「あ、酒井さん」

見覚えのある後ろ姿に駆け寄ると、少し緊張が解けた様子の男性が振り返ってわたしに笑みを溢す。

「ああ苗字さん、お疲れさま」
「お疲れさまです。今日は少しばたつきましたよね、大丈夫でしたか?」
「ははは、照明の不調には焦ったよ…。そういえば結兎くん、今日もすごい輝いてたね」
「ありがとうございます!」

結兎くんはわたしがマネージャーとしてついてる高校生アイドル。華奢な体に中性的な顔、それでいてセクシーが売りの今活躍中の結斗くんのことだった。活動名は“結兎”だけど本名も漢字違いの“結斗”だからわたしは結兎くんって呼ばせてもらってる。酒井さんはこうして定期的に結兎くんのことを褒めてくれるからわたしにもやる気が出るなあ。

「あれだけかっこいいといろんな番組に引っ張り凧でしょう?」
「ええ、お陰様で」
「若いのに大変だね、彼もだけど苗字さんも。息抜きできてる?」
「ああはい、大丈夫ですよ!わたしも結兎くんに負けてられないです!」
「元気があっていいねえ。俺で良ければいつでも付き合うから、またご飯でも行こうよ」
「ありがとうございます、じゃあまた今度お願いしますね」

ひらひら、と手を振る酒井さんにお辞儀をしてわたしは楽屋へと向かった。収録が終わって結兎くんは今お疲れモードなんだろうなあ。今週はたくさんお仕事詰め込んじゃったからそろそろ疲れが溜まってくる頃だろうし、明日を乗り越えたら久しぶりにオフが取れそうだからそれまで頑張ってもらおう。マッサージでもしてあげようかなあ。結兎くんのことを考えながら歩けばもう楽屋は目の前、ドアをノックしたけど返事はない。まあいつものことだからそのままドアを開ける。

「結兎くん?」

しーん。中には誰もいなかった。なんだ、お疲れかと思ってたのにまたどこかへ遊びにいったのかな。これから帰るだけだから結兎くんがいないと時間を持て余す。あっちへうろうろこっちへうろうろ楽屋内を往復した。とりあえず座ってお茶でも飲んでようとわたしはやっと椅子に座ってバッグからペットボトルを取り出したら、そこでガチャッと楽屋のドアが開いた。

「あ、結兎くん!」

わたしが立ち上がると結兎くんはジロッとこっちを睨むように目を動かす。え、え、不機嫌?わたしが焦ったのも数瞬、結兎くんはニコッとわたしに笑いかけた。

「名前さん、ここにいたんだね」

アイドルにキラキラの笑顔を生で見せられるものだからわたしはドキッと心臓を鳴らして頷くことしかできない。は、はい、なんて喉のどこから絞り出してきたのか分からないような細い声が出た。

「結兎くんこそ、どこ行ってたの?」
「ひみつ。帰ろ、名前さん」

楽屋に置いてあった荷物をスッと持ち上げて結兎くんが急かすようにわたしを見た。急いでペットボトルをバッグにしまう。

「う、うん!車回すから待ってて!」

うん、と微笑む結兎くんの甘い笑顔に蕩けそうになりながらわたしは慌ただしく楽屋を飛び出した。



****



ガチャン、と背後で冷たい音がした。初めて会ったときより随分背が伸びた結兎くんがわたしを睨み付けながら見下ろしてくる。先程の笑顔はどこへやら、穏やかでない結兎くんはわたしの顔の横にトンと手をついてわたしを追い詰めた。

「ど、どうしたの結兎くん」
「べつに、鍵をかけただけだよ」
「そっかあ、わ、わたし邪魔じゃないかなあ」
「そんなことないよ、気にしないで」

結兎くんがわたしに顔を近付ける。綺麗な肌が、くりくりの目が、長い睫毛が、ぷっくりした唇が、近付いてくる。

「ゆいと、くん」

ギクッとした。久しぶりに俺の家に寄ってくださいよなんて言われて何の疑問も持たずについてきてしまったのがそもそもの間違いで、疲れていた結兎くんをきちんと1人にして休ませれば良かった。あわあわと焦るわたしを眺めていた結兎くんの大きな目がスッと細められる。

「あんたさあ、ほんとどこ行ってたんだよ」

いつもの結兎くんらしくない口調と声のトーンにびくっと肩を揺らす。地を這うような低い声で結兎くんの機嫌がどうなっているかは十分理解した。

「どこって、」
「収録終わったら真っ直ぐ楽屋帰ってこいって言ってんだよ。酒井に口説かれやがって、やっぱあんたあいつとデキてんの?」

結兎くんの目が冷たい。きっと結兎くんは疲れてるから早く帰ってきたかったんだよね、なのにわたしがふらふら挨拶回りなんかしてるから、それで怒ってるんだ。ごめんなさいって言おうと思って口を開けたら、言葉を出すより先に結兎くんが噛み付くようにキスをしてきた。というか、噛み付かれてる。

「いっ…たあ」
「ほら、口閉じんな」

下唇を強く噛まれて顔を反らすと結兎くんが苛々した様子でわたしの顎を引っ掴む。結兎くんの舌が口の中に入ってきて、熱を擦り込むように犯された。

「ん、むう…っ」

上を向かされたままのキスに息継ぎが上手くいかなくて苦しい。荒々しいはずのキスなのに強くしゃぶられて噛まれて、ちょっと気持ちいいなんて思ってるわたしはどうかしてる。ずり下がるようにバッグが落ちて、続いて腰まで抜かしそうなわたしの体を結兎くんが抱き寄せた。男性にしては細いくせに、なんて力強いんだろう。

「っはあ、ゆ、んん」

結兎くんの胸板を押してみてもびくともしない。ああ、されちゃうのかなあ、なんてどこか冷静に考えられるのは結兎くんにこういうことをされるのが初めてじゃないからだと思う。わたしがマネージャーになってすぐ結兎くんはこうして無理矢理わたしを犯した。抵抗しようとしたわたしに「じゃあそのへんの女とヤッて報道でもされたらあんたがどうにかできんの?」と一言言って、わたしで性欲処理をしてきたのだ。頻繁にあるわけじゃなくて結兎くんの機嫌が悪いときにたまにする程度、ここ数ヶ月は触ってもこなかったからもう飽きたのかと思ってたのに。

「…場所変える」

結兎くんが濡れた唇で吐息を漏らす。さすがはセクシー担当してるアイドルなだけあって色気がすごい。うっとりしそうなわたしを結兎くんがひょいっと抱き抱えて、お互いの荷物を玄関に置きっぱなしにしたまま結兎くんはわたしを横抱きにして運んでいった。予想はしてたけど当たり前のように寝室に向かう結兎くん。突き飛ばすようにベッドに降ろされ、わたしが文句を言う前に結兎くんが覆い被さってきた。

「ゆい、っ…ん」
「は…む、ん」

ちゅ、ちゅう、と濡れた音を立てながら唇を弄ばれ、また結兎くんに翻弄されていく。結兎くんの手がわたしのシャツに伸びて、舌を動かしながらボタンを外す彼は本当に器用だ。

「あ…っ、ん」

あっという間に下着も取られていて、結兎くんの指がわたしの乳首を押し潰す。ぴくっと体を捩るわたしを見て結兎くんは嘲笑うように口元を歪めた。

「ハッ、何、感じるの?」
「あ、う……やぁ…っ」
「感度いいじゃん」

指の腹で撫でるように触れられていたかと思えば今度は爪でカリカリ引っ掻かれる。小刻みに繰り返されるとどうしようもなく腰が浮いて快感に抗えなくなってくる。これじゃあ無理矢理抱かれてるなんて言えない。

「あんたこんなに感じたっけ?」
「あ、あ、っんあ…」
「答えろよ」

結兎くんの指が乳首を摘まんで引っ張る。痛いくらいの刺激が全部気持ちいいに変換されて脳に届くから答えることもできない。いやいやと首を振るけど結兎くんはやめてくれそうになかった。

「ああ、もしかして酒井に教えてもらった?ここでこんなに感じられるようになって良かったじゃん」
「や、あ…っちがっ」
「って言っても、他の男で覚えた性感で俺によがりまくってちゃざまぁねえな?」

酒井さんとはそんな関係じゃないのに結兎くんは誤解してるようにわたしを責める。確かに結兎くんと初めてシたときにはそこまで感じなかったけど、あれから無理矢理されたことを思い出してひとりでシてたら感じるようになっちゃったなんて口が裂けても言えないからわたしは黙り込んだ。ちがう、ちがう、と首を振っても結兎くんは信じてくれない。

「真っ赤に腫らして、俺のこと誘ってんだろ」

結兎くんが乳首を強く噛んだ。びくん、なんて大袈裟に腰が浮いた後快感で目をチカチカさせる。こんなに気持ちいいのは初めてで、ここでこんなに感じるようになってしまったのは結兎くんが原因だ。はしたなく結兎くんに押し付けるように胸を突き出して、与えられたまま快感を受け入れる。

「あ、あっ…、あ、や、あ」
「嫌なら嫌って反応しろよ」

べろべろ舐め回して唾液を垂らすと下品な音を立ててそれを吸う結兎くん。何度も何度も繰り返されると頭がおかしくなりそう。結兎くんの手がするするわたしのお腹、おへそを撫でて、ショーツを脱がした。慣れた手つきでわたしの太股をなぞる。

「もしかしてこっちも教え込まれてんの?」
「は、ぁう…っ」

もうびしょびしょに濡らしてるのは自覚があった、でも、そんな言い方しなくてもいいのに結兎くんは吐き捨てるようにそう言ってわたしの脚を開かせる。自分でも分かるくらいシーツが濡れていて恥ずかしくて消えたかった。結兎くんが自分の指を舐めながら、なあ、と言葉を投げてくる。

「酒井って前戯ねちっこいだろ?あいつしつこそうだもんな」
「ひ、あ…っあっ」
「こここうやって、何十分も擦られんの?なあ?」

結兎くんが舐めた指をぐぷぐぷ中に埋めて感触を確かめるように内壁を擦る。ぬるついた壁は結兎くんの指をしゃぶるように動いて素直に彼を誘っていた。結兎くんの指がお腹側の壁をぬるん、ぬるんとゆっくりなぞる。

「あっ、あぁん、あ!あ、っ」
「ほらオイ、その男のとどっちがいいんだよ」

骨張った指が壁を叩くように指が曲げられた。背中が反るように体をくねらせるけど快感は逃げてくれない。

「あっあっ、ああぁあ、っん!やあっ!」
「答えろって」
「やぁあ…っ!あ、だめ、ぇ、ああんっ!」

答えられないのを分かってて結兎くんが中を抉る。気持ちよくてどうしようもない膣内を責めるように掻き混ぜられて中から粘着質な水音がぐっちゅぐっちゅと部屋に響いた。どんな男でも感じるんだな、と言われているみたいで思わず耳を塞ぐ。

「あ、あ、ひあ、ゆい、ん、あ」
「もうぶちこんで欲しい?男が欲しくてたまんねえって?」

結兎くんは中から指を引き抜き、てらてらに濡れたそれを舐め啜る。欲情を表すにおいがして、自分がそんなに厭らしい体になっていたなんて認めたくなかった。結兎くんがパンツのチャックを下げる。

「あ、あ…、ゆいとく、ん」
「なぁに名前さん、怖くなっちゃった?ごめんね」

結兎くんがふわっと笑う。突然されるアイドルスマイルにドキッとした瞬間、結兎くんがわたしの中にゆっくり入ってきた。散々中を弄られた後だからすぐにでもイッちゃいそう。

「っ…く、脚閉じんな、」
「あ、ごめっひ」
「はー…、うご、く」

結兎くんのモノが根本まで埋まったと思ったから未練なく入り口付近まで抜かれてしまう。それをまた押し込んできてゆっくりゆっくり中を慣らしてくれた。カメラの前の結兎くんはいつも笑っていて、中性的な顔が可愛くて、お人形さんみたいに綺麗で、なのにどうして目の前の結兎くんはこんなにも男らしいんだろう。額に玉になった汗を滲ませながらギラついた目でわたしを見下ろしている。結兎くんのモノが1番奥に届いて、わたしはギョッとした。

「…当たり。子宮下りてきてんじゃん」

ニィッと笑う結兎くんが悪戯っ子のようで、そんな可愛い笑顔のまま可愛くない腰の動き、抉るように子宮口を擦る。

「んあっ、あ!あ!や、やらぁっ、ひんっあ!」
「男を知ってるあんたなら分かるだろ?ここが1番イイトコだって」
「あ、やあっあ、ああ…っ!あ!」
「なああんた、他の男にも子宮下ろしちゃうの?酒井にもこうして可愛がってもらったんだ?」
「ひっちがっ、してな、ああっあん!あ!」
「ふうん、どうだか」

抜き差しするんじゃなくて腰を回すように遣ってグラインドさせるから悲鳴のような声しか出てこない。1番気持ちいいところをピンポイントで転がされる。入り口が結兎くんのモノでこりこり刺激されている。

「あっ、ああっ、あ…っ!ああぁあ、ああっ!」

びくんびくん。派手に背中が反れて内腿が痙攣する。快感に頭を真っ白にさせながらイくと、結兎くんが待ってましたとばかりにわたしの腰を両手で掴んで今度は上下にストロークする動きに切り替えてきた。ガンガン無遠慮に突かれるからイッてる最中なのに舌を突き出して酸素を求めるしかない。

「あっ、ああぁっ!ゆひ、とくん、いってう、わたっあん!わたひ、いってうう…っ!」
「知ってる…っ、あんたの中、すげえ締まってて、きもちいよっ」
「ああ、あ、うあ、ん、あん」

結兎くんの手が乱暴にわたしの髪を撫でた。高校生のくせに大きくて、ごつごつしてて、あったかい手。結兎くんの眉が歪む。

「あ、出そ…っ、そのまま締めてな…!」
「んんっ、ん…っあ、あ、あぁあっあっ…っ!」

びゅる、る、るるう…。結兎くんの精液が勢い良く中に出される。熱い汁が広がっていって、中が満たされていくのが分かった。気持ち良さそうに緩く腰を振って最後まで出した結兎くんはわたしに濡れた音を立ててキスをし、わたしの中から出ていった。

「は、あ、あん…ん…」

どこにも触れられてないのに啜り泣くような声が出てしまう。あそこを責められた後はいつもこうなるのに結兎くんはこのツラさを分かってくれない。わたしの隣に寝転んで、わたしの髪の束を掴んで遊ぶ。

「ゆいとくん…」

小さく名前を呼ぶと「ん?」と優しい声が返ってきた。多少は申し訳なく思ってくれてるのか、眉が下がっている。わたしは結兎くんの頬へ手を伸ばした。

「明日は朝から、撮影だけど、起きられるの?」
「…」
「…結兎くん?」
「大丈夫だよ。俺朝強いし、名前さんに迷惑かけないようにするから」

結兎くんの優しい声と穏やかな口調、アイドルの結兎くんが返ってきた気がして嬉しくなる。わたしが口元を緩めているのに気付いた結兎くんが微笑みをくれた。

「名前さん、お風呂入ろう。俺お湯溜めてくるから」
「うん、じゃあお願いします」

結兎くんは満足そうに頷いてから起き上がって浴室へ行ってしまった。また性欲処理をさせられちゃったけど、これにも慣れていかなきゃなあ。

「結兎くん、機嫌直って良かったな…」

ぼそっと呟いたのを最後に、どっと疲労感が出てきて瞼が重たくなる。そういえば昨日3時間しか寝てなかったなあ。ふわふわとまだ揺さぶられてるような感覚の中、わたしは睡魔に負けてそっと目を閉じた。


END
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男子高校生アイドルという性癖です。名前様、お付き合いありがとうございました。
20160630
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