※ゲームネタバレあり(無印〜ASASまで) / 暗め / 捏造盛り合わせ



突然だけど、僕は翔ちゃんのことが大好きだ。

翔ちゃんは生まれつき心臓が弱く、僕たちは一緒に生まれてきたのに別々の部屋で育てられたらしい。僕だけ母親と一緒に退院したけど翔ちゃんは暫く病院生活で、新生児の期間は家に一度もいなかったと聞いている。僕の記憶がある範囲でも、翔ちゃんはほとんど室内で過ごしていた。体を動かすのが好きなのに、本当はみんなと同じように走り回りたいだろうに、翔ちゃんの心臓はそれができない。
それでも翔ちゃんは抗った。自分の病気に、自分の人生に。僕や家族が心配する中、空手を習い始め、ダンスや歌を練習し始め、更には早乙女学園に入学。黒帯まで取った翔ちゃんは勿論アイドルでも高みを目指し、卒業と同時に見事アイドルデビューを果たした。発作に苦しんで胸を押さえながらベッドで寝たきりだった翔ちゃんが、いつの間にか心臓の手術に成功してアイドルの道へ。正直、信じられなかった。翔ちゃんが苦しむ姿を一番身近で見ていた僕は、翔ちゃんの病気が早く治ればいいなと思いながらも翔ちゃんにアイドルは絶対に無理だとどこかで思ってしまっていた。だって体を動かす度に息を切らしてその場に踞っていた翔ちゃんが、こんなに激しく踊って、にこにこ笑いながら歌って、ステージの端から端まで駆け回っているんだから。それこそ僕の知らない翔ちゃんだった。僕の片割れであるお兄ちゃんは、いつしか皆のアイドル来栖翔になっていた。

僕よりほんの少し小さくて、ほんの少し細かった翔ちゃん。今では筋肉がついて健康的な体になっている。こんなに逞しい翔ちゃんが心臓を患っていたなんて、誰が信じるだろう。僕だって未だに信じられない。ステージでバク宙をして無邪気に笑う翔ちゃんが、メンバーにハイタッチを求めてジャンプする。こんなライブを見せられたら、僕の知っている翔ちゃんなんて幻だったんじゃないかと思ってしまうのも無理はない。
嬉しいし、翔ちゃんはやっぱり強いんだなあと思う。だけどどこか少しだけ寂しい。僕のヒーローだった翔ちゃんは、いつしか僕以外のひとも笑顔にするアイドルになっている。だけど、やっぱりそれが嬉しくて堪らなく誇らしいんだ。

僕は翔ちゃんが大好きだ。

これは少しだけ前の話になるけれど、翔ちゃんには恋人ができた。彼女は翔ちゃんが苦しんでいた時期翔ちゃんに寄り添い、翔ちゃんに勇気を与え続けた女性だ。勿論僕は彼女を認めている。翔ちゃんを心配しすぎる余り、彼女には酷いことを言ってしまったこともある。今思えば過保護だったかもしれないけれど、翔ちゃんは僕のたったひとりのお兄ちゃんだから許してほしい。僕が何度交際を否定しても彼女は強く在り続けた。芯が強く、凛としていて、とても綺麗な女性だった。そんな強気な彼女が一度だけ、僕に弱った姿を見せたことがある。翔ちゃんと別れ話をしたときだ。彼女の泣き顔は、とても美しかった。翔ちゃんを想って泣いているのだとしても、僕が支えてあげたくなってしまうほどに。
勿論それは傲慢な考えだ。彼女は翔ちゃんを愛しているし、翔ちゃんだって彼女を愛している。そんなこと、僕以外の誰が見ていたって解る。ふたりの態度はあからさまなんだから。案の定、彼女は僕の助けを必要とせずに翔ちゃんとすぐに仲直りをした。これから先の人生も見据えて、翔ちゃんと付き合っているのだと思う。

僕は今まで翔ちゃんができなかったことを当たり前のようにやってきた。駆けっこも、水泳も、跳び箱だってそう。それでも自分が翔ちゃんより優れているなんて一度だって思ったことはない。翔ちゃんは常にかっこいいお兄ちゃんだった。僕の憧れだ。だからこそどうにかして翔ちゃんの病気を治してあげたいと必死に医学を勉強した。どんなに苦しくたって僕を不安にさせないようにいつだって笑顔を貫く翔ちゃんに、罪悪感も劣等感も感じていた。僕はどうしたって翔ちゃんみたいに強くなれない。翔ちゃんにできないことができていても、僕は一生翔ちゃんに敵わないと子どもの頃から思っていた。

だからこそ、病気が治って夢を叶えた翔ちゃんには、幸せになってほしいんだ。

僕の小さな恋慕で翔ちゃんに気を遣わせたりしたくない。勿論僕に遠慮するような愛し方をしているわけじゃないって解っているけれど、僕が翔ちゃんのことを大好きなように翔ちゃんだって僕のことが大好きだから、僕が彼女に恋心を抱いていると知れば翔ちゃんは傷つくし気にすると思う。ふたりが別れることはまずないけれど、翔ちゃんが少しでも嫌な思いをするとしたら、そしてその原因が僕なのだとしたら、そんな恋心はなかったことにした方がずっといい。
大好きな翔ちゃん。僕の自慢の翔ちゃん。だからこそ、僕が恋した女性とお似合いだと心底思うんだ。悔しさも寂しさもない。ふたりは本当にお似合いなんだ。

少しだけ、泣けてしまうほどに。

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翔ちゃんに劣等感を感じている薫ちゃんが書きたかっただけです。薫ちゃんは本当にいい男。
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