「なぁ、どうすればいいと思う…」

顔を真っ青にする俺をガン無視してスマホを弄る姿を見て、相談相手を間違えたかな、なんて早くも後悔を始める。一応同業友達。違う事務所のアイドルだけどタメだからなのか出演番組が被りまくって何となく飯とか行く仲になった、和智歩。目ぱっちりで超童顔の歩は、俺と違って可愛い系を売りにしてるアイドルだ。でも腹ん中はかなり黒い。

「それってセフレ?」
「え?」
「だから告った相手、セフレでしょ?」

顔に似合わない単語をサラッと吐く。相手がマネージャーなんて口が裂けても言えないから、世間での俺とあいつの関係に名前を付けるとしたら何なのか考えた。セフレ…ではない気がする。俺の無理矢理だし。

「セフレって、同意だもんな…」
「は? まさか結斗、強姦してんの!?」
「いや…、違う…とも言えねえけど…」

口ごもる。セフレじゃないなら、何なんだか分からない。名前は俺から逃げないけど、嫌がっていたことは明白だ。強姦アイドルって、笑える?

「あはは、バカだなぁ! 散々レイプした相手に好きなんて言ったんだ! 明日のニュースが楽しみでわくわくしちゃう!」
「楽しむなっつの。売られることはねーよ、あいつ、俺の仕事を第一に考えてくれてるし…」
「そんなの分かんないじゃん、一般人でしょ? 大人気アイドルに立場利用して強姦されまくってたのに、そいつが好きって迫ってくるなんて、俺だったら黙ってらんないね。面白くて言いふらしちゃう!」
「ほんといい性格してるよ、お前は」

え、何が? と言わんばかりに俺を見上げる歩。睫毛バサバサで、系統は違えど同じ中性顔アイドルとしては羨ましいよ。歩は一旦スマホを置いて俺に向き直る。

「それで、お前はどうしたいの」

じっと見つめられて居心地が悪い。どうしたらいいんだって聞いてんのに、何で俺に聞き返すかな。分かってたら相談なんかしねえよ。

「とりあえず、なかったことにされんのはやだ…」
「うん」
「今まで何度寝てもなかったことにされてたし、今回のこともスルーされたら流石に傷つく」
「うんうん」
「でも、嫌われんのはもっとやだ」
「うん…」
「だから言わないように我慢してきたのに言っちゃったからあいつの意識がないうちにここに逃げて来た」
「待って?」

歩の声のトーンが一気に下がって、思わず笑う。歩もちょっと笑いながら「つまり今さっきの出来事かよ!」と突っ込んできた。そうだよ、今日こいつがオフの日って聞いて神かと思ったもん。聞いてから2秒でマンションに着いたね。

「意識ないって何!? 後頭部いったの?」
「な、殴ってねえよ! なんていうか…ヤり殺してきた…?」
「最っっっ低だな!」

ぎゃはははは、とお互い笑ったけど、そうも笑っていられない状況だ。スッと真顔になる歩がちょっとやだ。

「で、相手には営業モードなの?」
「はい、可愛い兎ちゃんです…」
「マジ!?」
「だってあいつ、アイドルの俺が好きなんだもん…」
「ははぁ、それはまた…、ほんと立場を利用したレイプだよね」
「返す言葉もねえよ…」

ほんと、立場を利用してんだよなあ。こんなことなら最初から結斗として接してくれば良かったのに、ここまで何年も結兎を貫いてきたら手遅れだ。今更こっちが本性なんて受け入れてもらえるわけがない。嫌われたくなくてここまで来たんだから、あいつが拒むならこの先だって結兎を演じそうでこわい。

「でも結兎として付き合うわけじゃ、ないでしょ?」
「……どう思う?」
「そりゃあ結兎だったらフラれないよ。だってこんなにかっこいいし可愛いんだよ? 優しいし、気が利くし、色っぽいし、何してもにこにこ許してくれるもん」
「や、やめろよ、なんか照れる…」
「でも結斗はドクズだからフラれるかもじゃん?」
「やめろ!!」

バシッと叩くと歩はゲラゲラ笑い転げる。面白がりやがって、くそ、分かってんだよ。結兎に惚れ込んでるあいつだったら、あの押しの弱さにつけ込めば付き合えないことはないんだろうけど、現状結兎にここまで嫉妬してる俺が結兎を演じてこの先も傍に居続けるなんて、できるわけねえじゃん。でも本当の俺を受け入れてくれなかったら? アイドルとしての俺しか好きじゃなかったら? フラれたら絶対マネージャー辞められるし、そんなことされたらこの仕事続けられる自信がない。アイドルって仕事は好きだけど、早朝の撮影も、くそめんどくさいサイン会や握手会等のファンサ類いの仕事も、あいつなしでは頑張れない。そもそも会えなくなるのがもう無理。

「最悪自害も視野に入れる……?」
「早まるなよ」

歩は笑ってるけど、多分心配してくれてる。慰め程度にぽんぽんと背中を叩いてくれて、情けなくて涙が滲みそうな俺から視線を外してくれて、何やらスマホに手を伸ばした。どう元気付けてくれるのか待ってると、歩はすごい勢いで画面をタップし始める。

「…なぁ、何してんの」
「? ゲームだけど。つかお前もう帰れよ、こっちは久しぶりのオフなんだから」
「…」

友達が失恋しそうなんだから、心配してくれてるよな。な。



 * * * 




とりあえず家に帰ることにした。
歩はちょっと鬱陶しそうにしつつも最後まで相談に乗ってくれて、今後はきちんと素の自分を見せて接していくことを勧められた。それができれば苦労しないよなあ。慰められて、励まされて、おっしやってみるか!って気になってたのに家に帰るとなると途端に弱気になる。あいつはまだ家にいるんだろうか、あんなことを言った俺に何らかの反応はするんだろうか、考えただけで恐ろしい。帰りたくない。顔を合わせられない。でも、いつか向き合わなきゃいけなくなる。重い足取りで玄関前まで歩いてきたけど、本人を前にしたら何を言えばいいか分からなくなる。まずは今までしてきたことを謝るか? その後こっちが本当の俺ですって言うか? ほんとに気が重い…。
普段開けているドアがこんなにも重たいものだと思わなかった。のろのろとドアを開けると、玄関にあいつの靴がない。えっ、と短く声が出る。一瞬ホッとしたけど、まさかマネージャー辞められないよなって不安になった。慌てて部屋に上がると、リビングのテーブルに置き手紙だけぽつんと置いてある。

『起きたら結兎くんがいなかったから、勝手にシャワーだけ借りました。ごめんね。明日は13時からの撮影です。』

あいつの手書きを見るのは珍しいから、自体が可愛いだとか、線が細いだとか、そんなことにちょっと癒されたけど、内容が淡々としていて自信がなくなってきた。まさか今回のこともスルーされんのか? 分からない。読み取れない。でも、辞めるとかではなさそうで良かった。気が抜けて、その場にしゃがみこむ。

「はあ〜〜……好きだ……」

伝わってないのかな、俺の気持ち。


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歩くんは結斗くんの唯一のお友達です。名前様、お付き合いありがとうございました。
20171210
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