「こうた…、こうたぁ…、」

ベッドの上で自分を抱くように体育座りをする名前ちゃんは震える声で高橋さんを呼びました。部屋には勿論名前ちゃんしかいません。

「ねえ、浩汰、見てないの…?今日はいない?こうた、どこ…」

一見独り言のようですが、数秒後に玄関の開く音が聞こえます。慌ただしい足音と共に高橋さんが入ってきたのです。毎度お決まりのカメラで名前ちゃんを観察していたのでしょう、流石に反応が早すぎます。

「っ、名前!?」
「こうた…」

高橋さんを見上げる名前ちゃんの目には今にも溢れんばかりに涙が溜まっていて高橋さんはギョッとしました。名前が、俺の名前を呼びながら、泣いてる…。勃起案件間違いなしですが、泣いている名前ちゃんを放って欲情なんかしていられません。平静を装う高橋さんは名前ちゃんに歩みより、優しく背中に触れました。

「名前、どうしたの?具合でも悪い?」
「…こ」
「え?」
「だ、抱っこ…」

ぼそぼそと口先で喋る名前ちゃん。高橋さんは目を見開いたまま固まってしまいます。あれ、今日って、俺の誕生日だっけ…?名前が抱っこって、言った気がする…?? 混乱したまま名前ちゃんを見つめることしかできません。

「こうたぁ、何してるの、はやく…」
「だ、だ、抱っこ?」
「しないの?」
「すっ、するっっっ」

おずおずとベッドの上に上り、泣いてる名前ちゃんを抱き寄せます。抱き締めることが初めてでもないのに何ともたどたどしい手付き、名前ちゃんからねだられるだけでこうも緊張してしまうのです。名前ちゃんが泣いている原因はさっぱり分かりませんが、今日も世界一幸せな高橋さんは顔が緩みそうになるのを必死に堪えました。

「名前、もしかしてどこか痛いんじゃ、」

そう問い掛けようとした時です。ガラガラピシャーーン!と地を割るように大きな音が響き、名前ちゃんは大きく肩を上げて耳を塞ぎました。腕の中でガタガタ震える名前ちゃんの顔が真っ青で、高橋さんはハッとします。

「雷、こわいの?」

質問直後、なんと愚かな質問をしてしまったのだろうと高橋さんは自分を責めました。雷に怯えているのは一目瞭然ですし、こんな聞き方をされてもプライドの高い名前ちゃんは、べつに、と否定をしてしまうだけです。変に強がらせてしまう前に質問を取り消そうと慌てて口を開くと、その瞬間、名前ちゃんは小さくこくんと頷きます。

「え、」

僅かですが、確かに頷きました。そこまで雷が苦手なのでしょう。相変わらずきつく目を閉じて顔を青くしている名前ちゃんに、高橋さんは深い溜め息が漏れてしまいました。不謹慎だとは分かっていますが、とても可愛いのです。

「俺もこわいよ…」

名前が可愛すぎて。
高橋さんは名前ちゃんを少し強く抱き寄せると、そのまま体を倒してベッドへ寝転びました。名前ちゃんを持ち上げるように倒れたので、名前ちゃんは高橋さんの体の上で寝転ぶような形です。やっと目を開けた名前ちゃんはきょとんとした表情で高橋さんを見上げます。

「こうた…?」

その上目遣いと言ったら。高橋さんは勃起してしまわないように頭の中でウニの集団を想像しました。名前ちゃんの頭の上に優しく掌を置き、自分の胸へ寄せるのです。

「俺の心臓の音、聴いてみて」
「えっ?」
「こんなんじゃ紛れないかもしれないけど…」

高橋さんはタオルケットを頭から被せ、ふたりを包んでしまいます。たったタオルケット一枚、とても薄い壁なのですが、ベッドの上のふたりだけの空間。耳許からは高橋さんの心臓の音が、とくん、とくん、と響きます。名前ちゃんは目を瞑り、暫くその心地好い音を堪能しました。とくん、とくん。大好きなひとの温もりと心臓の音がこんなにも安心できるとは思っていなかった名前ちゃんは、ふふ、と口許を緩めました。

「浩汰、ありがとう」
「落ち着いた?」
「うん、でももう少しこうしてて」
「もちろん、名前が満足するまでこのままでいるよ」

優しい掌で頭を撫でられ、名前ちゃんはうっとりします。とくん、とくん、高橋さんの匂いも、声も、名前ちゃんの大好きなものです。

「…ん?」

ふと、名前ちゃんは違和感を感じました。胸板に耳を押し付けて澄ませば、その違和感はどんどん強くなっていきます。

とくん、とくん、
とく、とく、とく、とく、
ばくばく、ばくばく、
どっ、どっ、どっ、どっ、

心臓の音がどんどん激しくなっていくのです。あまりにも煩すぎる音に名前ちゃんは眉間に皺を寄せ、顔を上げてしまいます。

「ちょっと、煩いんだけど」
「、え?」

見上げると、ギクッとした顔をする高橋さん。顔はやや赤く、何となく良くない顔をしていました。ウニ集団に負けてしまったのかもしれません。

「っ、」

名前ちゃんのお腹辺りに、固い膨らみが当たりました。高橋さんは完敗してしまったのです。上目遣いの名前ちゃんが、自分の体に密着しながら甘えるように胸板にすり寄っていたのですから、高橋さんにしては耐えた方なのかもしれません。

「こ、浩汰、これ…」
「ごめんなさい!ほんと俺、最悪だよね…。名前が怯えてるのに勝手に発情して、最低でごめんなさい。すぐ鎮めるから、ちょっと待って…」

困ったように早口な高橋さんに思わず笑ってしまいます。本当にどんなときでもブレない人です。

「別にいいけど。浩汰って本当にえっちだよね」
「っ、ごめんんん…!だって、名前の胸すごい当たってるし、いい匂いするし、可愛くてさあ…」
「だから別にいいって。そういう浩汰も、…好きだし」
「あ…っ」

びくっ、と腰を浮かせて高橋さんは、勢いよく体を起こして名前ちゃんを上から退かしました。訳が分からず眉をひそめると、高橋さんは深い深呼吸を繰り返します。

「今の、ちょっとやばかった…、少しだけトイレ行ってきていい?」
「え、やだ、まだ傍にいてよ」
「じゃあちょっと離れてていい?今触られたら、出るかも…」

はぁ? と聞き返すと、土下座の勢いで謝ってくる高橋さんは心底気持ち悪いのですが、そんな高橋さんも悪くありません。名前ちゃんもかなり毒されているようです。

「出してもいいけどね」
「もうやめて!!!俺ほんとに出ちゃう!!!!」
「ふふふ」

顔を真っ赤にして叫ぶ高橋さんにぴとっとくっつき、名前ちゃんは甘えるように顔を寄せました。もう雷が気にならなくなったのは高橋さんのおかげです。高橋さんと居たら何でも克服してしまいそうで、名前ちゃんも高橋さんに負けないくらい幸せそうに微笑み、再び頭の上からタオルケットを掛けてしまうのでした。


END
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ノーハンドで射精してしまうプロです。名前様、お付き合いありがとうございました。
20170615
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