お昼休みが終わりました。さっきまでグラウンドでサッカーをしていた音也くんは保健室へ向かっていました。膝を擦りむいてしまったのです。いつもは気にしない傷ですが、今日のはなかなか血が止まりません。痛みは少ないですが自分の血で学校の床を汚してしまうのは申し訳ないので絆創膏を貰おうと思ったのです。

「せんせー」

ガラッ。音也くんが保健室のドアを開けると誰もいませんでした。出直そうかとも思いましたが、やっぱり血が止まらないので勝手に絆創膏だけ貰ってしまおうと思い、中に入ります。

「えーっと、絆創膏…」

音也くんが棚をあさっていると、奥のベッドの方から弱々しい女の子の声が聞こえます。

「おとや…?」
「ん?…名前?」

音也くんは声のする方へ歩いていきます。ベッドを区切るカーテンをそっと開けると、先日付き合い出したばかりの名前ちゃんが真っ青な顔をしてうずくまっていました。

「あ、やっぱり音也だぁ…」
「そんなことより名前顔色悪いよ、どうしたの!?」
「あ、たいしたことないから大丈夫…あと先生は今いないよ…?」
「うん、みたいだね」

音也くんは名前ちゃんの横に座りました。2人きりでベッドの上だ、なんて名前ちゃんはぼんやり思いました。




(( 保健室 ))




名前ちゃんは相変わらずうずくまっています。音也くんはどうしたのと何度も聞きましたが名前ちゃんはたいしたことないと教えてくれません。名前ちゃんの顔は真っ青で体中に汗をかいています。たいしたことないわけがありません。

「名前、どこか痛いの?それとも具合悪いの?熱があるの?」
「お腹が痛い、だけ」
「痛み止めは飲んだ?」
「うん、飲んだ…大丈夫だよ…」
「大丈夫って顔してないだろ」

とは言え音也くんにできることはありません。お腹が痛いと言われてもお腹の痛みを和らげてあげることもできません。音也くんは名前ちゃんの背中をさすさすしてあげました。

「音也…」
「こんなことしかできなくてごめんね、ちょっとは楽になればいいな」
「ううん、ありがとう…」

名前ちゃんはにこっと笑って見せました。正直痛みでそれどころではありませんが、音也くんの好意が嬉しかったのです。笑顔を見せられて音也くんはぱあっと顔を明るくします。

「痛くなくなるまでこうしてるからね」

音也くんはさらに熱心にさすさすしてあげました。





それから10分。やっと薬が効いてきたのか、名前ちゃんの顔色は良くなり、浅かった息も整いましたし汗だってかかなくなりました。

「名前、大丈夫になってきた?」

音也くんは背中をさすさすしていた手を止めて聞きました。名前ちゃんはこくんと頷いてから小さく笑います。

「ありがとう、音也のおかげだよ」
「え」

音也くんは照れ臭くて少し頬を染めました。頭を掻いて照れ隠ししますが音也くんが照れているなんて一発で分かった名前ちゃんはまた笑顔をこぼします。

「音也、大好き」

名前ちゃんの天使のような笑顔を見て音也くんも頬を染めながら嬉しそうにはにかみます。

「俺も、超好き!」

本当に幸せそうな顔を見せられ、名前ちゃんまで照れてしまいます。片想いの頃から音也くんの笑顔は大好きでしたが、最近はますます好きになっています。嬉しそうで、幸せそうで、何よりそれが自分に向いているのですから。

「じゃあ俺、そろそろ教室に戻るけど…」

幸せを噛み締めていると、音也くんが立ち上がろうとしました。せっかくいい雰囲気になってきたのに、寂しいです。名前ちゃんは音也くんのシャツをそっと掴みます。

「…名前?」
「え、あ、ごめん!」
「どうしたの?」
「えぇっと、その、…まだ2人でいたいなぁって思っちゃったけど…わがままだね?」

名前ちゃんが肩をすくめると、音也くんはちょっとびっくりしたように目を見開いてからまた名前ちゃんの隣にすとんと座ります。

「そうだよね…こうやって2人っきりって、練習のとき以外なかなかないもんね」

音也くんは少し緊張した様子です。急に2人っきりということを意識しはじめたのでしょうか。そっと名前ちゃんの手を握り、名前ちゃんもまた音也くんの手を握ります。

「あ、あの…なんか恥ずかしいね…」
「そうだね。でも俺なんか嬉しい。名前は?」
「うん、嬉しい。…いつもはこんなことできないもんね」

ここは保健室なので体調が悪くならないとめったに人が来ません。その上カーテンに仕切られている今、何をしても大丈夫だと音也くんは思いました。どくん、どくん。2人の心臓の音がやけに大きいです。

「名前、こっち向いて?」
「お、音也、近いよ」
「もっと近くで名前のこと見たい」

音也くんは至近距離で名前ちゃんを見つめます。くりくりで可愛い目が緊張で少しだけ潤っているのも可愛いですし、小さな鼻や真っ赤な唇も可愛いです。音也くんはうっとりしました。名前だってアイドルになれそうだなぁ、とかそんなことをぼんやり思います。

「ねぇ名前…、キスしていい?」
「えっ!?」

緊張で声が裏返った名前ちゃんはぶわわっと顔を赤くさせます。音也くんは名前ちゃんの目をじっと見つめるだけ。

「俺、キスしたい…」

音也くんは名前ちゃんの頬に手を添えます。名前ちゃんは返事の代わりにきゅうっと目を閉じました。すると。

ちゅっ。

ほんの一瞬ですが、唇が触れました。初めてのキスはレモンの味なんて言いますが全く無味です。ただ唇はしっとりしていて柔らかかったです。目を開いて2人で目が合うと、音也くんはにこっと笑います。

「俺、キス初めて」

可愛い笑顔に名前ちゃんもにこり。

「えへへ、私も」
「なんか恥ずかしいね」
「うん。…でも幸せだね」

名前ちゃんがそう言うと音也くんは頷いてから名前ちゃんを抱き寄せました。きゅうっと回された腕からたくさんの愛が伝わってきます。

「これから2人で初めてを経験していこうな」
「…うん」

名前ちゃんも音也くんに手を回しました。最初はお腹が痛くてヒーヒー言ってたけど保健室来て良かった。そう思いながら幸せに浸ります。

「あ!今いいフレーズ思いついた!」

幸せすぎていいフレーズが出てきた名前ちゃんは思わず音也くんを突き飛ばします。音也くんは苦笑いを見せました。

「うわっ、ごめん音也!」
「ううんいいよ、じゃあ教室戻ろ」
「う、うん…ごめん」

名前ちゃんも苦笑い。それからお互いの顔を見て微笑み合いました。なんというリア充でしょう。2人は校則のことも忘れ、じゃれ合いながら教室まで戻りました。


END
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オチがなくてすみません。アンケートより、甘くてリア充な音也くんを書いたつもりです。ポッキーの日なのにポッキーネタじゃなくてすみません。名前様、お付き合いありがとうございました。
20121111
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