鳴子と放課後を過ごした私は、帰宅してからずっとLIDEのトーク画面を眺めていた。
津軽先輩からのメッセージは今朝の「おはよ」が最後。
返していなくてそれきりだ。
あの日から一切返事をしていないのに、先輩は毎日たくさんのメッセージを送ってきた。
送り合うのが日課だったおはようとおやすみに加えて、会いたい、話したい、謝りたい、など。
着信もたくさんある。
履歴を遡ると改めてその数の多さに気付く。
もともと頻繁に連絡を寄越す人ではあるけれど、こうして見ると津軽先輩の必死さみたいなものを感じた。
「…悪いことしたかな」
津軽先輩のことがわからない。
でも、私達のことは話さなければもっとわからない。
このままではいけないことは確かだ。
私はタップしてキーボードを呼び出した。
けれど何を打つべきか、指がさ迷う。
「…うーん」
LIDEを送ってすぐに電話がきたらどうしよう。
津軽先輩ならありえる。
「どうしよ」
やっぱり明日でいいかな、なんて考えが頭をよぎったけど。
(いやいや逃げるな私!)
ええい!と勢いで文字を打ち始めた、その時。
津軽先輩からLIDEが入った。
「!?」
"Firstnameちゃんちの前で待ってる"
「ええっ!?」
驚いてベッドから飛び起きる。
またLIDEが届く。
"5分でいいから話したい。出て来てくれるまで待ってる"
窓際へ行ってカーテンの隙間から外を見ると、たしかに津軽先輩の後ろ姿が見えた。
うちの壁に寄りかかってスマホを触っている。
「今!? 心の準備が!!」
何も今日じゃなくてもと思った。
窓際で狼狽える。
(どうする私…!)
スマホを手にアワアワする。
(もう何も考えないで行っちゃえばいい? でも!)
意味もなく部屋の中をウロウロしていると、私を呼ぶ声が1階から聞こえた。
母親だ。
夕食の時間だった。
「ああっ、ご飯!!」
先輩が外で待っている。
(どうしよう…!)
再び母親に呼ばれてしまい、私は大声で返事をした。
(…仕方ない)
(仕方ないよね?)
(ちょっとタイミングが悪かっただけ…!)
とりあえず───ご飯を食べよう。
(だって待っててくれるって言うし!!)
勇気の足りない心を罪悪感で塗りつぶしながらも、私は夕飯に走った。
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