※砂月視点

こいつは那月のパートナーであって別に俺のパートナーってわけじゃねえから優しくするつもりもねえし頼みを聞いてやる必要もねえ。ただこいつを突き放せばこいつが傷つくことになって、それは那月が望んでいる形でもねえから仕方なくこいつの頼みを聞いてやってるだけだ。俺がこいつに従ってるんじゃなくて那月のために。それ以外に理由なんかない。
そんなわけで今、このバカ女が作ってきた曲を見てやっている。




(( 素直になれない! ))




今日はあのクソチビがいないから部屋が静かだった。それなのに午後急にこの女が押しかけてきて楽譜を広げて「指導お願いします!」なんて言うから台なしだ。さっきも言ったが那月のために仕方なく時間を割いているだけ。この女の作る曲は、まあ悪くねえ。俺が作る曲には及ばねえけど。

「ど…どうかな?」

女が小首を傾げる。こいつはこういう小動物みたいな行動をよくとるから那月が可愛いと思う理由が分からなくもねえ。べ、別に俺は可愛いなんて思ってねえけど。身長差を考えたら自然となるから仕方ないが、常に上目遣いってところ、苛つく。他の男にもこうなんじゃねえの。あのクソチビ以外の男、だけど。

「何だこれ」

はぁ、とため息をつくと女がびくびくしながら顔を覗き込んできた。うぜえ。

「こんなの那月に歌わせようとしてんのか」

俺がそう言うと女は途端に泣きそうになる。俺が悪いみてえじゃねえか。元はと言えば可愛いこいつが悪いわけで、あ、可愛いって那月が思ってるだけで俺じゃねえぞ。

「え、えと…そっか…、どうしよ…」

なかなか自信作だったようで女は肩を下げる。ま、まさか泣かねえよな…いや別に泣いてもいいけど那月が悲しむよな、俺は泣かせてもいいけど。

「そのために俺にアドバイス頼んだんじゃねえのか?あ?」

泣きそうな女に焦ってそう言うと、女はぱあっと顔を上げる。言っとくけど可愛いなんて思ってねえ。

「そ、そか!お願いします、さっちゃん!」

…いや、どきっじゃねえよ俺。





「ここはもっとゆったりしたほうがいいな、この8分音符要らねえ」
「盛り下がらないかな?」
「那月の実力知らねえのか?だったらこっちのフレーズに入れたらバランスとれんだろ」
「そっか…、じゃあここの伸ばしは?」
「ここはもっととってもいい。あいつ伸ばしは得意だし」
「そうだよね、じゃあこうかな…」

あれから小1時間。女は熱心に聞いてくる。まあ、音楽に関しては認めてやるよ。さらさら楽譜に音符を書き込んでいる女を見ながら、俺はテーブルの隅に置いてあった2枚の楽譜を手に取った。何だこれ、途中で切れてんじゃねえか…未完成なのか?眉間に皺を寄せたら女が俺に気づき、急に顔を赤くしてこっちに手を伸ばした。

「あ、そ、それはっ」
「っと」

奪われそうになったがぎりぎりのところで腕を上げて躱す。そんな見られて困るもん持ってこなきゃいいのに、バカな女。女の手の届かないところまで腕を上げて楽譜を眺めたら、さっきの曲と繋がっていないことに気づく。何だこれ、別の曲か?那月に合ってないような…誰の曲だ?

「さっちゃん、だめ!」

暫く眺めていたけど女の言葉で顔を上げる。女を見るとテーブルから身を乗り出して俺から楽譜を取り返すのに必死。それはいいとして、こいつ、

「っ、おま、」

思わず口に出すと女は動きを止めてきょとんと俺を見上げた。その体勢、胸元の服がずれて下着見え、る。胸もちょっと見えてるし、てか思ってたよりでか……って、何やってんだこの女!
持っていた楽譜で女の頭を叩く。2枚の楽譜だからただぴらりとぶつかるだけだが女をびびらせるのには十分だ。

「な、なにさっちゃん、」
「要らねえよこんな楽譜」

焦って楽譜を返してやると、女があからさまに傷ついた顔しやがった。な、何なんだよこいつ、意味分かんねえ。

「…さっちゃん、これ気に入らなかった?」
「あ?」

女は泣きそうな声で聞いてくる。そんなまずい楽譜だったのかよと舌打ちしそうになったが泣かれるのも面倒だからやめた。

「何の楽譜だよ、これ那月のじゃねえだろ」

何で泣きそうなのかさっぱり分かんねえし苛々して聞いた。そしたら女は遂に泣き出す。何なんだよ。

「、さっちゃんに、つくったぁ…」
「あ?」

女はくしゃりと楽譜を丸める。…今俺にって言ったか?

「なっちゃんと、さっちゃんは、雰囲気ちがうでしょ?だから、さっちゃんには、さっちゃんの、曲を、つくろうと、思って、う…、めいわくだったかなぁ、?」

女はまだぐしゃぐしゃ楽譜を丸めている。俺は思わずその手首を掴んだ。

「何してんだよ」
「だって、さっちゃん、いらない、から」
「うるせえ、よこせ」

女の手からまた無理矢理楽譜を奪って広げて見る。この曲が俺の、か。まあ、悪くねえ。

「…いいんじゃねえか」
「っ、ほんと?」
「あぁ」

泣いてるくせに嬉しそうに笑うから何か顔が熱くなった。うぜえ。

「まあ、完璧じゃねえから俺がアレンジ加えてやる」
「うたって、くれるの?」

女は俺を見上げる。だから上目遣いなんだって自覚ねえのかバカ女。誰にでもそんな顔しやがって。

「歌ってやってもいい」
「、さっちゃん…っ」
「だけど、」

ムカつくから交換条件出してやろうかと思ったが、その前に女が立ち上がるから思わず言葉を止めたら、女はその勢いのまま俺に抱き着いてきた。

「っなん、」
「すき!!!」

こっちが状況に追いつけねえうちに女が喋るもんだからわけわかんなくなる。調子狂う。顔が熱いのも心臓が忙しいのもそのせいだ、多分。

「は、なれろこのブス!」

無遠慮に抱き着いてくる女を突き飛ばしたが女はまだ幸せそうに微笑むだけ。何だこいつ意味分かんねえ。うぜえ。俺は顔を隠すように腕で顔を覆った。

「不愉快な顔見せんな」
「ご、ごめん」
「…チッ」

しゅんとする女に舌打ち。別にそんなに怒ってねえだろ、いちいち反応しやがって。

「おい」
「え?」

こいつが元気ねえと調子狂うしうぜえし、何より那月が悲しむから。そんだけの理由。こいつがどうしたら元気出るかは分かんねえけど、那月ならこうすると思って。

ちゅ

軽いリップ音が部屋に響いた。唇を離すと女はぱくぱく口を動かして真っ赤な顔してやがる。悪くねえ顔。

「練習するぞ」

何となく直視できなくて顔を背けると、女からいい返事が返ってきた。音楽バカなのか元気が出たのか分かんねえけど、単純な女だ。でもまあ、最近は那月が何でこの女に惚れたのか、分からなくもねえ、かも。


END
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アンケよりツンデレなさっちゃんを書いたつもりですけどいかがでしょうか。さっちゃんの口調が掴めてなくてごめんなさい。すぐになっちゃんのせいにしたがるけどなっちゃんの思ってること=さっちゃんの思ってることですからね、さっちゃんも主が大好きでたまらないんでしょうね。名前様、お付き合いありがとうございました。
20121015
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