津軽先輩を放置して夕飯に走ったものの、外のことが気になって仕方なくて。



家族の会話が頭に入らず、味にも集中できないまま食事を終えた私はすぐさま部屋に戻った。



(まだいる…よね?)



カーテンをそっと開ける。



けれど窓が濡れていて外が見えなかった。



「え」



お昼から降ったり止んだりしていた小雨が、夕飯を食べている間に本降りになっていた。



手で窓を拭くと、透き通ったガラスの向こうに津軽先輩の姿が見えた。



「ちょ、ちょっと」



傘をささずに私を待っていた。


後ろ姿の先輩が、うざったそうに前髪をかき上げる。



「傘! 傘!」



私は部屋を飛び出した。



バタバタと階段を駆け下り、玄関でサンダルを引っ掛ける。


傘立てから傘を引っ掴んで外へ飛び出した。



外は思いのほか冷えていた。



「先輩っ!」



呼びかけると津軽先輩が振り返った。



「何で傘さしてないんですか!? 風邪ひきますよ!」



傘を持った腕を伸ばす。


けど津軽先輩を雨から守るよりも早く、私は濡れた腕に抱きしめられた。



冷たくてびっくりした。


津軽先輩はびしょ濡れだった。



「はあああぁ〜…」



盛大な安堵の息が漏らされる。



「よかった… 出て来てくれなかったらどうしようかと思った」



先輩は絞り出すように言った。



そして体を離し、私の両肩に手を置く。



「あのね、Firstnameちゃん」

「先輩、うち入ってください」

「え? いいよここで」

「よくないですよ! 先輩が風邪ひいたら責任感じますから」



肩に置かれた津軽先輩の手に自分のそれを重ねる。



「早く入ってください」



そのまま手を引いて玄関へ向かった。





津軽先輩が、私の手をぎゅっと握り返した。






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