お風呂はあんまり好きじゃない。入るまでが億劫だし、出てからも髪を乾かすのがめんどくさい。お風呂を上がってパジャマを着ると、タオルを頭に被せたままリビングに戻った。

「お、上がったか」

ソファに腰掛けている翔ちゃんは雑誌からパッと顔を上げてわたしを見る。こういうふとした瞬間も、嬉しそうな笑顔を向けてくる翔ちゃんにきゅんってしちゃう。可愛いなあ。

「上がったよー」
「お前濡れたままでいるなよ、湯冷めするだろ」

あ、笑顔がなくなった。翔ちゃんの笑顔はずうっと見ていたくなっちゃうけど、表情がころころ変わる翔ちゃんはずうっと笑っててはくれない。わたしを見るなりもう呆れたように目を細めていた。

「めんどくさいんだもん」
「だもんじゃねえよ、まったく。せっかく暖まったのにそれじゃあ意味ねえだろ」

翔ちゃんはお兄ちゃんだからあれこれと世話を焼きたがる。同棲する前から感じていたけど、最近は特にそれを実感している。ソファに近付くと翔ちゃんはわたしの手を引いて隣に招いた。

「ほら、じっとしてろよ」
「…ん」

タオルを奪われたかと思いきや優しく髪を包まれた。丁寧にタオルドライしてくれて、やわやわと拭かれる。そんな弱々しく触らなくてもいいのに。

「お前ほんといい匂いするな」
「そう?翔ちゃんも同じシャンプーでしょ」
「あー…、確かに同じものにしてから皆に匂いが甘ったるくなったってよく言われる…」
「ふふ、女の子のシャンプーだもんね。ますます女子力上がっちゃう」
「うるせえよ!いいんだよ、同じ匂いって嬉しいだろ」

ぼそぼそと声を漏らすようにして手を動かす翔ちゃん。照れてる照れてる。分かりやすくて口が緩むけど、あんまりからかうと拗ねちゃうから我慢。翔ちゃんがタオルを外し、ドライヤーのコードをコンセントに差し込んだ。

「今日は俺が乾かしてやるよ」
「えっ、いいの?」
「おう。前は泊まりのときくらいしか乾かしてやれなかったからな」

ブォオオ、と優しい温風が吹き出て、翔ちゃんがそれをわたしの髪に当てる。髪に指を差し込んで、頭皮が刺激された。

「嬉しい、翔ちゃんにしてもらうの好きなんだ」
「え?なんて?」
「翔ちゃんの指が好きって言ったの!」
「ばっ、な、何だよ急にっ!」

ドライヤーの音のせいで声が通りにくい。声を張ると翔ちゃんがすぐ動揺してガシガシ髪を乱した。照れ屋さんめ。顔が見えてなくても今翔ちゃんが真っ赤になってるのが簡単に想像できてまた口許が緩んだ。

「お前の髪すげえサラサラだよな」
「そうかな?翔ちゃんがアドバイスくれるからだよ」
「俺何か言ったっけ?」
「ほら、同じシャンプーばっかり使ってると良くないとか、寝る前にブラッシングしなきゃだめとかさ」
「ああ、あれな」

指が髪の毛に絡み、その刺激が心地好い。気持ちよくて目を細めると、そのまま瞼がくっついちゃいそう。翔ちゃんはわたしの髪を何度も持ち上げて下からドライヤーを当てたり、たまにくしゃくしゃ乱してから手櫛で整えたりしてくれた。何だか眠たくなってきたなあ。髪を根本から乾かしていって、それから毛先を乾かしていく。頭皮が擽られるように指が動き、それもまた気持ちいい。わたしが乾かすとすごく時間がかかるのに翔ちゃんが乾かしてくれるとあっという間に乾いちゃう。すごいなあ。

「ん、こんなもんかな」

カチッと音がしたと思ったら温風が止み、どうやらドライヤーは終了してしまったみたい。ささっと仕上げに手櫛で梳くと、終わりとばかりにわたしの頭にぽんと手を置いた。名残惜しい。

「ん、ありがとう」

振り向くと翔ちゃんは一瞬目を丸くしたけどすぐに笑顔になった。本当に表情がころころ変わる。

「何とろんとしてんだよ」
「んふふ、気持ちよかったから。翔ちゃんにしてもらうの大好きなんだもん」
「そっか。またいつでもしてやるよ」
「うん」

釣られてわたしも笑って見せると翔ちゃんは嬉しそうに口許を緩ませてわたしの頭を両手で包む。それから顔を近付けて、おでことおでこをくっつけてきた。

「今度俺にもして」
「うん、いいよ」
「俺もさ、…お前に触られんの、好き」

言ってから恥ずかしくなったのか、翔ちゃんは頭をぐりぐり揺すっておでこを当ててくる。か、可愛い…。もう3年も付き合ってるのにこういう些細な仕草に未だにきゅんきゅんしちゃうなあ。

「翔ちゃん、わたしに触られるの好きなんだ」
「なっ、なん、だよ」
「ふふふ」
「何笑ってんだよっ」
「いやあ、嬉しくて」

にまにましてるとおでこが離れ、翔ちゃんがムッとしたように唇を尖らせていた。この表情も可愛くてお気に入り。じっと眺めてると翔ちゃんがそれを一瞬だけわたしの唇に重ねてきた。ちゅ、と僅かに湿った音がする。

「からかうなよ」
「翔ちゃん、ちゅうした」
「…した」
「ふふふ可愛い」
「は、はあ!?何だよっ」

ますますむくれる翔ちゃん。本当に可愛くて癒されるなあ。にまにまし続けてたら翔ちゃんも釣られて笑い始めた。優しくて穏やかな笑顔。

「お前眠そうな顔してんな」
「うん、気持ちよかったから眠たくなっちゃった」
「じゃあもう寝るか?」
「そろそろ寝よっか」

ふにゃ、と気の抜けた笑い方をした自覚はあったけど、翔ちゃんの指摘通りそこそこ睡魔がやってきていた。翔ちゃんはそれを見てわたしの横髪を耳に掛けてくれる。

「お前のその顔、すっげえ可愛い…」
「え?」
「何でもねえよ。じゃあ、おやすみのキスな」

ちゅう。さっきよりも少しだけ長いキスをすると、翔ちゃんは幸せそうに微笑んだ。わたしも翔ちゃんのその顔が大好きだよ。翔ちゃんの手がわたしの髪に触れる。

「おやすみ、名前」
「うん、おやすみ」

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会話文多めですが糖度は高めに。名前様、お付き合いありがとうございました。
20161130
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