※HAYATO視点/病み気味

ボクがトキヤから出れたのは、トキヤがデビューをしてからだった。アイドルになったトキヤは毎日お仕事が忙しくて大変そうだった。そりゃあまだまだ駆け出しアイドルだからボクに比べたらスケジュールとかも空いてるほうだけどさ、トキヤはボクだから、ファンなんかすぐにたっくさんできた。毎日が充実してて楽しそうだった。羨ましかった。いいなぁって思ってただけ、なのに、それがトキヤには負担だったみたい。

「oh…これは困ったことになりマシタ〜」
「どうしたんです?」
「YOUの中にもう1つ人格ができてしまっていマス」
「では、二重人格、ということですか?」
「おそらく…。YOUはHAYATOを演じすぎたようデスネ〜」
「…、対処法はあるんですか」

こうして、ボクはシャイニング早乙女の変な薬によってトキヤの外に出れた。だから今はもう別々の体になった。すごくすごく嬉しくて、ボクはボクとして生きてもいいんだぁって思った。でも、そんなの、ボクの勘違いだった。

「あなたがいることがバレたら面倒です。あなたは一般人に見つからないように生きてください。もし見つかってしまったら…、そうですね、私の真似でもしておいてください」

トキヤはボクを演じるのが苦痛だったくせに、それをボクに強いるようになった。




(( たったひとりの味方 ))




ボクはトキヤから出てから、とてもつまらない生活をしていた。毎日毎日部屋から出られなくて、もし出ても変装とかしなきゃならなくて、もうHAYATOと名乗ることも許されない。だってこの世にはHAYATOなんて存在しないんだもん。ボクは確かにここにいるのに、トキヤがボクを殺したから。
つまらなかった。ボクのこと大好きな子はたくさんいたけど、ファンも全部トキヤへ流れていった。街中に貼ってあるトキヤを見て頬を赤らめるファンはみんなみんな前ボクのファンだった子ばっかだ。トキヤはボクの代わりなのかな、それともトキヤを知ってしまったらもうボクのもとへなんか戻れないのかな。皆、ボクのこと忘れちゃったの?

「…そうだ、」

ボクは一人の女の子に会うことにした。トキヤのパートナーだった子だ。確か有名な作曲家として今はいろんな人の曲を書いてるんだっけ。トキヤは彼女の曲をいっぱい歌ってた。いいなあ、ボクもあの子の歌、歌いたかったなあ。あの子、ボクの曲を書くためにこの業界へ入っていたんでしょ?だったら、ボクの曲書いてくれたらいいのに。

名前ちゃんは近くのコンビニで見つけることができた。ちょうどコンビニから出てくるところ。嬉しくなって、ボクは名前ちゃんの腕を引っ張って路地裏に連れてった。名前ちゃんは一瞬びっくりしたみたいだけど、ボクの髪の色を見たらおとなしくなった。路地裏に来て、ボクはすぐに名前ちゃんに抱き着いた。きっと名前ちゃんはボクを必要としてくれる。ボクのこと忘れないでいてくれてる。そう確信があった。

「と、トキヤ…?」

名前ちゃんが初めてボクに発した名前は、ボクのじゃなかった。でもいい、これからきっと呼んでもらえる。

「トキヤじゃないにゃあ」
「、もしかして、HAYATOさま…?」

ほら、やっぱり。名前ちゃんはボクを忘れるはずない。ボクを生かしてくれるのは名前ちゃんだけだ。世界中探しても、ボクの味方はきっと名前ちゃんだけだ。

「そうだよ、名前ちゃん。久しぶり」
「お久しぶりです。…あの、」

抱き着いたままのボクに名前ちゃんは離れてほしそうに身を捩ったけど離してあげない。名前ちゃんはきっとボクを拒絶なんかしない。…そうだよね?

「名前ちゃん…、ボクのこと、覚えててくれた…?」
「もちろんです!HAYATOさまは私の憧れですから!」
「ふふ、嬉しいにゃあ」

ボクは名前ちゃんに抱き着いたまま、顔を横にずらして名前ちゃんのほっぺたにちゅってキスをした。名前ちゃんはとたんに赤くなって慌てる。

「なななななっ、HAYATOさま!?」
「嬉しくて、つい。名前ちゃんは相変わらず優しいにゃあ」
「う、嬉しくてって…、」
「すごく幸せだにゃあ。ボク、皆に忘れられちゃってたみたいだし。…名前ちゃんだけだよ、ボクのこと覚えててくれたのは」
「HAYATOさま…」

ボクが震えた声で話したら泣いてるとでも思ったのかな、優しい名前ちゃんはボクの背中に腕を回してくれた。ボクを落ち着かせるように背中をポンポンしてくれる。

「そんなことありませんよ。皆HAYATOさまを忘れていないはずです」
「ううん、違うよ、ボクはもういないんだよ。誰もボクを必要としてくれないから、ボクは死ぬしかないんだよ」
「…、どういう意味ですか?」

名前ちゃんは眉を顰めてボクの耳元で真面目な声を出した。そんなこと、そのまんまの意味なのに。

「皆ね、ボクよりトキヤがいいんだって。トキヤはいいよね、ボクから全部を取っていったんだ。じゃあボクは?要らないよね?だからトキヤはボクを自分から追い出したんだよね?ボクが死ねばいいって思ったんだね?」
「ち、が」
「違う?じゃあボクを求めている人はいるのかな?どこにいるのか教えてよ、名前ちゃん」
「っ、」

名前ちゃんは怒ったのかな。ボクの体を突き飛ばした。離される。ボクは、拒絶、されるの?

「HAYATOさまは、何でそんなこと…っ!私はこんなにもHAYATOさまを必要としているのに!!」

名前ちゃんは泣いていた。優しい子だなあ、ボクのために涙を流せるなんて。ボクのこと本当に大好きなんだね。でも、それはきっと、憧れの人として。名前ちゃんには彼氏がいること、ボクは知っている。

「…名前ちゃんは本当に優しい子だね。じゃあ、ボクは生きててもいいのかにゃ?」
「いいに、決まってます」

ボクは嬉しかった。名前ちゃんのことがますます好きになった。泣いた。名前ちゃんはボクの頭を撫でてくれた。大好きな名前ちゃん。どうしても、どうしてもボクを見ててほしいんだ。

「じゃあ、ボクを、見てくれるの?」

ボクは名前ちゃんの腕を強く引っ張ってまた体を寄せて、キスをした。ボクの涙と名前ちゃんの涙が混ざってしょっぱかった。名前ちゃんが嫌がるだろうからボクはすぐ離れた。ずっと前名前ちゃんが大好きだって言ってくれた大きな目に涙をいっぱい溜めて名前ちゃんを見上げた。名前ちゃんもまだ泣いていた。

「ねぇ名前ちゃん、きみが離れてったら、ボクは死んじゃうよ…?」


名前ちゃんの首元には、キスマークが切なげに映えていた。


END
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主の首についているキスマークがトキヤからのモノだと知っていたので、トキヤのところへ行ったら死んじゃうよと脅しにかかっています。主の“好き”が恋愛感情じゃないことは分かっていますが、優しさにつけこむ最低男なのです。ちなみにHAYATOの涙は演技です。名前様、お付き合いありがとうございました。
20130115
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