※砂月視点

あれから那月は相当堪えたらしく、出てこない。那月は俺の存在に気づいているんだろうか。いや、気づいていなくても気づき出してはいるんだろうな。俺は出たくもないのに那月に引きずり出されている。余程傷ついてんだろ。…俺のせいか。
那月はあいつに優しい。無意識に優しいんだろうが、それ以上に自分からも優しくしたいと思っている。それなのに自分自身があいつを泣かせるなんて許せないんだろうな。正確には泣かせているのは那月じゃなくて俺だが。

「な、なぁ、砂月、」

自己嫌悪に陥っていたらチビに声をかけられた。ああ、こいつ同室だっけ。

「あ?」

ちらっと視線を投げたらチビは俺にびびったように肩を上げた。こいつも俺のこと怯えてんのか。うぜえな。

「那月を、出せよ…」
「あ?」
「だから、那月、」
「那月は出ねえよ。…出てこねえんだ」

怯えた顔のまま俺に図々しく指図してきたチビに舌打ちし、俺は寮室を出て行った。こいつと話していると俺は誰からも求められてねえんだと思い知らされる。普段あんだけ那月と仲が良いこいつですら俺を否定するんだから、女が俺を受け入れなくても当然ってことだ。
…俺が消えたら全ては解決するんだろうな。


寮を出て中庭に行くと木の陰に女がいた。女は譜面にいろいろ書き込んでいるようで、次那月があれを歌うのかと思ったら気になった。無意識に女の方へ足が動く。女は俺に気づくと一瞬で表情を強ばらせた。来なきゃ良かった。

「さ、さつきくん…」
「よぉ、作曲か?」
「う、うん…、そう…」

女は譜面を庇うかのように胸に抱き、俺から視線を逸らした。うぜえな、どいつもこいつも俺を否定しやがって。そんなにびびる必要ねえのに。俺は無性に苛々して女の顎を掴んで俺のことを見させた。

「おい、目ぇ逸らすな」
「え…、あ、の」

女は恐怖で震えていた。那月と同じ顔をした俺が怖くて仕方ないらしい。あんなにすげえ笑顔を見せる那月と同じ顔なのに、なんで俺は。

「っ…」

ムカついて女の唇に噛み付いた。女はすぐに俺の胸板を押してきたが、緩い力だから無抵抗に等しい。何度も噛み付いて、舌を絡めた。嫌そうに首を振るが鼻から漏れる声はやけに甘ったるくて俺はますます煽られた。暫く続けていたら女の顎を掴んでいた俺の手にぽたりと水滴が垂れてくる。目を開けたら女が泣いていた。また、泣かせた。

「…」

キスをやめて女から手を離す。瞬間に女は酸素を取り込むかのように少し咳き込み、ぼろぼろ泣いた顔で俺を見つめてきた。女は怒っているわけではなさそうだった。乱暴なことをしたんだから怒って当然だが、女は俺を睨むこともせず、ただ俺に怯えていた。

「はっ…やめた」

俺は女に背を向け、別の場所へ移動することにした。女の嗚咽が遠ざかっていった。俺は誰にも受け入れられない、誰かを傷つけることしかできない。それでも存在するのは、那月には俺が必要だからだ。那月は弱い、だから俺が支える。
…俺が支える?
今那月が傷ついている理由はなんだ?女が泣いたこと?つまり俺が原因じゃねえか。俺は那月すら傷つけちまうのか。
…なんて、今更気付いた振り。まだ女を見ていたくて気づかない振りをしていただけだ。俺は消えるべき人間なのに、那月の陰なのに、少し欲が出すぎた。

俺も愛されてみたかった。


(( 傷つける程、好きだった ))
(  )
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -