東京ドームから生中継で大人気アイドルがライブをしている。彼等はテレビでそれを見ながらソファに深く腰掛けていた。
「…いいなぁ」
彼がぼそりと漏らした。彼女が彼に目を向けると、彼はじっとテレビを見つめていた。
「年越しライブ?」
「あぁ。いつか絶対してえな。いや、するんだけど」
彼はじっとテレビを見ながら言う。単にテレビを楽しんでいるわけではない。歌やパフォーマンス、会場の盛り上げ方なども学んでいるようだ。彼女はそんな彼の肩に頭を寄りかけた。
「そっか」
(じゃあ一緒に年を越せるのもこれが最後になるかもしれないのかぁ…)
彼女は複雑な心境のまま彼に擦り寄る。ST☆RISHほど人気グループであればきっと実現されてしまう夢だからだ。年越しライブはないとは言え新年あけおめ全国ツアーはあるのだから。
彼は生中継が終わるまでテレビから視線を逸らさなかった。いくら彼女が腕を絡ませてもじっと真剣に勉強をしていた。プロの顔だと思った。彼のそういうところが結果に繋がるのであろう。彼女は熱心な彼に小さく笑い、同じくテレビを見ていた。
「さて」
彼がテレビを消す。時計の針はもう2時過ぎを指していた。普段の彼等からしたらだいぶ夜更かしをしてしまった方だ。彼女はうとうとしながら目を擦り、彼は…、
「あ、れ」
一瞬体が浮いたように感じた彼女だが、よく見たら本当に浮いていた。彼が軽々と彼女を姫抱きしているのだ。小柄ではあるがしっかりとした腕で彼女を抱き上げることなど容易い。
「…翔ちゃん…?」
「新年初めの営みをしようぜ」
「ブフッ」
姫抱きされながら思わず吹き出す。あの彼が素でそんなことを言うはずもなく、彼女は彼の腕の中でぷるぷる震えながら必死に笑いを堪えた。
「し、翔ちゃん、それ誰に教わった台詞…」
「こないだレンが言ってた」
「やっぱり…!」
あんなタラシになりたくねぇだの何だの言いながら、彼はレンに恋愛の相談をする。彼がくさい台詞を言っていたりキザな行動をしているときは大抵レンからの受け売りだ。そうこう考えていたら彼は彼女を姫抱きしながらベッドへと運んでいく。とさりと降ろされた場所は年末大掃除だからと言って今日干したばかりの布団の上だった。正直寝たい彼女はこれから何時まで付き合わされるのだろうと不安げに彼を見上げる。彼は彼女に覆いかぶさりながらニッと目を細めた。
「ちょっとストップ」
「え」
「翔ちゃん、今日は何日ですか?」
「1月1日…だろ?」
「ですよね」
「それがなんだよ」
「姫はじめって言葉知ってる?」
彼女が訊くと彼は少し恥ずかしそうに視線を逸らす。まあ、その、あれのことだろ、と頭を掻く姿を見れば分かっているのだと分かる。つまるところ新年男女が初めて行うセックスのことなのだ。
「姫はじめってね、実は1日にしちゃだめなんだよ」
彼女の言葉に彼は目を見開く。嘘だろ、と顔に書いてある。確かに毎日行為を重ねている彼には拷問とも呼べる我慢のひと時かもしれないが、彼女はとりあえず寝たかったのだ。昔の習慣を引っ張り出して今日は諦めさせて早々寝ようと企んだ。暫く沈黙が続いたが、先に破ったのは唇を尖らせて若干拗ねた彼だった。
「…なぁ、何でだよ」
「知らないよ、昔の習慣なんだから理由なんか知ってるわけないでしょ」
彼女は布団の中に潜り込み、いよいよ寝る大勢だ。彼も横に並ぶがイマイチ納得いっていない。
「じゃあ、今日、」
「シないよ。明日初日の出も見たいし、寝よ。2日になったらすればいいじゃん」
「…」
彼はがっくり項垂れた。そんな彼を放って彼女は目を閉じる。長い睫毛を伏せられれば、その色っぽさに彼もギリギリ奥歯を噛み締めたくなるほど悔しくなり、我慢も限界だったのかそのまま彼女に口づけた。
「…、ちょ」
柔らかいものが口に当たってびっくりした彼女は目と一緒に唇も開いてしまう。そこへ彼はぬるりと舌を捩込んだ。
「ん…っ、ぅ」
舌を舌先で舐められる。ぺろぺろと言うよりはねっとりとした動きだ。ゆっくりだがしっかりと絡みつき、奥や裏側まで舐められる。時折ぢゅくっと卑猥な音を立てて口の中の唾液を吸引される快感に彼女は思わず肩を上げながらシーツを握って口腔への愛撫に応えた。いつもは舌を絡ませるのに夢中で口の端から零れてしまう唾液も、今日は彼が全て舐めとって飲んでくれる。そんな行為がやけにいけないことに感じ、彼女ははぁうと熱っぽく息を吐いて彼の肩を押した。彼は細く目を開けて彼女を見て、渋々唇を離す。
「っふ、あ…っくるし、」
「わり…」
「翔ちゃん、今日はだめって…」
彼女が目を潤ませながら彼を見上げると、彼もまた熱っぽい欲情した目で彼女を見下ろした。
「分かってる、だからキスだけ…」
彼は彼女の頭を撫でながらもう一度舌を絡めてきた。いつもより丁寧で優しいキスに彼女もうっとりと身体の力を抜いた。ああ、やっぱ、このままシてもいいかなあ。そこまで思っていたが、口の中から舌が抜き出される感覚にハッと我を取り戻した。
「わり…、もう寝るか」
「う、うん…」
彼は大人しく彼女の横へ寝転がる。満足したわけではなく、軽く勃ってしまったからだ。早めにおさめないと彼女を襲ってしまうかもしれない。彼は自分をぐっと堪えた。一方彼女もちょうど良い具合に身体が火照ってきた頃だったので、急にやめられて物足りなさは感じていた。しかしやはり睡魔もそれなりにきていたので大人しく眠ることにする。
「それじゃあね、おやすみ翔ちゃん」
「あぁ、おやすみ」
いつも通りぎゅうっと彼に抱き着いた彼女は数分もしないうちにすぅすぅ寝息を立てた。彼はそれをじっと見つめ、ただ熱がおさまるのを待っていた。
彼は初日の出を見逃した。
END
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あけましておめでとうございます。今年も思春期真っ盛りのプリンス達を書いていきますのでよろしくお願いします。名前様、お付き合いありがとうございました。
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