ヴーン、ヴーン、とバイブレーションが鳴る。画面に視線を飛ばした彼は素早く携帯へ手を伸ばしてその画面をタップした。

「もしもし、真冬?」

その表情はとても明るかった。いつもの上辺だけの笑顔ではなく、愛おしそうに、嬉しそうに笑うのだ。電話口から微かに漏れる幼い声に、わたしは必死に声を押し殺す。相手が相手なだけに、わたし達の行為がバレるわけにはいかない。

「そうなの? 兄ちゃんもお仕事終わったよ」

彼はにこにこ笑いながらわたしに腰を押し付けた。ぐっ、と持ち上がる内臓に息を飲み込む。ゆっくりと奥を抉るように、ぬるり、ぬるりと擦り付けられ、そのもどかしい動きに腰が上下に動いてしまった。ゆっくりなのに弱いところを的確に刺激され、熱い吐息が口から漏れる。

「っ、ふ…」
「何? この前言ってたやつ? いいよ」
「ぁ…、っ、あ、」
「いいって。真冬の我儘ならいつでも大歓迎だからな」

微かに漏れた声を責めるように、ぐっ、と急に奥を貫かれた。子宮口が押し潰され、思わずシーツを握って腰を逃がす。それ以上奥を突かれたら達してしまうかもしれない。唇を噛んだままふるふる首を振るのに、そのまま奥を何度も何度も突かれる。

「んっ、あ…、っ」
「何でも買ってあげる。じゃあ今日は直ぐに帰るから」
「、っ、くぅ…っ、ん」
「ふふ、兄ちゃんも。大好きだよ」

穏やかで優しい笑顔と声。見たこともないその表情で、大好き、なんて単語が目の前で溢される。膣内がびくびくと痙攣を始めて内腿が攣っていく。ああ、大好きです、わたしも大好きです。口を両手で塞ぎながら大きく背を反らすと、ピッ、と短い音が鳴って通話が切れた。直後、深い溜め息を吐かれる。

「はぁ…、お前さあ、電話中くらい静かにしていられないの」
「ま、真人さまぁ…っ、」

漸くその視線がわたしへ向く。綺麗な顔で眉を歪ませ、冷たい瞳でわたしを見下ろすのだ。先程までの笑顔が嘘のように。

「真冬と話してるときは喋るなって、教えたよな?」
「ごめ、なさ、っ、ごめんなさい…っ」
「なのに一人で気持ちよくなったの? 真冬との電話中にイッたの? ほんとどうしようもないね、お前」

真人様が吐き捨てるように言い、わたしの腰を引き寄せる。まだ痙攣も治まらないまま腰を遣われて行為が継続された。収縮する膣内に熱を擦り付けるように、出しては入れ、出しては入れる。

「なぁ、何してんの」

強すぎる快感にぼろぼろと涙を流して身体を捩る。あんまり暴れると叱られるのは理解していても、これは反射で動いてしまうから抑えがきかない。せめて聞き苦しい声を漏らさないようにとしっかり両手で口を塞ぐが、真人様の癇に障ったらしく、手首を乱暴に掴まれて引き剥がされてしまった。

「ひ、う、まひっ、真人さま…っ」
「この手は何か訊いてんだよ」
「こえっ、あっ、声を、ださないように、っ」
「さっき我慢出来なかったくせに?」

ぐりっ、と奥を押し潰す。そこをされると何も考えられなくなるのに、そしてそれを教え込んだ本人である真人様は正気を保っていられなくなる場所だって解っているはずなのに、容赦なくそこを目掛けて腰を振る。力強いピストン、押さえ付けられた手首、怒りを隠さない真人様の綺麗な顔。全部、全部気持ちよくなってしまう。

「っ、あ、ぁん…!」

喉を締めても声は僅かに漏れてしまった。両手首をベッドへ押し付けられたまま、腰を持ち上げられてイかされる。くらっとくる快感の波に涙を溢すと、真人様は背を屈めて目許に小さくキスをしてくれた。涙に吸い付くように、ちゅ、と幾度も。

「もう声我慢しなくていいよ」
「ん、ひ…、」
「我慢するの、辛かったんだろ」

真人様が宥めるような声を出すから、小さくこくんと頷いた。真人様に触られていると快感に耐えるのが苦痛にすら感じるのだ。声を出しても逃げないのは解っているが、声を出さないというのはどうしても辛い。ただ、はしたなくて下品な声で喘ぎ散らしたいというわけではない。完全なる無言がきついのだ。

「くち、開けて」

囁くように優しく言われたので、おずおずと薄く唇を開く。キスしてもらえるのかと緊張するわたしの口へ、真人様は容赦なく指を突っ込んだ。ぐっと舌を押さえ付けられる。

「ん、んんん、んぅ…っ!」
「悦い声上げろよ」

真人様はわたしの足を肩へ掛け、腰を押し付けてきた。一番奥まで届く熱がぐりっと子宮の入口を押し潰して、歯を食いしばれなくなったわたしは思わず腰を捩ってしまう。

「ああぁあ゛っ、はぁ゛あ…っ、あぁ…っ!!」

喘ぎというよりは、絶叫。真人様の指に歯を立てるわけにもいかず、完全に宙に浮いている腰を逃がすこともできず、長い時間を掛けて散々教え込まれた快感に身悶えた。こりこりする入口を解すように、先端を擦り付けられて潰される。細かく遣われる腰に眉を歪め、真人様を見上げた。

「あ、あ゛はぁ…っ、あぅ゛…っ」
「何だよその顔、声、出したかったんだろ?」
「あぁっ、あ、ああぁあ、っ」
「わざわざ俺の手を煩わせないと声も出せないんだもんな?」

吐き捨てるように言う真人様に、体を強張らせる。先程の謝罪で許されたと勘違いした自分は何と大馬鹿者だろうか。真人様の大事な御兄弟、しかも真冬くんとの電話中での失態が、そんなに上手く許してもらえるはずがないなんて、少し考えれば解ることだったのに。

「またギャグボールでも付けるか?」

にや、と口端を上げた真人様の、目は全く笑っていなかった。本気で怒っている。前回の失態でギャグボールを付けられ、口が塞がらないわたしにボール越しに薬を垂らし、喘ぎ狂う様子を見て更に玩具を挿れて2時間放置されたのは、これ以上ない地獄だったというのに、またそれをされてしまうのかと思うとゾッとする。涙も唾液も鼻水も垂れ流したままひたすら喘がされる、あんな暴力的な快感は屈辱的で流石に堪えるのだ。わたしの口から指を抜き、足を肩から下ろし、自身を引き抜く真人様に焦りを覚える。また、またあの快感地獄を与えられるのだろうか。

「真人様、っ」

焦る余り、真人様のシャツに縋り付く。どうか許してもらえないだろうか、どうにかして見逃してもらえないだろうか、恐怖で震わせながら体を起こし、シーツへ頭を付けて懇願する。

「申し訳ありませんでした…、真人様の言い付けを守れず、わたし、」
「何? 俺のすることに文句があんの?」

どういう意味か解らず間抜けに顔を上げると、眉間に皺を寄せた真人様と目が合う。怒りを剥き出しにし、自分に歯向かう嫌悪感を現している。

「やめろって言いたいんだろ? どの立場でお前が拒否するんだよ。逆らっておいてノーリスクで済むと思った? 俺に指図すんな」
「真人様…っ」
「そのだらしない顔を俺に向けるなよ」

真人様に髪を掴まれ、ベッドへ押し付けられる。うつ伏せになってしまったわたしは真人様の表情が確認できなくなってしまったが、大好きな真人様の顔すら今は見たいとは思わなかった。きっと鬼のような形相でわたしを睨み付け、嫌悪を隠してくれていない。真人様に嫌われてしまえば、わたしの生きる意味なんてなくなってしまう。わたしを嫌う真人様の顔を見続けるのは耐えられない。

「ほら、悪いと思ってんなら精々啼いて機嫌取りな」

後ろから逞しい男根を突き立てられ、ひっ、と息を飲むと、簡単に飲み込んだそこを抉るように腰を押し付けてくる。思わず腰が持ち上がり、うつ伏せしながら大きく腰を反らしてシーツを乱した。先程の場所を再び徹底的に責められるのかもしれない。耐えかねる愉悦に唾液を垂らし、酸素を求めて舌を突き出す。上からのし掛かられているせいか抵抗どころか身動きすら取れずに、一方的に与えられる快感に感じることしか許されていなかった。

「あぁ゛あ…っ、あ゛、ああぁあっあっ…!」
「はは、好い悲鳴」

抜き差しは一切せず、ただ奥に押し付けられているだけで、こんなにも体を熱くさせられてしまうのか。シーツに爪を立てながら反り返っても真人様は涼しげな顔で尚奥を押し解した。プシャアッ、とはしたなく噴き出す潮を見ても、止める気配はない。

「あっ、あぁっ、まひと、さまぁ゛っ、」
「何」
「まひ、さまぁ…っ、ぁあ゛ぅ、まひとさ、まぁ…あっ」
「ふうん」

恋い焦がれて胸が痛い。どうか怒らないで、どうか嫌わないで。真人様の感情的な行為を受け止めながら涙を流し、名前を呼び続ける。真人様。わたしの大好きな真人様。プシッ、プシッ、と奥を潰される度にシーツを濡らしてしまい、真人様はまた叱るだろうか。足をピンと伸ばして、頭から爪先まで貫く快感に体を震わせる。

「、名前」

解した入口に押し付けたまま、熱を吐き出される。敏感になったそこは度が過ぎた快感に反応して狂うように喘いだ。叫びながらシーツを握り、真人様を感じる。はく、と耳許で少し息の上がった真人様がゆっくり離れていって、中から熱を引き抜いてさっさと着替えを始めてしまった。汗と涙と体液で濡れて酷い有り様のシーツにぐったり全身の力を抜いて倒れるわたしを、真人様は鼻で笑う。

「シーツ、替えておけよ」

そう一言残して、真人様は部屋を出ていってしまった。きっと真冬くんに会いに行くのだろう、わたしに見せない穏やかな笑顔で、これから彼を迎えに行くはずだ。

「…はい……」

真人様の居なくなった部屋で、息も絶え絶えに返事をする。しんとした空間にわたしの荒い息遣いだけが虚しく響いた。


END
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サド男子の一人称が兄ちゃんなの、好きです。名前様、お付き合いありがとうございました。
20171119
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