「ほんっと意味分かんない!」

乱暴に投げられたシャーペンが飛んでいくのを見て高橋さんはごくりと唾を飲みました。ここ数日名前ちゃんは英語の勉強に取り組んでいたのですが他の教科と比べれば苛々することが多いようです。高橋さんは、いいなあ、俺も乱暴に扱われたいなあ、なんて思いながら名前ちゃんにそっと寄り添います。

「名前、落ち着いて」
「何でこんなに覚えること多いわけ!?」
「英語はこつこつやらないと差がついちゃうからね…でも単語力を身に付けたらだいぶ楽になるよ」
「わたし暗記は苦手なの!だからずっと避けてたのに…」

避けてた?と高橋さんは首を傾げます。確かに名前ちゃんが英語を勉強していることはほぼ見かけたことがありませんでした。名前ちゃんは高校3年生、ここまで本当に英語を避けていたとしたら受験で痛い目を見るのは間違いありません。高橋さんは恐る恐る名前ちゃんのノートを覗きます。

「な、なるほど…」

基礎からやり直しているのがよく分かりました。高橋さんは名前ちゃんを落ち着かせるように頭を撫で撫でして、それから投げられたシャーペンを拾ってあげます。

「少しずつやってこう。onを使う言葉を覚えてるんだね。英語って身近なもので例えていくとすごい覚えやすいんだよ」
「身近なもの…?」

高橋さんは名前ちゃんのノートをとんとんと指で差します。

「例えばこれ。get on俺にすると、俺に乗るって意味になる!毎日乗ってるから想像しやすいでしょ?」
「…」
「…」

名前ちゃんがじろりと睨みますが高橋さんはきょとんとしていました。何か間違ったことをいいましたか、みたいな顔をして名前ちゃんを見つめるので何も言えません。

「ほ、他にもあるよ、俺じゃなくてもさあ、」
「何?」
「ほらこれ、put onは身に付けるって意味なんだけど、put on体重で体重が増えるって意味になるんだよ。体重を身に付けるってことだからね」
「え」

名前ちゃんは短く言葉を落とした後に俯き、黙ってしまいました。高橋さんは焦ります。

「え、ど、どうしたの名前」
「…るさい」
「えっ」
「うるさい!体重増えたからってからかわないで!」
「えっっ」

急に名前ちゃんが声を張るので高橋さんは目をしぱしぱさせました。どうやらデリケートな話題だったようです。おいしいおいしいと頬張る名前ちゃん見たさにここ数日ドーナツやケーキを買い与えていた高橋さんですが、その裏で名前ちゃんは苦しんでいたようなのです。そんなことも知らない高橋さんは焦りました。

「名前、あ、あの、ごめん、そういう意味で言ったんじゃないよ、」
「いいよ、どうせ太ったよ、毎日乗られてるから気づいたんでしょっ」
「名前…」

高橋さんはびっくりしました。怒っている名前ちゃんはとても可愛いことに気づいたのです。ここで可愛いなんて言ってしまえばさらにからかってると思われて許してもらえなくなるのが想像できているので口が裂けても言えませんが、自分に対してぷりぷり怒る名前ちゃんが可愛くて仕方ありません。

「ねえ、ごめんね、名前が太ったなんて思ってないし、というか細いし、増えても俺は嫌じゃないよ、ね?どんな名前も大好きだから、好き、名前すきだよ、ごめんね、大好き」

高橋さんはぎゅうっと抱きつきながら名前ちゃんの頭を撫でます。どんな名前でも本当に俺にとって天使なんだよ、怒ってる名前も可愛い、もっと俺のこと怒っていいよ。言ったら殺されそうなことも心の中ですらすら唱えます。名前ちゃんは高橋さんの背中にそっと手を回しました。

「ほ、ほんと…?」
「うんほんと。俺の上来て?」

言い終わるより先に高橋さんは名前ちゃんの腰を掴んでひょいっと持ち上げると、いつものように自分の膝の上に名前ちゃんを乗せました。名前が少しだけ恥ずかしそうに視線を揺らします。

「こ、こうた、重くない?大丈夫?」

わたわたと不安そうに顔を覗き込む名前ちゃんに、高橋さんは暴力的なときめきを感じて目眩がしました。名前ちゃんの腕が高橋さんの首に回ります。

「浩汰…?」
「ごめん…ほんとごめん、もうだめだ…」

高橋さんは名前ちゃんの頬を両手で包み、唇を食べるようにしゃぶりつきました。びっくりした名前ちゃんは目を見開きますが、そんな反応も可愛いです。高橋さんはべろの先をちろちろ舐めて名前ちゃんの背骨を指でツツゥとなぞりました。

「んはっ、ん!」

高橋さんは熱の籠った目で名前ちゃんを見上げます。

「I want to make love to you.」

切羽詰まったような高橋さんを見て名前ちゃんはにやりと笑いながら高橋さんの耳の裏を優しく撫でました。

「…I'm horny.」


END
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「よく知ってたね名前」「るっさい!」って言われますよね。英語苦手な子は英語で返しませんよね。言わせたかっただけです。名前様、お付き合いありがとうございました。
20160608
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