「お泊まり…」

していいですか…という言葉が消えていくようで全身からだらだらと汗をかいた。翔ちゃんのびっくりしたような顔。真っ赤なわたしに釣られたのか、ほんの少し頬を染めて「え?」と聞き返してきた。何度も言いたくはない。

「だから…、翔ちゃんの部屋にお泊まりしたいって、言ったの…」
「今日?」

こくこくと頷くけど照れ臭くて翔ちゃんの顔が見れない。いつもは別々で寝ているわたし達が一緒のベッドに入るのは、なんていうかその、えっちをするときだけなんだよね。つまりこれはえっちのお誘いみたいな感じに聞こえるかもしれないんだけど、わたしはそういうつもりじゃなくて、いやちょっぴりそういうつもりもあるんだけど、とにかく恋人らしい週末を迎えたくてお泊まりデートを提案しているだけ。あくまでこれはお泊まりデート。同棲しているのにお泊まりデートというワードがいまいちよく分からないけど、別々で寝ているわたし達にとってはそう。ちらりと翔ちゃんに視線を遣ると、翔ちゃんは照れ臭そうに頭の後ろを掻いて落ち着かない様子だった。

「俺は構わないけど…」
「じゃあ枕だけ取ってくるね」
「ん…」

何だか居たたまれなくてダッシュで自分の部屋に避難した。緊張で手足が震える。今日のために可愛い部屋着も買ったし、翔ちゃんが好きそうな香りのシャンプーも使った。いちゃいちゃできるといいなぁ。全身鏡の前で少し髪型を整えてから枕を抱いて部屋を出る。翔ちゃんは相変わらず落ち着かない様子で髪に触っていた。

「んじゃ、…来るか?」
「うん…」

お互いそわそわしながらだけど、翔ちゃんの部屋に招かれる。リビングにもやや大きめの観葉植物が置いてあるんだけど、翔ちゃんの部屋にも小さいのがいくつか置いてあって可愛いんだよね。帽子はお気に入りのがいくつか飾ってあって、あとは棚にびっしりと並ぶケン王シリーズ。コレクションしたがりな性格が出ている部屋で、でもこの翔ちゃんの好きな物たちに囲まれる部屋がとっても落ち着く。

「翔ちゃんの部屋じっくり見たの久しぶりって気がする」
「そうか? いつも来てんじゃん」
「うん、でもいつもは電気ついてないから…」

言ってからハッとする。しまった。恐る恐る翔ちゃんを見ると、翔ちゃんは静かに顔を赤に染めていく。あああ、わたしのバカ。

「ご、ごめ、」
「いや…、そうだ! 俺も今度お前の部屋呼んでくれよな」
「う、うん、片付けてからね…」
「なに、片付いてねーの?」
「うっ」

翔ちゃんがからかうように笑うから漸く気まずさが抜ける。ほっとして翔ちゃんのベッドに腰掛けると、翔ちゃんはわたしの腕から枕を抜き取って隅に置いた。それからわたしの隣に腰掛ける。

「今日はなんか可愛いの着てんな、初めて見たやつだ」
「へへ…ありがと。最近買ったんだ」
「ふうん。それを今日着てきてくれたんだ」

翔ちゃんがにやっと笑う。からかわれる気配を察知して、こういうときは素直になった方がいいと経験上分かるから、少し恥ずかしいけど思いきって言ってみることにした。

「うん。…翔ちゃんに可愛いって言ってほしくて…」

ちら、と反応を窺ったら翔ちゃんが深く息を吐いていた。吐ききると今度は深く吸い込む。深呼吸?

「翔ちゃん?」
「危なかった…可愛すぎて心臓やばい…」
「心臓やばい!?」
「これ以上好きにさせんなっつの」

翔ちゃんがわたしの頬に触れ、鼻先に軽くちゅってした。嬉しいやら照れ臭いやらでにやけると、翔ちゃんはそのまま体を倒してわたしを巻き添えにする。バランスを崩して一緒に倒れたら、翔ちゃんが寝転んだままわたしの髪を掻き上げた。

「なぁ、あんま可愛いことされると困るんだけど」
「困る?」
「こんな可愛い彼女が俺のベッドで俺のこと誘惑してくるんだぜ」
「ゆ!? 誘惑なんか…っ」
「部屋来て早々がっついたらかっこわるいじゃん…」

悔しそうに翔ちゃんがわたしの髪をわしゃわしゃ乱すから少し可笑しくて笑うと、翔ちゃんはもっとぐっと体を引っ付けてきて鼻をわたしの髪の毛に埋めてくる。

「すっげえいい匂いする。シャンプー変えた?」
「この香り、好きだよね?」
「もしかして俺のため?」
「うん…」
「あ〜〜…だめだ期待する…」

期待していいのに。この部屋着も、この香りも、翔ちゃんに好かれたくてやってるんだもん。わたしは下心ばっかりだよ。翔ちゃんがもっと好きになってくれるだけで、わたしは嬉しい。

「何で期待しちゃだめなの?」
「えっ、だって、お前…」
「翔ちゃん…」

ちゅ、と翔ちゃんの頬に唇をくっ付ける。翔ちゃんの肌に唇を付けるのが気持ちいい。見上げると、翔ちゃんはわたしに深く口付けながら覆い被さってきた。目付きが、変わった。

「肌、熱いな」
「っ…早く電気消して」
「もったいねーな」

翔ちゃんが小さく笑って電気を消す。大きな掌がわたしの体を撫でた。これじゃあいつもと同じのような気がするけど仕方ない。翔ちゃんの体温にわたしの肌を重ねたい。朝までくっついて、一緒に寝ようね。

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ベッドに来るといつもの習慣でえっちな気分になっちゃうふたり。名前様、お付き合いありがとうございました。
20180831
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