楽屋での結兎くんはキラキラアイドルのままでたまに眩しいときがある。わたしに優しくしてくれて、疲れているだろうに気遣ってくれたりして。結兎くんは本当にできた子だなあ、非の打ち所のないアイドルだなあ、なんて親バカならぬマネージャーバカ? とにかく贔屓目で見ちゃう気がする。いや、贔屓なしにしても結兎くんは本当に素敵なアイドルだ。

「結兎くん」

スマホに視線を落としていた結兎くんに声を掛けると、結兎くんはぱっと顔を上げてくれる。はい? と小首を傾げる仕草も、可愛いはずなのに何故か色っぽい。セクシー担当アイドルなだけあって、首筋から色気がむんむん放たれるんだと思う。

「これ、今度発売される雑誌のサンプルだよ。結兎くんの分ね」
「ありがとう。これってこの前の、ベッドシーンの特集?」
「うんそう。結兎くんかっこよく撮れてたよ」

結兎くんのことなのに何だかわたしが誇らしい気持ちになって、求められてもないのにパラパラとページを捲って結兎くんの写真を開いた。ベッドの上で大胆に身体を見せ付け、誘うような視線を流している結兎くん。まだ学生だからえっちなトークはできなくてインタビュー欄は普通のことが書いてあるんだけど、上半身しか出ていないのにシーツとの相性が良くて性的な魅力が伝わってくる。なんてセクシーなんだろう。

「ちょっと名前さん、いいよ、恥ずかしいから」
「えっ、あ、ごめん!かっこいい結兎くんを今すぐ見せたくて…」
「っ…、俺は撮影のとき自分で確認してるから。それ要らない」

結兎くんはフイッと視線を逸らしてしまった。気まずそうに眉間に皺を寄せている。まずい、機嫌損ねちゃったかな、長年結兎くんのマネージャーをやっているのに未だに結兎くんの嫌がることが把握できない。自分のベッドシーンを自分で見るのなんか嫌だったかなあ、どうしよう。

「じ、じゃあこれはわたしが貰うね!」

わたしの言葉に結兎くんは、えっ、と短く声を出して顔を真っ赤にした。う、うわあ、ますます機嫌損ねさせちゃう、自分のベッドシーン載ってるものを知り合いに保管されてたら嫌だよね!? 焦りで全身から汗が噴き出す。

「他のアイドルもたくさん載ってるもんね、たまにはわたしも新人アイドルさんのお勉強しないと!ベッドシーン特集だからドキドキしちゃうけど、イケメンばっかで目の保養だなー!」

早口で捲し立てる。勉強というワードを強調してあくまで結兎くんのベッドシーンのために貰うわけではないということを強調したかった。マネージャーが気持ち悪いから仕事辞めたいなんて言われたらそれこそ困るからね。

「だから結兎くん、これ、わたしが貰うね…」
「…」

返事がない。結兎くんは視線を床に落として眉間の皺をますます深くしていた。どこだろう、どこに結兎くんの不機嫌ワードがあったんだろう。焦って目がギョロギョロ動いてしまう。

「ゆ、結兎くん」
「いい、やっぱ俺が持って帰る」
「あっ、そ、そうなんだ、残念だな〜…、あはは」

笑って見せたけど結兎くんは苛々したようにわたしから雑誌を乱暴に奪った。う、怒ってる。全然掴めないよ。

「ゆいと、くん」
「あんたさぁ」

結兎くんの声のトーンがぐっと落ちて思わずギクリとした。まずい、本格的に機嫌を損ねたかもしれない。こうなった結兎くんはアイドルモードをオフにしている、気がする。その証拠に、テレビでは絶対映してはいけないような鋭い視線でわたしを睨み付けていた。

「他の男の体にもドキドキすんの」
「え、」
「他の男が脱いだらそれで濡れんのかよ」

言ってる意味が分からない。え、え、と混乱していると結兎くんが立ち上がり、わたしに近づいてきた。びっくりして思わず後退るけど結兎くんも付いてくる。立ち上がられるとわたしより背の高い結兎くんの圧力はすごい。見下ろされる視線が怖くていよいよクビかと思った。一歩、また一歩と下がると、わたしの背中がトンっと壁に付いてしまった。これ以上下がれないのに結兎くんは更にわたしに近づいてきて、わたしの足の間に膝を割り入れる。

「ゆ、結兎くん、どうしたの」
「俺が聞いてんだよ、質問に答えろ」
「えっ、ちょっと意味が分からないって、いうか…」
「簡単なことだろ?俺以外の男でここが濡れるかって質問してんだけど」

結兎くんの膝が、ぐっとわたしの足の間を押し上げた。ショーツ越しに伝わる結兎くんの膝の感触。びくっ、と腰を逃がしたいのにすぐ後ろに壁があって叶わない。

「なに、いってるの、ちょっと…っ」
「答えるまで退かない」
「まって、なにを、…ぁ…んっ」

ぐりぐりと膝を動かされて、刺激に吐息が漏れた。強引に動かされているのに布越しのもどかしいそれに抵抗しきれない。ぱくんと足を閉じて結兎くんの膝を挟んでも力では敵わないし、結兎くんの胸板を押してもびくともしない。わたしの方がずっと年上なのに、まだ未成年の、それも高校生に好き勝手されてしまう。ぐりっ、と弱いところを探られて腰から下に力が入らない。

「ふ、ゃあ…っ、ゆいと、く、」
「湿ってきた、あんたまた感度上げた?」
「そんなこと、な、い…っ」
「上がってるって。誰と寝てんだよ」
「ちがう、からぁ、」

ぐりぐり揺さぶられ、ショーツの中が熱くなってきた。じんわりとしたものが流れ出て、汚しているのが分かる。弱々しい無意味な抵抗を続けていてもやめてもらえず、結兎くんの舌がわたしの耳の中に入ってきた。

「っ、やあ、あ…っ」
「ほら答えろ、俺以外で満足できんのかよ」
「あん、あ、ぁあ…っ」
「早く答えろ」

耳朶に歯を立てられる。甘い痛みにびくんと大袈裟に体が跳ねて恥ずかしい。結兎くんが何に怒ってるのか分からないけど、ここでマネージャーを辞めるわけにはいかない。結兎くんにはもっともっと有名になってもらわないと、そのお手伝いをわたしにさせてもらわないと。

「できな、い…っ、できないよぉ、っ」
「…ふうん」

結兎くんはわたしから体を離す。耳に残る濡れた感触と、ショーツの中の熱がじんじんとわたしの体を疼かせた。結兎くん、えっちな顔してる。

「じゃあ俺以外の前でそんな顔、見せないでくださいね」

にこっと結兎くんは口許だけ笑ってくれたけど、熱で濡れた瞳はベッドシーンの結兎くんより遥かに色気があった。影を落として見下ろされ、こんなかっこよくて可愛い、セクシーなアイドルに『お願い』でなく『命令』をされている。どこから絞り出してきたかも分からないような声で、は、はい、と返事を返すと、結兎くんはやっと機嫌が直ったように顔中に笑みを広げた。

「約束だよ。さぁ、帰ろう名前さん。車出してくれる?」


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相変わらずのヤキモチ焼きなんですけど伝わりません。名前様、お付き合いありがとうございました。
20170209
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