灰色歌姫 | ナノ


  






クロスの放つ断罪者の弾丸は的確にティキの体を撃ち抜いていく。
それでもティキはその弾丸を自身から逸らしてみせるが、それは無駄だ。


「弾丸の軌道をはずすのが精一杯か?でも、どうだろうな…?」



ティキによってそらされた弾丸は一度は崩壊した建物へと打ち込まれた、が、それで止まらない。


「断罪者の弾丸はターゲットに打ち込まれるまで止まらない」


建物へと食い込んでいたはずの弾丸は再びターゲット、ティキへと向かい放たれる。
その弾丸は確実にターゲットへと打ち込まれた。


「一方的…」
「オレらがどんなに攻撃してもビクともしなかったティキがあんな銃弾で…」



圧倒的に実力が、格が違うのは一目瞭然だった。


「ちょっとヘコむな…力の差がここまでハッキリ出ちまうと
ノアも、クロス元帥も、オレらはまだまだ弱い」


ティキとクロスの戦いに目を取られていると不意に周りの地面が崩れ始める。

「そろそろか…」
「崩壊の時刻…っ」

轟音を響かせ地面が揺れ、バランスをうまくとれずに倒れこみそうになったところをアレンに体を支えられる。


「師匠ぉーー!!」



アレンの叫び声にクロスがティキにとどめを刺そうと断罪者を向ける。
その瞬間ひときわ大きく地面が崩れ浮き上がる。体制を崩しかけたクロスだがすぐに正すと銃口を向ける、その先に


「これはまた」


大剣を携え、肩に意識を失ったティキを担いだ千年伯爵の姿が。
その姿に目を奪われていると、私達が立っていた地面が崩れ、吸い込まれるようにして、ラビとチャオジーが落ちていってしまう。
ラビがとっさに槌を突き刺し落下を食い止めようとするがチャオジーの手を掴んだことで槌が二人の体重を支えきれずに落ちてしまう。



「ラビ!!」



ラビがアレンに向けて伸ばした槌をアレンが必死に手を伸ばして掴んだ、
けど、ノアとの戦いで傷ついてきたのは私たちだけじゃなく、イノセンスもそうだった。

ヒビが入っていたラビの対アクマ武器は、アレンの伸ばした手で掴まれた時、パキンと、音を立てて崩れた。

二人の体は崩壊していく方舟に飲み込まれていった。



『…ラビ、』


アレンと、リナリーが二人の名前を呆然とつぶやく。

共にホームへと帰ろうとした仲間が、目の前で飲み込まれたその事実に、アレンの悲痛な叫びが響き渡った。

徐々に足場が崩壊していく中、足を自由に動かせないリナリーが落下しようとした、
それをアレンが伸ばしたイノセンスで繋ぎ止める、


『リナリー…っ手を!』


伸ばされたリナリーの腕を両手で掴み上げると、まだ3人で立てる場所を見つけ、そこに向かう。
クロスと千年伯爵が向き合い、なにか会話を繰り広げている中、アレンの伯爵を見つめる目をみて息を飲んだ。


『アレン…っだめその傷じゃぁ…!』


彼の名前を呼んで止めるも、それを聞かずにアレンは伯爵の元へと向かってしまう。
悲痛な声で呼ばれる方舟に飲まれたと思われる仲間たちの名、
…そして、精一杯の憎悪を込めて呼ばれた千年伯爵の名。

左腕を大剣へと変え、それを千年伯爵へと振りかざした。


『アレン…!!』


しかし、それは


「我輩の剣…!?」


千年伯爵の持つ大剣によって防がれた。
それはアレンのもつ大剣とよく似ていた。

伯爵はいとも簡単にアレンを弾き飛ばすが、それでもアレンは伯爵への攻撃を止めようとしない。


『アレン…!』


落ちていく伯爵を追いかけていく落ちるアレンを、クロスがマリアを使って止めた。

大剣を崩れてできた崖へと突きつけ、落下を止める。


「仲間に死なれて頭に血が上ったか馬鹿弟子」
「聖母ノ柩の術を解いて下さい師匠!伯爵を!!」

「嫌でも這い上がってこい。憎しみで伯爵と戦うな」


落ちていくアレンを止めてくれたクロスに安堵の息を吐くが、
まだそのまま落ちていく伯爵の背後にはロードの能力である扉が現れ、伯爵は方舟から去っていく。


「今回は見逃しますが、我らの歌姫vVすぐに迎えに行きますからネ」


扉と共に伯爵が消える直前、たしかに伯爵は私をみてそういった。
けど、それよりも、

崖を登りきったアレンのそばに駆け寄る。膝をつきうつむいたままのアレンに、なんて声をかけたらいいのかわからずにそばに膝をついてそのまま。
消耗しきった様子の彼に、クロスは関係ないとでも言うように「立て」と短く言う。


「お前もだアンジュ。お前たちに手伝わせるためにノアから助けてやったんだ」

「……てつだう…?」
「…何をするんですか…?」



「任務だ」





 
 


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