「一体、君は誰なんだ」
抱きすくめられてうろたえながらやっとのことでそう言った僕を、彼は興味深そうに見つめる。 やがて、何かに気づいたかのように口を開いた。
「───そうか」
その瞳には、確かに甘やかな光が滲んでいた。まるで愛おしい恋人を見つめるかのような眼差しに、居た堪れなくなってしまう。 だって、僕たちは初対面なのに。 まるで僕だけがこの人を知らないかのようで。
「これが最初のトリップなんだな」
「……トリップ?」
何のことだと訊き返すより先に、僕は今朝目が覚めてから次々と起こっている不思議な出来事を思い出していた。 とうになくなったはずのなのに当時のまま蘇ったカフェ。ニュースに流れていた懐かしい事件。そして、コンビニのレシートに刻まれた五年前の日付。 軽い眩暈に襲われて、目を閉じれば揺らめく世界がぐるぐると巻き戻る音が聴こえる。 ああそうか、僕は。
「ずっと待ってたよ。お帰り」
この世界に、呼び戻されたんだ。
【2010.5.21 14:25】
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