ってない、プラン考えるの楽しいし名前が喜びそうなとこ探すの楽しい。でも今日は、今日だけ、名前ごめん…!

「その言い方はだめだよ、名前。めんどくさいことなら尚更俺だけに押し付けるのは違うよね?」
「はあ…」
「ちゃんと話し合って決めよう?」
「もう勝手にしなよ」

名前が怒っちゃった…。絶対怒らせた。俺はなんてことをしてしまったんだ。でも、怒ってる名前めちゃくちゃ可愛い…。

「名前、言い方がおかしいでしょ。喧嘩したいわけじゃないからそういう態度とらないで」
「うるさいなあ」
「名前…。おれも、怒るよ」

怒るわけがないーー!

「えっ…いや、べつに。怒れば?」
「名前ヤケにならないで。喧嘩腰なのもやめて」
「いちいちうるさい、別に喧嘩腰じゃない」
「勘違いならごめん、俺が悪かったよ。ごめんなさい。でも名前も言い方キツかったよね?ほら、こっち向いて」

名前の頬を手で包んでこちらを向かせる。上目遣いなのが本気で可愛い。

「こういうとき、なんて言うか分かる?」

お互いごめんなさいして、ゆっくり話し合おう。捨てられそうになったらまた泣きつくし、謝ってくれたら俺も今回のことを丁寧に謝って俺がプラン立てるの嫌じゃないことを話そう。そう思って名前を見ると、名前は頭に「?」を浮かべてる。あ、あれ、わからない、のかな。

「名前、ほら、1回でいいから」
「え、え…?」
「こういうとき、なんて言うの?」

名前はくりくりの目で俺を見つめながら、少しだけ頬を染めた。

「え、っと…?こうた、だいすき…???」
「ん゛っ…」

違う。違うけど、大正解。
思わず俺も赤面して目を逸らすと、え、なに、違った?と恥ずかしそうな名前。今すぐ押し倒してしまいたい。本当に名前は俺の、俺だけの、世界一可愛い天使だ。


この後、俺が全て計画を立てさせていただきました。


END
--------------------
初めての高橋さん視点です。
名前様、お付き合いありがとうございました。
20160820
(  )
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -