ガチャ、と鍵の音に反応して勝手に体が動いた。ずっとずっと会いたかった。小走りに玄関まで行くと、翔ちゃんがわたしに気付いてニカッと笑ってくれる。

「ただいま!」
「し、翔ちゃん……」
「んー?」
「おか、えりっ」
「おう、ただいま」

勢いよく抱き付くと翔ちゃんは小さく笑ってわたしの頭を撫でてくれた。もう片方の手は背中に回してとんとん叩いてくれる。

「寂しかったな」
「うん」
「ごめんな。もう帰ってきたから」

翔ちゃんは少し体を離すとわたしの顔を見てまた笑って、指で頬に触れてきた。翔ちゃんの温もりが安心する。

「とりあえず部屋入ろうぜ、お前に話したいことたくさんあるしな」
「うん。ごはんもできてるからね」
「助かるー。お前の手料理も久しぶりだもんな」

翔ちゃんに促されてリビングに入り、翔ちゃんを椅子に座らせて軽くごはんを暖め直す。熱々になったたまごスープをひとくち啜り、あちっ、と翔ちゃんは肩を上げた。

「ふふ、もう翔ちゃん、急ぎすぎだよ」
「腹減ってたんだよ。いいだろ、久しぶりのお前の飯にがっついても」
「はいはい」

翔ちゃんはひとくちが大きい。よく噛むんだよっていつも言うんだけど聞いてるのか聞いてないのか分からない返事をしてあっという間に平らげちゃうからもう言っても無駄な気がする。お皿からどんどんおかずが消えていく。

「はー…、しあわせ」
「相変わらず早いなあ…」
「ごちそうさまでした!片付けやるからちょっと待ってろ」
「いいよ疲れてるでしょ、わたしやるから座ってて」
「いいから。俺がやりたいの」

翔ちゃんはわたしを椅子に座らせて食器を運び、洗っていく。翔ちゃんのこういうところが好き。洗ってる翔ちゃんをじっと見つめていたら翔ちゃんが視線に気付いて微笑んでくれた。かっこいい。久しぶりに会ったらますます好きが増しちゃうよ。

「なぁに見てんだよ」

翔ちゃんが食器を洗い終えてこっちに戻ってきた。にやにやしてて翔ちゃんだって嬉しそうなんだからわたしのことばっかからかえないんだからね。

「久しぶりに会えたの、嬉しくて」
「あー…、ごめん、1週間くらい会えてなかったもんな」
「ううん、大丈夫だよ!大丈夫なんだけど…、」

上手く言葉にできなくて下を向いた。寂しいとは思うけどアイドルというお仕事を責めてるわけじゃない。テレビに映ってキラキラ輝いてる翔ちゃんはすごくかっこいい。なんて伝えようかなあと思っていたら翔ちゃんがわたしの背中と膝裏に手を回して、ひょいっと体を持ち上げた。

「っひゃあ!?」
「ちょっと移動、早く引っ付きたい」
「し、翔ちゃん…!」

言えば移動するのにわざわざお姫様抱っこなんて。意外とがっしりしてる腕に抱かれてソファに降ろされる。翔ちゃんはわたしの隣に腰掛けると、すぐにわたしの肩口に顔を埋めた。

「あー、名前だ」
「どうしたの?」
「俺だって寂しかったんだよ」

翔ちゃんのちょっと掠れた弱気な声。甘えられてるときに出る、かっこよくて色っぽい声だ。嬉しくて口許を緩めると翔ちゃんはわたしの手を握ってきた。

「同棲始めたばっかなのに寂しい思いさせてごめんな。俺よりずっと寂しかったと思う」
「ううん大丈夫だよ」
「大丈夫なんて言うなよ。…俺は全然大丈夫じゃなかった」

翔ちゃんの声が切なそうに響く。わたしだって寂しかったけど、あんまりたくさん言ったら翔ちゃんが困っちゃうじゃん、いい彼女でいたいのに、翔ちゃんはずるいなあ。じわ、と目頭が熱くなるのを感じて慌てて瞬きを繰り返す。翔ちゃんは体を離してわたしの顔を覗き込むと、指で顎を持ち上げた。

「…なぁ、触れてもいいか?」
「うん…」

どちらからともなく唇を重ねる。柔らかい感触。翔ちゃんは何度か角度を変えながら啄んで、次第に深いキスへと変えていった。甘くて蕩けそうで、熱を分け合うようなキス。舌を絡めて温もりを確かめてると、翔ちゃんはわたしの服の裾から手を入れてきた。背中をつつぅと触られる。

「んっ、ふ…っ」
「…」
「ぁ…ん、ん…」

翔ちゃんの手のひらが背中を行ったり来たり。やらしい手つきで優しくなぞってわたしの反応を窺うようだった。耐えられずに翔ちゃんのシャツを握ると、翔ちゃんはさらに角度を付けてわたしの口内を貪った。

「は、むぅ、ん…」
「ん…」
「んんっ、ん、ぅ」

薄く目を開けると同じく薄く目を開けている翔ちゃんと視線が合う。こんな近くで恥ずかしくて慌てて目を閉じると、翔ちゃんが小さく笑って唇を離した。最後に唾液を舐めとるようにもう一回小さくキスをされる。

「お前、もうとろんとしてる」
「だ、だって、翔ちゃんが…」
「俺が?」
「触るから、だもん…」

小さい声で返すけどちゃんと拾ってくれて、翔ちゃんは服から手を抜き取る。またわたしの手を握ってきておでこ同士をくっつけた。

「お前可愛すぎ、俺のことこれ以上ドキドキさせてどうすんだよ」
「え…、翔ちゃんもドキドキしてるの?」
「当たり前だろ。いつもドキドキしてるけど今日は久しぶりだから特にしてる」

翔ちゃんの顔が少し赤い。見てたら釣られてわたしの顔も熱くなってきた。翔ちゃんがまた唇をくっつけて、指を絡めてくる。

「お前もう寝る?」
「えっ?ま、まだ起きてるかな」
「そっか…」

ちゅ、ちゅう、翔ちゃんは唇を何度もくっつけてくる。

「…なぁ、久しぶりに、…だめ?」
「えっ!?な、なにを?」
「だから、そういうこと…シたくなってきた…」
「え、えっと…」

翔ちゃんは返事を待つ間も何度もキスをしてきて、上目がちにわたしを見上げる。そんなおねだりみたいな言い方、ずるいよ。

「名前、早く答えて」
「えっあっ、」
「あー…、やっぱ待てねぇ…」

翔ちゃんはわたしにもう一度キスをしてまたわたしの体を持ち上げる。こんな軽々持ち上げられるような体重じゃない気がするんだけど、涼しい顔してお姫様抱っこする翔ちゃんかっこいいなあ。翔ちゃんは自分の部屋にずんずん進んでいって、行儀悪く足でドアを開けた。部屋の電気も付けないままにわたしをベッドに優しく降ろす。

「は…っ、名前…」
「翔ちゃん…っ、」

見下ろす翔ちゃんの視線が余裕なく揺れていて、わたしは覚悟を決めて翔ちゃんの首に腕を回した。まだこういうのは恥ずかしいけど、慣れていかないと。

「し、翔ちゃん、優しく、だよ…?」
「っ…ほんと、可愛すぎる…」

翔ちゃんは再びわたしに深いキスを与えながら、服の裾から手を忍ばせた。

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久しぶりの彼女にあんまり優しくできない翔ちゃん。名前様、お付き合いありがとうございました。
20161204
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