「ねぇ、苗字」

後ろから聞こえた声に、名前ちゃんはびくっと肩を跳ねさせました。ぎぎぎぎ…と音がしそうなほど固くなった体をやっと捻り、名前ちゃんは後ろを振り向きます。

「あ、い、いっときくん…」
「うん。おはよ」

にこっと可愛い笑顔を見せられ、名前ちゃんは心が痛くなりました。本当は喋っちゃいけないのに音也くんがあまりにも屈託ない笑顔を向けるものですから、名前ちゃんはなかなか避けることができません。

「おは、よ」
「はは、苗字なんか変だよ?どうしたの?」
「いや、別に、何でもないよ…」

名前ちゃんの挙動不審な態度が可笑しかったのか、音也くんはぷはっと笑い出します。ひょこっと名前ちゃんの顔を覗き込むと、名前ちゃんはずさっと体を引いて距離をとろうとしました。

「ちょ、一十木くん、近い…!」
「え?別に普通だよ?」

音也くんは名前ちゃんの顔を覗き込みながらまたにこっと笑いました。さすがアイドル志望、本当に素敵な笑顔です。それから音也くんは言いました。

「なんかさぁ、最近苗字、翔とばっか一緒にいるじゃん。…俺といるの嫌になったのかなーって、ちょっと思っちゃったりして…」
「一十木くん…」

名前ちゃんと翔くんが付き合い出したことは周りには内緒ですが、付き合い出す前は名前ちゃんと音也くんは仲良しだったのです。付き合い出してからは翔くんの束縛によって喋る機会がなくなりましたが、今だって仲良くしたいのが本音です。名前ちゃんは心を痛めながら視線を床に落としました。

「ごめんね、一十木くん…」
「全然大丈夫!俺が勝手に妬いてるだけだし…ね?」

音也くんは申し訳なさそうに頬を掻きました。名前ちゃんはぐさりぐさりと心が痛ませます。そんなときに、彼の登場です。

「なーにやってんだよ」
「あ、翔…」

名前ちゃんから何気なく漏れた言葉ですが、それに音也くんは少しだけ目を細めました。翔は名前で呼ばれてんだ、とますます妬けてしまいます。翔くんは名前ちゃんの肩に腕を回しました。

「お前、音也と話すなって言っただろ」
「え、あ、うん、ごめん」
「ったく…目ぇ離せねーな…」

そんな会話に音也くんは眉を顰めました。

「何それ、おかしいよ」
「ん?」

音也くんは翔くんに向かって怒っていました。拳がきゅうっと握られています。

「何で俺と苗字が話しちゃだめなの?何で翔にそんなこと言われなきゃなんないの?」
「当たり前だろ、こいつは俺のパートナーだ。そんでお前はそのパートナーを狙ってる。だから話すなっつってんの、ただそれだけ」
「そ、んな…」

音也くんは何も言い返せなくなりました。狙ってる、というのは恋愛感情を絡ませた気持ちだというのが分かったようです。そしてさらに、翔くんも名前ちゃんに好意を寄せていると気づいたのです。

「分かっただろ、名前に近づくな。…行くぞ」
「え、うん…」

翔くんはじろっと音也くんを睨むと、そのまま名前ちゃんの肩を抱いて歩いていきます。名前ちゃんは申し訳なさそうに音也くんを振り返り、ごめんね、と口パクで伝えました。音也くんはただそんな光景を切ない目をして見ていました。


(( 嫉妬VS束縛 ))
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