(やばい… 緊張する)
午前の授業が終わり、購買やコンビニへ向かう生徒たちが次々と階段を下るなか。
私は3年生の教室へと向かっていた。
手に持ったランチバッグの中には、お弁当箱が2つ入っている。
津軽先輩に食べてもらいたくて作ってきてしまったのだ。
喜んでくれるといいなと料理中は高揚していた私だけど、今は違うものが高まっている。
(こーゆーのって重いんだろうか…)
なんせ初めての彼氏だ。
中学時代を剣道に捧げ、恋愛経験がゼロに近い自分からしたら重量の判断がつかない。
手編みのマフラーは危険というのはどこかで聞いて知っているけど。
(付き合ってまだ1ヶ月も経ってないしなぁ)
どうせなら驚かそうと、作ることを伝えなかった私はここに来て弱腰になっていた。
(定番の内容にしたけど。嫌いなものあったらどうしよう)
アレルギーとかもあったらどうしようと、そのあたりでも不安に駆られている。
勢いだけでやってしまった感が否めない。
そうこう考えているうちに津軽先輩の教室に到着する。
覗き込むと、津軽先輩は一目で見つかった。
「え」
女子生徒に取り囲まれていたからすぐわかった。
先輩のモテぶりを目の当たりにしてモヤッとしつつも、声が出たのは違う理由からだ。
津軽先輩を囲む女子達の手にお弁当箱があった。
(ちょっと待って)
(お弁当ーーー!?)
女子達の手作り弁当、だ。
(毎日購買だって言ってたよね?)
(違ったの? 女子のお弁当食べてたの!?)
「あ、Firstnameちゃんだ」
様々なモヤモヤが噴出したその時、立ち尽くす私に津軽先輩が気付いた。
私はランチバッグをさっと後ろに隠した。
先輩はすぐに私の元へやって来る。
「どしたの? 昼食べないで待ってて欲しいって」
「…えっと」
「Firstnameちゃんがこっちに来るの珍しいねー。なんか新鮮」
「あのLIDEは間違えました」
「は?」
「失礼します!」
「え、ちょっと、Firstnameちゃん!?」
身を翻すと、先輩がガッと腕を掴んできた。
不意に掴まれたことで手から力が抜け、うさぎ柄のランチバッグが床に落ちた。
「?」
津軽先輩が屈んでバッグを拾う。
そして中を見て、瞬きをした。
「Firstnameちゃん、これ」
(ああ…)
「弁当?」
先輩が顔を上げる。
私はさっと目を逸らした。
「もしかして、作ってきてくれたの?」
「……まあ」
津軽先輩が無言になる。
(作らなきゃよかったー!!)
私は気まずくなった。
「すいません、返してもらっていいですか」
「え? 何でよ」
「お弁当は間に合ってるようなので」
「全然間に合ってないけど。お腹空いてるけど」
「だって…」
チラッと教室の奥を見ると、お弁当を持った女子達がこちらをガン見していた。
「これ、俺のなんでしょ」
「………」
「2つあるってことは、1つはFirstnameちゃんの分だよね。一緒に食べようと思って来たんでしょ?」
「……そのつもりでしたけど」
「食べようよ」
私のお弁当を持って、私の返事を待っている津軽先輩。
気まずさを胸に抱えたまま、私はおずおずと頷いた。
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