灰色歌姫 | ナノ


  




 
 
 
 
「アレン・ウォーカーとアンジュ・アズナヴールがノアの手先かもしれないって聞いたか?」

「中央庁が出張って色々嗅ぎ回ってるらしい」
「クロス元帥も今それで軟禁されてるって師弟揃って疑われてるんだと」
「まさか!エクソシストが?」
「でもノアは奇怪な能力をもってるっていうだろ。手下をエクソシストにして教団に送り込むこともできるんじゃないのか?オレ達を内側から崩そうっていう…」
「クロス元帥はちょっとポイけど」
「でもそんなあんな子供が…」




教団内のどこへ行ってもそんな言葉が飛び交っていた。
アレンは気にしてないようにまっすぐ前を向いて歩いていたけど、私は意識しないうちに下を向いてしまった。
後ろめたいことしか、ないのだから。

自分の部屋のバスルームで鏡の前に立つ。
鏡の中にいる私は淡い金色の髪を長く伸ばしていて、とてもひどい顔をしていた。その顔は記憶に残る”ノアの歌姫”であるアンジュとは似ても似つかない。

でも、私の意思で伸ばしていた腰まで届く長い髪も、横に施された三つ編みも、今着ている淡い色のワンピースも、
全部記憶の中の私の好みで、これが本当に私の好みなのか、全然わからない。
見えない何かに動かされているんじゃないかと思って、すごく怖い。

横に結んでいた蒼色のリボンを解いて髪を全部上の方へとまとめてお団子にしてリボンを結び直す。


『……あ、意外とかわいいかも…』


すこし首元がすーすーして違和感はあるけれど。
鏡の中の自分とにらめっこをして、いろんな角度から眺めてみる。
初めて髪の毛を全部結びあげた気がするけど、案外悪くないかもしれない。
いつもハーフアップか緩く三つ編みをして流すくらいしかしたことがなかったから。


『……大丈夫』


ぽつりと溢れた言葉は、どれに向けられた言葉なんだろう。



自分に充てがわれた部屋を出て食堂へと向かおうとした途中、アレンと、ラビ。そして監査官のリンクが通りかかって合流した。

「あれ、アンジュ珍しいですね」

アレンは開口一番そう口にして私の髪へと目を向けた。


「いつもの髪型も可愛いですけど、今日のも可愛いですね」
『…あ、ありがとうアレン』


微笑みながらそう言ってくれるアレンに、そわっとして横髪を弄んでいると、ラビが「見せつけんなよこのー!」と言いながらアレンに絡みに行っていた。
アレン、元気に見えるけど目の下にクマできてたな…。

リンクは騒がしいラビのことが苦手みたいで顔を顰めている。
そういえばリンクは私も監視対象だと言っていたけれど、そこまで付きっ切りと言うわけには行かないらしい。
流石に女の私に四六時中監視、ということはなくても、だいたいをアレンと行動する私はその時だけ監視。という形みたいだ。
それでいいのかな…と考えていると、廊下の向こう側に謎の人だかりが見えてきた。



「なんだなんだ?」
「”科学班以外立入禁止”?」

「おー、おはようさん」


黒と黄色のボーダーで仕切りを立てた向こう側を見るようにしてできていた人だかりを抜けると、
向こう側にリーバーがいて声をかけてくれる。


『…あれ、生成工場の卵?』


仕切りの向こうには方舟にあったはずの卵が収容されていた。


「方舟から持ってきたんですか?」
「調べんの?」
「まぁな、アクマの情報を得られるまたとないシロモノだ」



どうやって、あの大きさの卵を方舟から下ろしたんだろう…と見上げているとラビがリーバーの白衣を掴んで引き寄せる


「それより早くオレの槌も直してくれよー」
「そうしてやりたいのは山々なんだがなー。過労で倒れてく奴が多くて人手不足でさ。これ終わったらすぐやるから」


リーバーを掴むラビの腕をアレンが「待ったげようよラビ」と引っ張る。
見るからにボロボロに疲れ切った様子のリーバーをみて思うところがあったみたいだ。
うん。だれか寝かせてあげてほしい。


***


場所を移して食堂。
いつもどおりジェリーさんに大量の料理を用意してもらったアレンはご満悦だ。
私も最近は寄生型をよく使うようになったからか、前よりもよく食べるようになった。アレンほどではないけれど…。
お盆いっぱいに乗った料理の匂いをかいで、ふふと笑う。

前を歩くアレンはカートに大量の料理を山盛りに載せていて、リンクは大きな両手で抱えれるお盆にケーキをあふれんばかりに載せている。


「ウォーカー、キミは15歳なんだからもっと野菜を摂取するべきだ。アズナヴールを少しは見習いなさい」
『……えっと』
「リンクこそケーキばかり食べてるじゃないですかっ」


リンクに引き合いに出されてしまい思わずどもってしまうとアレンは眉をひそめながら言い返す。
リンクもあまり人のこと言える食生活をしているように見えないんだけどなぁ。と考えているとラビが私の気持ちを代弁するように二人に「お前らふたり共朝から重えよ」…つっこんだ。
すっきりしたぁ。

ラビの注文した料理が出てくるのを待って空いている席についた。






 


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