俺、天野には好きな子がいる。同じクラスの苗字名前。席は離れているからまともに話したことなんか数回しかないけど、すげえ好き。苗字は可愛くて優しくて俺の癒し。見てるだけで和むしなんか守ってやりたくなるっつーか。いつも頑張ってるところとか尊敬してるけど。今日も苗字のこと見てたら1日が終わった。見てて飽きないなぁ、授業中の寝顔も可愛いし。




放課後。
玄関に行くと生徒がたまっていた。何やってんだろ。俺も玄関出たら納得。急に雨降ってきたんだ。傘持ってきてねーよ。やられた。

「どうすっかな…」

ぼそっと呟いたら、隣で赤い水玉傘を広げようとしていた女子がこてんと首を傾げたのが視界に映った。誰だ。そっちを向いたら、なんと、苗字が俺のほうを見ていた!

「天野くん?」
「わ、苗字!」
「傘、ないの?」

苗字は本当に可愛い。行動仕草が小動物みたい。とてとてと俺に近づいてきながらそう聞いてきた。あれ、何この雰囲気。

「んー、持ってきてねぇ」

俺がそう答えたら苗字は何かを考えるようにちょっとだけ視線を上に飛ばした。俺は期待に胸を膨らませる。もしかして、もしかする?

「うーん…、濡れたら風邪引いちゃうよね。良かったら入る?」

ビンゴ…!!!神様ありがとう。苗字のこういう優しいところ、本気で好き。




「傘、ありがとうな」

とりあえず俺ん家まで送ってくれるって言うから全力で断ったんだけど、苗字は意外と強引で、大丈夫だからで押し切ってきたから素直に家まで送ってもらってる、なう。でも会話ないから気まずくて、ちょっとでも会話をしたくて、俺から口を開いた。

「ううん。天気予報で降るって言ってたから一応持ってきたんだ。役に立てて良かった」

優しくて可愛い声。ほわほわする。俺超幸せ。

「そうだったんだ。俺天気予報とか全然見ねぇからなー」
「だったらちゃんと置き傘持ってきなさい!私達受験生は風邪引いたら大変でしょ」
「はーい」

あー、幸せ。あの苗字が俺に説教なんて。苗字は意外といろいろ説教をしてくるタイプだ。この間知ったばっかだけど、まさか俺にまで。嬉しい。家着くまでこんな幸せな時間を過ごせるなんて、俺ツイてる。

「あ」

苗字が短く声を発した。なんだなんだ。俺は苗字のほうを見る。近すぎてびびって、肩がぶつかった。苗字がちょっとだけよろけながらごめんねって言ってきたから俺も謝った。可愛い。

「どうした?」
「えぇっと…うーん、やっぱり私帰る」
「えっ?」

俺はショックを受けた。何で。俺といて楽しくなかった?俺のこときらい?原因が分からない。ちょっと待てよ。

「でも、傘は?」

こんなの何の引き止めにもならないけど一応言う。そしたら苗字は「明日返してくれたらいいからこのまま持ってって」だって。自分が濡れてまで俺といたくないのか?それとも何か急用を思い出した?何だ?分からない。引き止めたい。せっかく苗字と2人っきりなのに、どうしよう、引き止められない。

「苗字」

焦って名前を呼んだ。苗字も俺のほうを向く。やばい、どうしよう、言葉を繋げ俺。何でもいいから言葉を。

「…俺、お前のことが好きだ!」

ぎゃああああ違う!そんなことで繋ぐなよ俺!苗字がびっくりしたみたいに目を見開いている。そりゃそうだ。俺ばかすぎる。

「あ、えっと、その」
「あ、あまのくん」

テンパる俺に、苗字もテンパってる。こんな状況で言うことじゃないけどかなり可愛い。苗字はおろおろしてから俺の顔を覗き込む。

「わ、私、天野くんと付き合えないよ…?」
「な、何で?」

やっぱり俺のこときらい?
そう聞こうと思ってたら苗字がくるっと背を向けた。そして、曲がり角に向かって一言。

「浩汰、出てきなさい」
「む、むりぃ…」

苗字の言葉に誰かが答える。何なんだ!?誰かがいることは分かったけど、何!?苗字はなおも続ける。

「無理じゃないでしょ、ずっといたくせに」
「だ、だって、おれ、」

ぽかんとしてる俺をそっちのけでやり取りする2人。苗字がちょっと声を荒げたら男がびくびくしながら曲がり角から出てきた。うわあ、でかい、そしていけめん……でも、涙目?

「ごめんね天野くん、こんなんだけど、これ私の彼氏」
「彼氏!?」

こっちに来た男を叩きながら苗字は言った。苗字、彼氏いたのか?このいけめんが彼氏?でも、彼氏がこんな頼りないやつ?

「ほらぁ、浩汰も挨拶しなさい」
「え、う、でも…」
「でもじゃない!」
「えっと、名前の元ストーカーです…浩汰です」
「今もストーカーじゃん」
「名前がやめろって言ったからもうしてないよ…」
「じゃあ何で今日いるの」
「雨降ってたから傘持ってきてあげようと思っただけだよ、怒んないで…」

俺なんかいないみたいに2人で話し出した。何だこれ、何でストーカーと付き合ってんだよ苗字。俺、どうしたら。

「あの、ちょっといいですか」

俺は口を挟んだ。

「苗字は、この人のこと、好きなの?」

苗字は彼氏をちらっと見た。彼氏は今にも泣きそうだ。情けない顔しないの、と苗字は彼氏をまた叩いてから俺を見た。

「まあ、それなりに。だから天野くんとは付き合えないよ」
「それなり、に…」

苗字は彼氏に、ちょっと離れたところにいてと一言言った。彼氏は戸惑いながら離れていった。苗字はちょっと声を小さくした。

「浩汰は、すごく気持ち悪いし、情けないし、かっこわるいけど、私のことすごく愛してくれるの。私も浩汰のこと、すごく、好き、だし、浩汰以外の人は考えられないっていうか…ね」

苗字の顔は真っ赤だった。本人に言うわけでもないのに、何でそんな照れてんだ。あぁそうか、苗字本気であいつのこと愛してんだ。

「…分かった」

俺は精一杯の笑顔を見せた。

「急に変なこと言ってごめんな。彼氏とお幸せに」
「天野くん…」

苗字はふわりと笑顔を見せた。

「ごめんね。気持ちを教えてくれてありがとう。これからもよろしくね」

俺の大好きな笑顔。付き合えることはないけど、苗字の言葉に救われた。友達でいていいのか。苗字、本当に優しい。
苗字は俺に傘を押し付けて、彼氏のところへ走っていった。あーあ、行っちゃった。まあ、いっか。

「あー!?浩汰何泣いてんの!?」
「え、う、だって、名前に捨てられちゃうかと思ってぇ…」
「そんな気持ち悪い顔してたら本当に捨てるよ」
「ひぅ、ひどい…っ」

そんな会話が聞こえてきたけど、俺は自分の家の方向へ進んでいく。また明日会えるし、家帰ってから明日のこと考えよう。

でも、あの彼氏、頭大丈夫かな。

END
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やっぱり高橋さんは情けない男です。主は密かにモテてて高橋さんを毎回不安にさせてたら楽しいです。名前様、お付き合いありがとうございました。
20121117
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