名前ちゃんは大変反省していました。あの件以来何となく嶺二さんと気まずくなり連絡をとっていなかったのですが、反省しているのはそのことではないようです。何故嶺二さんは名前ちゃんにあんなことをしてきたのか。名前ちゃんはそれが理解できなかったのです。そんな恥ずかしいことを友人に訊ねるわけにもいかず、名前ちゃんは自力で調べていたのですが…。

(な、な、なにこれ!)

セックスという単語は名前ちゃんにはまだ刺激が強すぎたようです。何度か授業で登場した単語でしたが子供を作る行為としか習っていなかったので、名前ちゃんはびっくりです。こんな風にするんだ、なんて動画まで見てしまいました。あのときの名前ちゃんは未知だったから怖かったのですが、知ってしまった今興味はあります。何よりサイトに書かれた「ふたりの愛を深める行為」という字に惹かれてしまいます。もっともっと嶺ちゃんに愛されたい。名前ちゃんは嶺二さんのことが本当に大好きだったのです。嶺二さんがせっかく自分を求めてくれたのに、名前ちゃんは断るどころか、ぼろぼろ泣いて拒絶したのです。これは反省する他ありません。

「嶺ちゃん…もっかいしてくれるかなあ…」

名前ちゃんはぼそりと呟きながら携帯を見つめました。嶺ちゃんと愛し合いたい、もっと好かれたい、その一心でセックスを決意してしまうのは軽いのかもしれませんが、名前ちゃんはどうしようもなく嶺二さんからの愛に飢えていました。名前ちゃんは覚悟を決めたように携帯を手に取り、嶺二さんに連絡を取りました。


***


「あ、あのさぁ名前ちゃぁん…」
「ん?」

名前ちゃんは早速嶺二さんの部屋を訪れました。会いたくなっちゃった、とだけ送られてきた嶺二さんはデートのお誘いかと思ったようですが、予想が外れて大変気まずそうに視線を床に落としています。何かを言いにくそうに手悪戯をしていて、名前ちゃんは首を傾げました。

「どうしたの?」
「どうってわけじゃないんだけど…」

困ってしまいました。名前ちゃんが何の意図があって部屋に来たのか分からないのです。こないだあんなことがあったばかりなのに何で外で会わなかったんだろう、僕もツラいけど名前ちゃんだって怖いんじゃないのかな。嶺二さんは手悪戯をやめられません。

「嶺ちゃん、あのね」
「うん」

名前ちゃんはちろちろ視線を泳がせますが、あんな恥ずかしい行為を自分から直球に誘うなんてできません。いい言葉も思い付かず、とりあえず上に羽織っていたカーディガンを脱ぎました。

「あ、暑くない…?」

脱いだ下は大胆にもキャミソール1枚でした。体のラインが強調され、嶺二さんは思わず目を見開きすぐに逸らします。だめだ、今見たら理性が持ってかれる。嶺二さんは必死に頭の中で明日撮影のドラマの台詞を復唱して気を紛らわせようとしますが、名前ちゃんはさらに大胆に、今度は嶺二さんの腕に抱きつきました。

「ね、嶺ちゃん暑くないの?」

胸を押し付けるようにすると嶺二さんは限界とばかりに名前ちゃんの肩をそっと押して手を離すように催促します。

「あ、あのさあ名前ちゃん、ちょっと煽りすぎなんじゃないの?」
「え?」
「そんなつもりはないんだろうけど、お兄さん困っちゃうなあ」

苦笑いをして見せると名前ちゃんは途端に眉を下げてしゅんとしました。分かってて誘ってるんだけどなあ、なんて口が裂けても言えませんが、とにかく失敗です。嶺二さんは困った様子で名前ちゃんを見つめます。

「ゴメンね、そういう目だけで見てるんじゃないんだけど、名前ちゃんのこと大好きだから余計考えちゃって……僕ちんまるで狼さんだね!ガオー!」

あははと笑っていますが嶺二さんに余裕があるわけでもなく、 名前ちゃんは名前ちゃんで大好きという言葉に過剰に反応を示します。やはり愛されたい欲が勝ったのでしょうか。名前ちゃん再び嶺二さんにぴっとりと寄り添いました。

「わ、わたし、もうこわくないから…!」

震える声で伝えました。言えました。名前ちゃんはどきどきと嶺二さんを見つめます。嶺二さんは一瞬「え?」と声を漏らしてから、優しい笑顔を名前ちゃんに向けます。

「まだ早いって思ってるんでしょ?僕のために無理しないでよ」

嶺二さんは前科があるので慎重に名前ちゃんの頭を撫でますが、それを言われた名前ちゃんは激怒です。むむむとほっぺを膨らませて嶺二さんを睨んでいます。

「子供扱いしないでよ!わたしもう子供じゃない!」
「え、いやそうじゃなくて、」
「嶺ちゃんはいつもそう!わたしのことまだまだ子供だって思ってるんでしょ!確かに嶺ちゃんは大人だけど、わたしだって追い付こうと頑張ってるもん!」
「名前ちゃん…、」
「お仕事もちゃんとできるようになったし、もう子供じゃないのに…っ」

じわぁ、と音が聞こえてきそうなほど名前ちゃんは分かりやすく涙を浮かべました。嶺二さんはぎょっとします。せっかく泣かせないように優しくお喋りしてたつもりだったのに、こんなことではいけません。嶺二さんは少し強引に名前ちゃんを引き寄せ、抱き締めます。

「おばかさんだね。名前ちゃんのこと子供だなんて思ったことないよ」
「ほ、ほんと…?」
「うん。いつだって魅力的すぎる女性で、僕はもう我慢できないなあ」

嶺二さんはそう言いながらゆっくり名前ちゃんを押し倒しました。その目はギラギラ光っていて、まるで本当に狼さんのようです。

「れ、れいちゃ…、」
「あーあ、かわいい顔しちゃって…」

どきどきと嶺二さんを見上げる名前ちゃんの顎を掴むと、嶺二さんは色っぽく舌舐めずりをしました。獲物を目の前にした狼さんです。

「大丈夫、お兄さんに任せて」

この前も言っていた台詞をもう一度囁いて、嶺二さんはゆっくり名前ちゃんに口づけました。


(( 非子供宣言 ))
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