最近やたらそわそわしてるなあ、と思ってたけど今日は一層落ち着きがない翔ちゃんはあっちへこっちへ視線を移して大忙し。体が揺れてることに本人は気付いてるんだろうか。面白いからそのまま放っておいて、わたしはパリッとポテチを頬張る。最初は今日家族が家にいないからそわそわしてるのかなって思ってたけどそうでもないみたい、証拠に翔ちゃんはわたしの部屋に来てからまだ一度もわたしに触れてきてなかった。いつもふたりになれば手くらい握ってくるのになあ。

「これ新しい味なんだよ」
「お、え、そうなんだ」
「焦がしバター、美味しいよ」
「へ、へえ」

こんな具合。さっきから聞いてるのか聞いてないのか微妙な返事を繰り返して何度も唇を舐めながら膝の上で拳を握っている。ていうか、正座ってどうなの。

「あっ、あのさあ!」
「はい!?」

翔ちゃんの大きい声にびくっと肩が上がる。こんな狭い部屋でそんなに声を張らなくてもいいのに翔ちゃんは遂に腹をくくったようにわたしに話し掛けてくる。

「あの、さ……」

余程緊張しているらしい、今度は消え入りそうな声で翔ちゃんは顔を真っ赤に染めた。うーん、緊張してるなあ。わたしにまで緊張が伝わってきて思わず背筋が伸びた。

「お、おまえ、今月の24、25何してんの」
「え?まだ特に予定はないけど…」
「俺そこ休みだから空けとけ!いいな!」
「えっ、あ、うん…」

頷いてからわたしもじわじわ顔が熱くなってきた。今月の24、25って、もしかしてクリスマスのこと言ってる?いつもは翔ちゃんのお仕事がお休みになれば会うのが普通の流れだったのに、何で急にこんな誘い方するんだろう。ていうか、クリスマスなのに翔ちゃんお仕事ないのかな。

「あ、あの、その日って…、」
「別に何もない!!!」

力強い返事だ。

「あ、ないんだ…。てっきりお仕事が入ると思ってたよ。事務所の集まりもないの?」
「えっ、ああ、そ、そっちか。うん、今年は藍達の奴らがクリスマス単独ライブやるとかで不在だから事務所でもパーティーやらねえんだよ。ゲスト出演は他の事務所の奴がやるんだって。だから社長も忙しいみたいだぜ、楽しそうだけどな」
「そうなんだ!カルナイのライブ、ファンが凄そうだなあ…」
「確かにな。で、じゃあ俺らだけでパーティーやるかって話も出たんだけど、事務所入ってからずっと事務所の皆でパーティーしてたから、せっかく事務所で集まりがないんだったら今年は家族や友人と過ごさねえかってことになったんだよ。もしかしたら俺らもライブできることになるかもしんねえし、来年はどうなるか分からないだろ?」
「そうだったんだね!じゃあもしかしたら来年のクリスマスは翔ちゃん達のライブが見られるかもしれないんだ!」
「バーカ、ちょっとは寂しがれよ」

翔ちゃんはムッとして見せてから小さく笑った。そりゃ寂しいけど、翔ちゃんだってイベント日のライブに憧れてるの知ってるから寂しいなんて言えないよ。

「だからさ、今年は俺と過ごしてくれませんか?」
「翔ちゃん…」

翔ちゃんはわたしの手に自分の手を重ねた。今年で最後になっちゃうかもしれない、自由を許されたクリスマスなのに、わたしを選んでくれるんだなあ。嬉しくてわたしも翔ちゃんの手にもう片方の手を重ねる。

「はい、お願いします!」
「おう!」

翔ちゃんは嬉しそうにはにかんだ。笑顔が眩しくて心臓がドクッと跳ねる。ああ、世間の皆様ごめんなさい、皆のアイドル来栖翔をクリスマスに独り占めしちゃうなんて。わたしがちょこっと罪悪感を感じてるなんて1ミリも分かってない翔ちゃんはわたしの手を指で撫でて、ずっと口許をにやけさせていた。





で、気づいちゃったわけなんですけど、要するにクリスマスプレゼントが必要ってことになるじゃないですか。

「どうしよう〜…」

ベッドにうつ伏せになってスマホをいじる。うーん、クリスマスプレゼントかあ、何がいいかなあ。翔ちゃんはお洒落さんだから何あげればいいかますます分からないよ。ああやってわざわざ前以て誘ってきたんだから、翔ちゃんはちゃんとしたプレゼントを用意してきそうだなあ。去年もしれっとブランド物をプレゼントされたし、しかも超可愛かったし、今年は何をくれるんだろう。わたしもせめて翔ちゃんにお返しできるくらいの物を選びたいんだけど…。

「うーん、全然思い付かない!」

“クリスマスプレゼント メンズ”で検索をかけるのももう何度目か分からない。腕時計がいいかなあ、でも翔ちゃんの好きなブランドもよく分からないし、こないだ新しいの買ってた気もするし…。翔ちゃんはわたしのものを彼是気付いて褒めてくれるのに、わたしはあんまり翔ちゃんのものに注目してないんだなあと実感してショックを受ける。名刺入れもあんまり使わなそうだし、ネクタイピンも使わなそう。ううん、どうしよう。

「何か…翔ちゃんが好きそうなもの…」

最近会ったときの翔ちゃんの服装を思い出す。ううん、あれでしょ、これでしょ…、それで…。わたし目を閉じてううんううんと悩んだけど、ハッと目を見開いた。そういえばペアルックとかしたことない!

「いやでもアイドルがペアルックはまずいか〜…」

まずいなんて思いつつも頭の中ではお揃いのパーカーを着てるわたしと翔ちゃんがもう既に想像できていた。まずいなんて口だけで、あのデザインがいいかな、それともこっち、と脳みそが勝手に想像を広げる。

「まあ、いいか…」

わたしは枕に顔を埋めた。別にそれを着て目立つ場所に出掛けたいなんて言ってないし、ただお揃いのものを着てみたいってだけで、翔ちゃんならきちんと変装もしっかりしてくれるだろうし、それにさあ、すごく可愛いと思うんだ。

「翔ちゃんとペアルックかあ…」

呟いたら心臓がドキドキしてきた。思い立ったら即行動がモットーだから早く買いにいきたくて仕方ない。明日早速出掛けちゃおう。口許がにやにやだらしなく緩む。ああ、翔ちゃん大好きだなあ。

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学生のペアルックをよく見かけるのでこの歳らへんの子達はお揃いが好きなのかなあ。名前様、お付き合いありがとうございました。
20161214
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