※那月視点

名前ちゃんはたまに僕に嘘をつきます。


「名前ちゃん、おはようございます」
「あ、なっちゃん、おはよう」

名前ちゃんは僕に優しい笑顔を向けてくれました。僕の大好きな、可愛い可愛い笑顔です。僕は名前ちゃんのこの顔が1番好きです。僕も名前ちゃんが好きだと言ってくれた笑顔を見せました。

「昨日は練習行けなくてごめんなさい。何だか寝ちゃってたみたいです」
「え、あ…、大丈夫だよ……」

僕は昨日の夕方から記憶がありません。気づいたらベッドにいたので、きっと寝てしまっていたんだと思います。それを伝えただけなのに、名前ちゃんの顔色は一気に変わってしまいました。具合でも悪いんでしょうか。

「名前ちゃん…?」
「あ、大丈夫だよ、ごめんね」

名前ちゃんはそう言って僕から視線を逸らしました。何かに怯えているようにかたかた震えていました。僕は名前ちゃんを落ち着かせてあげようと思って手を伸ばしますが、その途中で名前ちゃんの首筋にいくつか絆創膏が貼られていることに気づきます。

「これ、どうしたんですかぁ?」

僕が絆創膏を指差すと名前ちゃんはハッと息を飲んで首筋を手で押さえて隠します。青白い顔で必死に呼吸を整えながら名前ちゃんは薄く笑っています。

「こ、これね、昨日猫に引っ掻かれちゃって…痛かったんだぁ…」
「…そうなんですか」
「うん…だからしばらく剥がせないやぁ…」

僕は名前ちゃんが嘘をついていると分かりました。名前ちゃんは僕に隠し事をするときは目を合わせてくれないんです。僕は口の端を上げて笑顔を作ってみました。でも引きつっていると自分でも分かります。

「そうなんですかぁ。じゃあ痛いの痛いの飛んでけ〜ってやってあげますね」

僕は、名前ちゃんが首筋を押さえて震えている手に自分の手を重ね、きつく目を閉じました。


…実は昨日僕、名前ちゃんをめちゃくちゃにしてしまう夢を見たんです。まさかとは思いますが、…いや、まさかですよね。

僕はまだ気づかない振りをしたいんです。


(( 夢だと思いたかった ))
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