ざあざあと外から聞こえる音に、名前ちゃんはやっとPSPから顔を上げました。あれ、雨降ってる?名前ちゃんは今日の天気予報を思い出します。もともと天気予報なんか見なかった名前ちゃんも、トキヤさんが姑のようにうるさく言うので見る習慣がついてしまったのです。天気予報だと今日は晴れって言ってたのにな、きっとトキヤ傘持ってってない。名前ちゃんは怠そうにPSPを手放します。

「トキヤ、一応アイドルだしね…」

風邪引いたら困る。名前ちゃんはため息をついてから立ち上がりました。トキヤさんに傘を届けるのです。


傘を届けるだけですが、名前ちゃんは少しどきどきしていました。スタジオに行く機会なんてあまりありませんし、もしかしたらドラマや漫画でよく見かける「部外者は立入禁止だ!」という台詞も聞けるかもしれません。もしそうやって追い出されなかったとしたらトキヤさんのお仕事現場見れるのかもと淡い期待を抱いています。何より楽しみなのは、トキヤさんがどうやって自分を褒めてくれるのかです。あのトキヤが「傘を届けてくれてありがとうございます、きみは優しい方ですね」なんて頭をなでなでしてくれたら。名前ちゃんはほわんと顔を緩めます。

しかし。

スタジオに着くちょっと前に、名前ちゃんは意外な人物と会いました。トキヤさんです。しかもトキヤさんは傘をさしています。予定より早く仕事を終わらせたのでしょう、足早に帰路へ急いでいたので名前ちゃんは思わず引き止めました。

「トキヤ!」

トキヤさんはぴくっと一瞬肩を上げましたが素直にこちらを向きました。変なサングラスをしています。

「なんだ、名前ですか」
「何で傘持ってるの?」

なんだ、と言われたことはこの際スルーしてあげることにしました。名前ちゃんは素直に質問をぶつけます。トキヤさんは大きなため息をつきました。

「折りたたみ傘くらい携帯していますよ。それよりここで何をしているのです?まさか洗濯物を外に干したままではないでしょうね」
「え」

名前ちゃんが口を開けるとトキヤさんは、やはり…と呟いて額に手を当てました。名前ちゃんはがっかりです。役に立ちたくて傘を持ってきたのに、褒められるどころか呆れられるなんて。確かに名前ちゃんはゲームに没頭していて洗濯物の存在を忘れていたのです。

「ご、めん…トキヤ…」
「いえ、大丈夫です」

トキヤさんはすぱっと言い返すと名前ちゃんに視線を投げました。

「そんなことより、雨の中に長時間いたら体が冷えてしまいます。早く帰りましょう。いいですか、あなたには帰ったら私を温めるという仕事があるのですから、帰ってすぐゲームをしないように」

トキヤさんは再び歩み始めました。名前ちゃんは大人しく頷くことしかできません。どんなに変態なトキヤさんでも、それ以外のことが完璧ならば何も言えなくなってしまうのです。


(( 「傘ないでしょ?」 ))
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