「む、あ…?」

日曜日の朝。
今日は1日寝ようと思っていた名前ちゃんですがバスルームから音がして目が覚めました。一緒に暮らしている蘭丸さんが帰って来ているようです。蘭丸さんとは少し前から同棲をしているのですがお互いの生活リズムが全く合わず、お家で顔を合わせることはどんどん少なくなっていました。名前ちゃんは嬉しくなってもそもそと布団から顔を出します。

「んん…蘭丸さん…」
「お。起きたか?」

名前ちゃんが体を起こすと、蘭丸さんはちょうどお風呂を上がったようです。タオルで乱暴に頭を拭きながらベッドサイドへ腰掛けました。

「蘭丸さん帰ってたんだね。お帰りなさい」
「ただいま。まだ寝ててもいいからな」
「ううん、蘭丸さん久しぶりだから…」

ふにゃ、と笑い掛ける名前ちゃん。朝晩逆転のような生活をしていた蘭丸さんにきちんと会えたのは3日ぶりだったのです。ほかほか湯気を纏った蘭丸さんに擦り寄ると、名前ちゃんは幸せそうに口許を緩ませます。

「お風呂上がりだからあったかですね」
「おー…」
「いいにおい、する」
「…」

蘭丸さんに抱きつくように腕を回し、胸元でくんくんと匂いを嗅ぐ名前ちゃんに、蘭丸さんはムラッと来てしまいます。蘭丸さんだって忙しいお仕事の中、名前ちゃんに会いたくてどうしようもなかったのです。

「名前…」

蘭丸さんはタオルを置くと、名前ちゃんの名前を切なげに呼んで視線を奪います。きょとんと自分を見上げる名前ちゃんが可愛くて仕方ありません。

「っは、…ん」

唇を重ねると、名前ちゃんは驚いたように息を漏らしました。ちゅ、ちゅう、と角度を変えて唇の感触を確かめます。次第に心地好くなってくると名前ちゃんは蘭丸さんの裾をきゅうと握るのですが、蘭丸さんはこの瞬間がたまらなく好きでした。舌を入れ、名前ちゃんを堪能します。

「ん…っ、ん、む」

初めてキスを教えてから大分経つのですが、未だに名前ちゃんの動きはぎこちなく、一生懸命蘭丸さんの舌を追っています。蘭丸さんはそんな名前ちゃんも可愛くて大好きでした。柔らかい頬の内側の感触、唾液を乗せた熱い舌、小さい奥歯、蘭丸さんは名前ちゃんの口内をじっくり愛撫します。唇を離すともう既にトロトロな顔を見せてくれました。

「あ…ぅ、らんまる、さん」
「はぁ…」

俺を誘うのが上手いガキだな、と蘭丸さんは溜め息をつきます。キスひとつで蕩けてしまう名前ちゃんは確かに煽り上手ではあるのですが、蘭丸さんが上に乗っかると名前ちゃんはいやいやと首を振りました。

「あ…や、蘭丸さん、待って、」
「待たねぇ」
「だめっ、だめです、まだ、朝なのに、」
「関係ねぇよ」

ちがうのに。名前ちゃんは困ったように蘭丸さんを見上げます。本当は久しぶりに会ったのですから、抱き締め合って体温を分け合い、会ってない間に何があったのかお喋りをして、ふたりでまったり過ごしたかったのです。それなのに、蘭丸さんはギラついた目で名前ちゃんを見下ろすばかり。名前ちゃんの服を捲って下着のホックを外します。

「寝てたからか?体熱いな」
「っ、ひゃ、あ」
「名前、口開けろ」

会えばこうして体を重ね、疲れて寝てしまうと蘭丸さんが仕事に行ってしまっています。毎度そうなのです。どんどんふたりの時間がとれなくなっているのに、蘭丸さんは分かってくれません。

「や…、いやです、蘭丸さん…!」
「嫌って言ったってお前だって感じてんだろ?」
「あっ、ん、や、やめ…っ」

体を捩りますが蘭丸さんは退いてくれません。名前ちゃんは悲しくて、ぼろっ、と絵に描いたように大粒な涙を溢しました。蘭丸さんはギョッとします。

「なっ、なんで、泣いてんだよ…」
「うぅ…っ、う、やだって、いったのにぃ…っ」
「そんなに嫌だったのか…?」

ぼろぼろ止まることの知らない涙は後から後から出てきてしまって、名前ちゃんは両手で拭いながらぐすぐす泣きじゃくります。蘭丸さんはどうしたらいいのか分からず、体を起こして落ち着きなく視線を揺らしていました。泣き止んでほしくて背中に触れるとビクッと肩を揺らされるものですから、慌てて手を離して行き場のない手を見つめました。困ってしまいます。

「あー…、その、悪かった」
「う、っう、」
「シたくねえときもあるよな…悪い」
「ち、ちがい、ます」

嗚咽を交えながら名前ちゃんは蘭丸さんを見上げました。可哀想に、鼻の頭が真っ赤です。

「いつも、おもってた。いつかいおうとおもってたの、に、なかなかいえなくて、」
「なっ……待てよ、ずっとシたくなかったってことか?」
「だって、らんまるさんと、もっとちがうことしたかったのに」

一生懸命話してくれる姿は健気で可愛らしいのですが、この状況では何も感じられません。蘭丸さんはショックでした。会えない時間を埋めるように互いの熱を感じて愛し合っていたと思っていたのに、全部一方的なものだったのです。

「悪い…」

素直にそう言うしかありません。視線を床に伏せてしょんぼりと俯いてしまう蘭丸さんの手を、名前ちゃんは両手で優しく握ります。

「わたしは蘭丸さんが、好きです」
「…おう」
「でも蘭丸さんは、いつもわたしの体ばっかり…。たまには、言葉でも愛してほしいの」
「…」
「もっと蘭丸さんとお喋りがしたかっただけなんだけど、急に泣いたりして困らせてごめんなさい。…蘭丸さんは、こんなわたし、嫌いになっちゃいましたか…?」

不安そうに蘭丸さんの顔を覗くと、蘭丸さんはそれを見せまいと名前ちゃんを強く抱き寄せました。少し乱暴なくらいの力加減が妙に安心させてくれます。

「っ、そんなこと言わせるなんて…悪い。がっつきすぎちまったな」
「蘭丸さ、」
「お前のこと嫌いになるわけねぇ。愛してる。これからもずっとだ」
「う…、蘭丸さん」
「本当に悪かったな。お前の気持ちを考えられてなかった」

蘭丸さんの胸板へ強引に顔を押し付けるような体勢から少し動いて抜け出すと、名前ちゃんは蘭丸さんの顔をやっと見上げることができます。

「じ、じゃあ、今度から少しずつ、言葉でも愛してくれる…?」
「…努力する。何でも言葉にするのは得意じゃねえけど、お前に泣かれるのはごめんだからな」

蘭丸さんはポンッと名前ちゃんの頭に手を乗せます。大きな手のひらから温もりが伝わり、名前ちゃんはホッとしたように笑顔になりました。蘭丸さんもそれを見て安心したように笑顔を溢します。

「朝飯作ってやる、何がいい?」
「いいの!?お、オムライス…!」
「ったく、好きだなお前は」

くしゃっと髪を撫でると蘭丸さんはベッドから出ていきました。良かった、分かってくれた。名前ちゃんの心臓はとくとくと高鳴り、久しぶりのまったりした休日への期待を高めていました。


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