どこか遠くからセミの声が聞こえる。そっか、もうそんな時期かあ、早いなあ。年々上がる気温だけど今年も例年通り最高気温を更新していってる。温暖化はどこまで進んじゃうんだろうか。

「あれ」

バッグの内ポケットに手を入れると、入れておいた鍵がなくなっている。後ろに立ってる翔ちゃんが「あちぃ…」と漏らした。

「ちょっと待って」
「どした?」
「なんか、鍵が…」

あれ、あれ、とバッグの中を探る。コンビニの袋に飲み物やアイスを詰め込んでる翔ちゃんは、後ろでじっとわたしを見ていた。じりじり暑い日差しになんだか急かされる。

「わたしどこやったっけ…」

あれこれ詰め込んであるバッグの中は大変散らかっていて、中身を出さないと見つからないかもしれない。コンビニに行くだけだったんだからこんなに持っていかなくても良かったのに、昨日出掛けたまま放っておいたバッグをそのまま掛けてきたからバチが当たったんだろうか。ポーチ、お財布、次々とバッグから取り出していくと後ろにいた翔ちゃんが、とん、とわたしに凭れ掛かってきた。

「鍵? ねぇの?」
「あるはずなんだけど…」
「ふうん」

両手は袋を持ったまま、顎をわたしの肩に乗せてくる。暑いって言うくらいなら引っ付かなければいいのに、と思ってると翔ちゃんは突然わたしの耳に、ちゅ、と小さなキスを落とした。

「っ、翔ちゃん?」
「ん?」
「あ…、ちょっと、」

そのまま舌を出して耳の裏を舐められる。何で急に、というかここ外なのに、暑いのに、鍵が見つからないのに。翔ちゃんの熱い舌が耳朶を這い、耳の穴の縁をくるりと撫でてきた。びくっ、と肩を上げると翔ちゃんはわたしの足の間に自分の膝を入れて更に体を密着させる。

「し、翔ちゃん…っ、ここ、外だから…っ」
「じゃあ早く開けろよ」
「だから鍵探して、」
「早く入りたい」

くち、と耳の中で水音が響く。舌の先っぽでちろちろ遊ばれ、熱い息を送り込まれ、あ、腰がぞわぞわする。特別どこを触られてるわけでもないのに舌先だけで愛撫されてこんなになるなんて。震える手で必死に鍵を探すけど集中できない。翔ちゃんの舌が耳から抜かれ、今度は耳朶に歯を立てた。

「早く中入んないと見つかるかもな」
「だめ…っ、だから鍵、探させてっ」
「俺は待ってるだけなんだけどなあ」

嘘つき!
翔ちゃんを振り返ってキッと睨むと、翔ちゃんは声を上げて笑い出す。持っていた荷物を左手でまとめて持ち、右手はポケットに入れて鍵を取り出した。

「アイス溶けるしとりあえず入るか」
「翔ちゃんも持ってたなら早く出してよっ」
「怒るなよ、楽しかったじゃん」

ドアを足で支えて先に入らせてくれるけど、足癖が悪いのは後で注意したい。相変わらず鍵を探しながら中に入り、その間に翔ちゃんはアイスを冷凍庫に放り込んでいた。ソファに座って目の前のテーブルにバッグの中身を広げると、手帳の間に鍵が挟まっていた。

「あった!」
「ん、良かったな」

翔ちゃんがお揃いのコップに烏龍茶を入れて持ってきてくれる。翔ちゃんはすぐに口を付けて、わたしは受けとるとすぐテーブルに置いてバッグの中身を戻していった。翔ちゃんが見てる、気がする。

「なに?」
「ん…」
「ん?」

翔ちゃんもコップをテーブルに置く。それからわたしからバッグを取り上げると、それを足元に置いてしまった。なんだなんだと思っていると、顎を掴まれてキスをされる。

「…翔ちゃん」
「無理」
「だめ、せめてクーラー効いてから」
「無理だって」

再び、キス。舌で唇をなぞられていやいや首を振っても顎を掴まれて唇を割られる。ああ、すっかりスイッチが入ってる。

「な、ベッド行こ…」
「待って、こんな昼間から、」
「たまにはいいじゃん、俺の部屋でいい?」
「だ、だめ、」
「無理、連れてく」

翔ちゃんがわたしの足に腕を回して強引に引き寄せられる。お姫様抱っこ。翔ちゃんのスイッチはどこで入るか分からない。まだ微妙に温い部屋で、汗だくになるなんて。

「っしょ、うちゃ、」
「あっちい…」

ぼそりと呟いた翔ちゃんは部屋のドアも足で開けてベッドの上にわたしを降ろした。暑いならやめればいいのに、やめる気はないらしい。翔ちゃんが覆い被さり、影を落とした。



次にリビングに戻る頃、まだ口を付けていなかった烏龍茶はびっしょりとコップに汗をかいていた。わたし達とお揃い。

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うなじに汗をかいている後ろ姿にムラッときた翔ちゃん。名前様、お付き合いありがとうございました。
20170917
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