(( 休日の朝 ))




「腹減ったな…」

カーテンから漏れる光が眩しすぎて彼は眉間に皺を寄せながら寝返りを打つ。同じく目を細めた彼女が彼を眺め、布団に身を包みながらゆっくりと目を閉じていった。気怠そうに溜め息を吐いて見せる。

「朝は翔が作りなね」
「朝はっつーか、全部俺じゃねえか…」
「わたしを動けない体にしてるのは誰?」
「っ…」

昨日の激しい交わりを思い出したのか、彼は瞬間的に顔を赤に染めていった。お互いの熱を貪るように体を重ね、彼女が快感に耐えられなくなってからも彼は止めなかったのだ。初めての頃に比べれば行為自体には慣れてきたのだが、こういう反応は相変わらず初々しい。寝癖が付いた髪を弄りながら彼は唇を尖らせる。

「分かったよ…ったく」

ギシ、とスプリングが軋んで彼の重みが消える。布団に熱を残しながら、彼は脱ぎ散らかっている服の中からスキニーだけを拾い上げてキッチンへ向かっていった。彼の温もりに擦り寄るように彼女は寝返りを打つ。

「玉子焼き、チーズ入れていいか?」
「いいよ、あと大葉!」

キッチンから飛ばされる声に返すように張り上げると、暫くしてから卵が割れる音が聞こえた。手際が良く、かなり慣れている。というのも、同棲を始めてからは大体彼が作っていたから自然と鍛えられてしまったのだ。せめて疲れた体を労ろうとマッサージを試みたら逆に体を疲労させてしまうことになったのが昨晩の事、それでも彼は何でもないようにけろっとしているので余程仕事で体力を付けているのだろう。対して普段から動くことをしない彼女は体に負担がかかりすぎる。鉛のように重い瞼を幾度と瞬かせてから結局閉じることにした。彼の匂いが鼻を擽って心地好い。優しい彼の手、温もり、それらを鮮明に思い浮かばせるには十分だ。規則正しい呼吸を繰り返すと脳が浮遊しているようで彼が食材を刻んでいる音など全く気にならなかった。彼女は体の力を抜いていき、布団の温もりを逃さないように頬を擦り寄せる。彼本人にはなかなかしない行為だが、彼の残り香だからこそ思う存分堪能し、彼の残した熱だからこそ想像で愛おしくなれることもあるのだ。

「名前ー」

そんなに時間が経ったようには感じなかったのだが、時間にしてみると20分程度だろうか、ひたひたと裸足のままの足音が近付いてきて遠のいていた意識を戻させる。まだ瞼は重くて開きそうにない。

「おい、名前」
ギシ、とベッドに彼の重みが加わる。前髪に触れられる感覚がしてやっと瞼が僅かに反応を見せた。彼は前髪を退かすと額を指でなぞる。

「朝飯できたぞー」
「んー…」
「手間の掛かるお姫様だぜ…、ほーら」

瞬間、彼女の身を包んでいた布団が勢い良く剥がされた。一気に外気に触れて体温が下がる。彼女が下着姿だということも忘れていた彼は慌てて布団で顔を隠すが、自らが脱がせたという反応とは到底思えない。

「ねえ、寒い」
「だ、だめだだめだ!返したらまた寝るだろ!」
「当たり前でしょ」
「朝飯できたってば!お前が好きな大根の味噌汁も作ったから!」
「うーん…」

渋々といった様子で目を開けると、視界の隅で自分の顔を隠している彼を見つけて呆れてしまった。愛い反応だと思うときもあるが、いつまでもそれでは困ってしまう。こちらを見ようともしない彼に溜め息を吐いてから、ねえ、ちょっと、と投げ掛ける。

「どうせまだ腰が痛くて立てないんだからもう少し寝かせてよ」
「こ、腰って、お前…っ」
「何照れてんの」

自分がやったんでしょ、という言葉は喉の奥で留まった。耳まで真っ赤にしている彼をこれ以上追い詰めても無駄だと判断したのだ。気怠さを抱えた体に鞭を打って上半身を起こし、ベッドサイドに突っ立っている彼から布団の端を引っ張る。

「翔」

声を漏らした瞬間、しまった、と彼女は手を引っ込めた。彼は熱を帯びた炯眼で此方に視線を遣っていたのだ。ぎくりとしながらも目を逸らせない。

「し、翔、」
「わり…」

視線は揺れることなく、彼の手が彼女の頬へ添えられた。やや強引に上向きに掴まれ、スプリングが軋む。その音が耳に入ってきた頃にはもう彼女の唇は彼のそれで塞がれていた。

「んっ…む、」

早急に熱が唇をなぞり、反射的にそれを口内へ招き入れる。ギシ、ギシ、とやけに煩い音が気にならないくらいに口腔を貪り嬲られた。ベッドサイドにいたはずの彼はいつの間にか彼女の上に覆い被さって器用に舌を遣って粘膜を擦っていく。

「はぁ、ん」

唇の隙間から漏れるのは微かな吐息とお互いの唾液。何時もなら舐め取るそれを口端から伝わせたままに、彼は彼女の下着をずらして胸に触れた。

「ん、ん!」

肌の上を滑る指は相変わらず骨骨しく、男を知った彼女の体はそれだけで次第に熱を帯びていく。彼が唇を離した頃には彼女の表情は蕩けたまま目に薄く涙が張っていた。

「お前、今日は1日休みだったよな」

見下ろす彼の表情は雄々しく、その言葉がどんな意味か理解するのに時間は要らなかった。彼女の体に休日はないらしい。彼女は観念したように眉を歪ませる。

「とんだ休日になりそうだけどね」



END
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真面目な文章リハビリです。翔ちゃんはどこでスイッチが入るか分からない子だと可愛いなあと思っています。名前様、お付き合いありがとうございました。
20160609
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