昨日京に言われたことが頭から離れなかった。俺はそれでも満足だったよ、って、あいつ風俗来て何膝枕だけで満足してんだよ。あたしだって別に何かを強要したわけじゃなくて、ただあいつと話してるのが楽しかった。そのままだって良かった。でも、じゃあここに来る意味あんのかよ。京はあんな大金持って何しにここに来てんだよ。たった2時間膝枕してもらうためだけに仕事終わってすぐここに向かって大金払ってく京があまりにも可哀想じゃんかよ。何かしてあげたいって、思っちゃうのが普通だろ。

「はあ…わけわかんねえ」

ぼそ、と呟いたら隣にいた店長が、あっそうだ〜!と大きい声を出した。びびる。

「今日からお前客取っていいよ。つーかもう予約入ってる」
「えっ、はあ?だってまだ研修、」
「いやうん、そう、そうなんだよね。だから俺も心配ではあるんだけど、お客様の反応悪かったら俺が鍛えるから研修戻りってことで…まあこっちにもいろいろあるんだわ」

店長が徐々に目を逸らしていく。何なんだよ、何か隠してやがるな。

「何で急にそんな話になったの?」
「いやっ、別にほら、人手足りないから!でもお前も稼げるようになるから良かったじゃん!まだお前の写真撮ってないから店内掲載とかサイト掲載とかして客呼び込んだりはできないけどそれも近いうち撮るし、今は予約入ってる客逃さないように頑張れよ!」
「はあ…まあいいか」

聞いても言わなそうだしな。めんどくさくて適当に返事をすると店長はにまにまあたしに笑い掛けてきた。

「聞いて喜べよー、お前の初めてのお客様は五十嵐さんだ!」

誰だそいつ。
頬杖をつきながら、あ、そう、と薄い返事をしたあたしに店長が小首を傾げる。

「あ、あれ?嬉しくないのか?」
「いや別に…まあ有り難いけどな」
「お前さっぱりしてるな…」

店長はわけがわからんという風にあたしに予約表を見せてくる。

「今夜は9時半から3時間、それまで自由にしてていいからプラグでもしゃぶって自主練しとけよ」
「アホか、しねーよ」

店長のバカみたいな冗談に付き合ってられなくて受付の椅子に腰掛けた。しとけばいいのに、五十嵐さん喜ぶぞ、なんて言ってくる店長を無視する。その後も何かいろいろ言ってたけど無視して頬杖をついた。急に働くことになってびっくりはするけど、まあいいタイミングではあるよな、このままだと昨日のことごちゃごちゃ考えてわけわからなくなるし、えろいことして頭真っ白にしたい。京の悲しそうな顔が一瞬頭に浮かんだけど、あたしはそれを振りきるように首を振ってなるべく京のことを考えないようにした。



****



9時半。
今日は店長が客と少し話してから案内したいから先に部屋入っててって言われて部屋のベッドで待機してた。その間にも手順書を熟読しとけよ〜なんて何回も言われて、必要ないとは思ってるけど一応それに目を通す。ふーん、本番禁止って2枚目に書いてあったわ。その他にも、跡をつけられるようなプレイは控えることとか、流血系のプレイ(暴力とか針とか書いてあった)を控えることとかいろいろ書いてあった。全部覚えられるかな。
ふむふむと読み進めているとやっとドアの方からガチャッと音がした。

「ん、お」

手順書から顔を上げてそちらを見ると、紺色のスーツを着た男が立っていた。何だかよく見覚えのある顔で、頭が必死に処理しようとぐるぐる回る。

「お…?」
「こんばんは。どうしたの、そんな顔して?」
「け、けい?」

京は鞄をソファに置くといつものようにジャケットを脱いでネクタイを外した。涼しい顔であたしを見つめてる。

「あんた、何で…!?」
「もう来ないなんて言ってないだろ?それとも嫌だった?」
「いや、別にあたしは…っ」

喉が締まってそれ以上声が出せなかった。何だか目頭が熱くて、自分が泣きそうになってることに気づく。もう来ないんじゃないかって、呆れられたんじゃないかって、幻滅されたんじゃないかって、そう思ってたから。

「そっか、そういやあんた五十嵐って名字だったな…」

ぼそっと呟いたら、そうだよ、と京が微笑んだ。それからゆっくりこっちに歩いてくるからいつもの体勢に入ろうと思ってあたしはベッドに深く腰掛ける。

「ほら、」
「名前」

京の大きな手があたしの頭にぽんと置かれた。

「シャワー浴びてくる 」
「は、?」
「名前は浴びなくてもいいから、待ってて」

京の手が離れて、背を向けられた。シャワー、浴びる?は?どういうこと?処理が追い付かない頭を必死に回してるうちに京はベッドルームを出てってしまった。奥から微かにシャワーの音が聞こえる。

「は…?すんの?」

小さく漏れた自分の言葉に、誰も返事はくれなかった。

数分間シャワーの音を聞いてぼーっとする。あれやこれや疑問はあったけど考える気になれなくて、つーか昨日から京のことばっか考えててムカつくから何も考えたくなかった。わけわかんねえことばっかするからいつもあたしはあんな奴のことを考えてなきゃならない。なんて腹立たしい。あんな奴のことで悩みたくねえのにさ。

「名前いる?」

ガウンを羽織った京がひょっこり顔を出す。いるよ、とベッドの上で寝返りをうつと、京はバスタオルをそのへんに置いてため息をついた。

「逃げなかったんだ」
「何で?仕事だろ」
「…そうだな。嫌じゃないの?」
「嫌じゃないよ」

体を起こすと京がこっちに来てベッドに腰掛けた。あたしの髪を手で梳くように撫でて目を細める。苦しそうで、悔しそうな、そんな表情をしてた。

「京?」

名前を呼ぶと京はあたしから目を逸らしながらガウンの紐を解いていった。スーツ姿からはちょっと予想できなかった、結構筋肉質な体が露になる。

「じゃあしよっか」
「けい…、」
「軽く抜いてくれるだけでいいから」

何で急にこんなこと、と思ったけど、京は何も答えてくれなそうだったから諦めた。相変わらず視線は合わないし仕方ない。京の足の間にしゃがむ。

「んじゃ失礼します」

まだ勃ってない京のモノを口の中に入れて舌の上で転がした。頬の内側で包みながら舌で刺激していくとむくむくと大きくなっていく、けど、すげえ違和感を感じてそれをゆっくり口の中から出していった。んん、んんん?

「ふ、あ……でか…」

なんじゃこりゃ、見たことねえ…。ずる剥けちんこはそれなりの角度で反り勃ってて血管がビキビキ浮き出てた。口の中全部入れるの大変そうだな、なんて思いながら根本に手を添えて先っぽを舌で刺激する。そのときに垂れてくる唾液をそのまま垂らして全体に伝うように手で扱いた。唾液がローション代わりになってぬるぬる動く。

「っ…」

ぬるぬる扱きながら舌で亀頭全体を嬲ってると京の息が少しずつ乱れてきた。手のひらで裏筋を押したり、雁の部分を指で摘まむようにしてこりこりしたり、また手を丸めて扱いたり、いろんなところを探って京のイイトコを見極めていく。亀頭とかは痛がるひともいるけど京は気持ち良さそうに眉を歪めるから多分大丈夫、かな。ある程度唾液でぐちゅぐちゅになると動かす度に派手な水音が立ってすげええろい。ぬるぬるのくせにガチガチに硬いちんこが唾液で光ってて、思わず喉が鳴った。

「は、ぁ」

口を開けて舌を突き出す。なるべく唇から力を抜いて、舌は裏筋を擦れるように平たくしておいた。上顎に掠めるように中に入れていくと反り勃ったモノがそこにゴリッと引っ掛かって少し気持ちいい。それより奥に突っ込みながら京の内腿をやわやわと触る。

「、ふ…」

京の気持ち良さそうな吐息。いつもこんなことしてないからか何だかいけないことをしている気分になってきた。喉奥に少し力を入れて締め、下に下げるような意識でモノを締め付ける。その間も口の中は力を抜いていて舌は固くさせない。それをゆっくり前後に動かして深めにストロークしていった。

「んっ、んん…」

今までしてきた奴らよりでかいから鼻から声が漏れた。苦しくないわけじゃないけど、燃える。内腿を触りながらぐっちぐっち頭を動かすと京の内腿がひくんと揺れ出した。感じてくれてる。そのまま喉を狭めて喉奥で扱き続けて様子を見た。

「…っ、…」

京は全く声を出さない。あたしに触ってくることもなく両手をベッドについて眉を歪めていた。静かに響く息遣いだけがどんどん早くなっていって、腰が僅かに震えてる。別に好きに動けばいいのに。亀頭を喉の壁にしつこく擦りつけながら裏を舌で愛撫してたら、京がびくっと腰を跳ねさせた。

「は…っ、く」

京の色っぽい声が漏れる。すると、間も無くびゅるるる…と京が射精するのを喉奥で感じた。う、わすっげえ量…、どんだけ溜めてたんだよ。口の中いっぱいに広がる熱い精子に眉を顰めて京のモノを出す。ティッシュを手に取ろうとすると京が息を乱しながらあたしの顎をぐいっと持ち上げた。

「飲んで」

はあ?飲んで?京ってそういう趣味があったのかよ。京に顎を擽られ、促されるように喉を鳴らす。粘っこい精子が張り付きながら、ごく、と喉が動いて、それが飲み干されたと分かった。京がじっとこちらを見つめるから緊張して感覚がよく分からなかったけど、飲んだと理解した京がまた眉間に皺を寄せて泣きそうな顔をする。

「飲んだんだ」
「…何だよ、あんたが飲めって言ったんだろ」

ムッとして言い返すと京はますます眉間の皺を深くする。あたしの手首を掴んで急に自分の方へ引き寄せた。おわ、と声が出ると同時にベッドの上へ抱き上げられる。

「に、すんだよっ」

荒々しく、すげえ力でベッドに押さえつけられた。まさか京にこんな乱暴に押し倒されるなんて思ってなかったからびっくりして京を見上げると、京が眉を歪めたまま口許だけ無理矢理引き伸ばしてにやりと笑って見せる。

「次は名前にしてやるよ」

一瞬声が出なかった。京の目が恐ろしく冷たくて、いつも穏やかな京が本気で怒ってるのが分かって、わけがわからなくてどうしようもなかった。京があたしの服を強引に捲って足の間に膝を割り込ませる。

「や、め…っ」

怖くなって抵抗すると、京はあたしの手首を強く握ってあたしの頭上に束ね上げる。ギリギリ力が加わっててすごく痛くて、京がこんな力があったなんて知らなかったし知りたくもなかった。優しくあたしの頭を撫でてくれてた大きくてあったかいあの手で、こんなに無理矢理あたしを犯そうとしてる。言葉が出てこなくて歯がガチガチ鳴った。こいつは、あたしが知ってる京じゃない。

「やめ、ろよ……京…」
「何で?仕事なんだろ?客の要求は聞けよ」
「いやだ……やめ、ろ……」

声が震えて上手く話せない。手も震えてきて、恐怖に縛られたように体が動かない。優しくて可愛かった京がこんな冷たい目であたしを見下ろして、何でも笑って受け入れてくれた京がまるであたしを突き放してるみたいで、もう京にはあたしの声が届かないみたいで怖かった。あんなに楽しく喋ってたのに、京はもうあたしなんかどうでもいいみたいで、それがすげえ怖くて動けない。京はそれでもあたしの上から退かない。

「客は俺だけじゃないんだよ。名前に酷いことを要求する客もたくさんいると思う。それなのに名前は、何でここで働こうとするんだよ」

京があたしから手を離すと、手首が真っ赤になってた。ゆっくりあたしから体を退けて、ベッドサイドにいつものように座る。わけがわからなくて眺めていたら、京があたしを振り返って優しく微笑んでくれた。

「おいで、名前」

返事ができなかった。慌てて起き上がって京の隣にいくとゆっくり体を倒されて京の膝に頭を押し付けられる。いつもあたしに膝枕をせがむくせに今日は逆で、初めての膝枕に戸惑って、あたしは京のガウンを握った。

「ごめんね」

京の声が優しくて、何でか分からないけどあたしの目からはぼろぼろ涙が出てきた。それをあやすように京があたしの頭を撫でる。さっきの京はもういなくていつもの優しくて穏やかな京。またあたしを受け入れてくれるみたいにあったかい手で撫でてくれる。

「け、けい……けい…っ」

京は返事をしなかった。にこ、と暖かく微笑んでくれて頭を撫でるだけ、それ以上何もしてこないし何も言わない。それだけで情けないくらいに涙が止まらなくて、京はあたしが泣き止むまで、というか泣き止んでもずっと髪を触っててくれた。安心する。

タイマーが鳴る時間がくるまで京はあたしに何も言ってこなかった。


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京さんは名前ちゃんに考えてみてほしいみたいですね。
20160727
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