クロスが言った言葉を確かめるように、任務と口に出す。
「オレが何の為に来たか知ってるだろうが」
『…アクマの…生成工場の破壊!』
「この方舟に生成工場があるんですか!?」
轟音を轟かせ、私たちの立っている地面は崩れていく。
もうきっと時間は多く残されていない
「部屋はまだ残っている、生成工場へ開けろティム」
クロスの頭上にのったティムキャンピーが翼を広げると、地面が残されていなかった場所から、景色が変わる。
地面はまだある。
けれど周りには無数の死体が転がっていた。
「えっ…こ、ここは…なんだこれ死体…!?」
「この部屋…生成工場の番人どもだ」
クロスに言われ、彼の視線の先を追うように後ろを振り返る。
『アレン、うしろ…』
どこか懐かしさを感じた胸をぎゅうと握る。
見上げるほどの大きさのそれを、きっと見たことがあるのだ私は、
「そのでかい玉が伯爵が作ったアクマの魔導式ボディの”卵”だ
ブッ壊してぇんだが結界が張られてて解除するのに時間が足りん」
どくんどくんと、脈打つそれは上の方から消滅して言っているように見える。
「上を見ろ、生成工場が方舟転送の最後の部屋だ。”卵”が転送され消えた瞬間オレたちもろとも方舟は消滅する」
地面が割れていなかったこの空間も、もう時間が残されていないらしい。
どん、と大きく揺れたのを始まりに周りが崩壊していく。
揺れた体をアレンとリナリーに寄せあう。
「どっ、どうするんですか師匠!?」
「止めるしかねえだろ。
要は”卵”を奪えればいい。方舟を起動させてこの転送を止めれば”卵”は新しい方舟に届かない」
『こんな、…得体の知れない方舟をどうやって…!?』
「それをお前が言うのかアンジュ
お前たちがやるんだ、アレン、アンジュ」
クロスの鋭い眼光が私を射抜く。
その目が私の中のノアの歌姫を覗いていてひどく居心地が悪い。気持ち悪い。
驚きに目を見開くアレンと私を他所に、クロスは術を唱える。
それは生成工場の新しい方舟への転送を遅らせるものだった。
「お前たちが舟を動かせ!急げもう消滅の時間だ」
「は?まって下さい何言ってるか全然わかりません師匠!!」
左手を上げてストップと叫ぶアレンにクロスのもとからティムキャンピーが飛んでいく。
「とっておきの部屋を開ける」
「ティムに従え」
「そうすりゃわかる」
なんて横暴なんだ…!
こちら側に突っ込んで来たティムが放つ光に、アレン共々飲み込まれる瞬間、
「唄って、アンジュ」
あの人の、ネアの声が今まで以上に鮮明に頭の中に響いて、
どうしようもなく胸が高鳴って熱くなって、目の奥が熱くなって______________
____________
______
___そして、悟った。
ああ、きっと”私”は永遠にあの人を忘れることなく焦がれて、求めて手を伸ばしてしまうのだろう、と。
___どう言い繕ったって無駄なんだと
ネアと歩んだ年数と、アレンを想った年数はそれほど変わらない。”私”を変えてくれたのはネアだ。好きを、愛を教えてくれたのはネアだ。
それでも、それ以上に今のアレンを想った時間を、私の手を取って引っ張ってくれるアレンを、たくさんの甘い言葉で溶かしてくれたアレンを、一生に生きていたいと願ったアレンを、
今の気持ちを大事にしたかった。
言葉と気持ちがちぐはぐだ。気持ち悪い。
気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
「…ごめん、なさい…ごめんなさいごめんなさい」
__嗚呼
この懺悔を、もうどちらの神にしたらいいのかさえ分からない。
私なのに私じゃない。
胸の奥がつっかえて気持ちが悪い。
私が、私じゃなくなっていくようなこの感覚がひどく気持ち悪い。
__いなくなってほしい。入ってこないでほしい。
私は、歌姫なんかじゃない、私はただの__
目からこぼれた大粒の涙が光に飲み込まれて消えた。
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