"話したい"
"声が聞きたい"
"会いたい"
津軽先輩から毎日送られてくるLIDE。
一度も返していない。
いくら考えても整理がつかない。
スマホを手にため息をつくと、前の席の鳴子が振り返った。
「Firstnameさ、津軽先輩と何かあった?」
「え? …えーっと」
「あんまり元気ないしさ。休み時間中もずっとスマホ見てぼーっとしてるし」
「そうかな」
「そうだよ。実はさ、ちょっと噂になってるんだよね。Firstnameと津軽先輩が修羅場ってるって」
「修羅場!?」
「門のとこで揉めてるの見たって子がいるらしいよ」
「いや修羅場ってほどでは…」
「私でよかったら聞くよ? 無理にとは言わないけど…」
心配そうに眉を下げる鳴子。
親友の気遣いが嬉しいと思った。
誰かに話したい気持ちも、確かにある。
「…うん。ありがとう。聞いてくれるかな」
「もちろんだよ。マックでも行く? 私ポテトのタダ券持ってるよ」
にこっと笑う鳴子に笑顔を返した時。
「Firstnameちゃん」
聞き慣れた声が耳に入った。
無視することもできず振り返ると、教室の入口に津軽先輩が立っていた。
目が合うとすぐに中に入ってくる。
「Firstnameちゃん、一緒に帰ろう」
私の前に立ち、真っ直ぐに見下ろしてくる津軽先輩。
いたたまれなくて目を逸らした。
「…その辺で少し話すだけでも──」
津軽先輩が手を伸ばしてくる。
私はつい体を引いてしまった。
手が行き場を無くす。
見上げると、先輩の顔には寂しそうな表情が浮かんでいた。
(何で津軽先輩がそんな顔するの…)
ズキンと胸が痛む。
「俺、Firstnameちゃんにちゃんと謝りたくて」
津軽先輩の瞳は揺れていた。
「謝るって」
何を、と言いかけて、そのとき初めて周囲の目が私と津軽先輩に向けられていることに気がついた。
二人のやり取りをクラスのみんなが見ている。
「えっと…」
じんわりと汗をかいた。
(き、気まずい!!)
「すいません津軽先輩! 私たち今日カラオケに行くんです」
どうしようどうしようと焦っていると、鳴子が横から明るい声を出した。
「ね、Firstname」
目を合わせてくる。
「あ、うん! そうだね」
「なので先輩、今日はFirstnameを貸してもらってもいいですか? 」
「…そっか。わかった」
私は津軽先輩の顔を見ることができなかった。
「Firstnameちゃん、また連絡するね」
静かな声が耳に届く。
何も言えずにいると、やがて足音が遠ざかっていった。
「びっくりしたー。噂をすればだね」
「ありがと、鳴子」
「ううん。うちらも行こっか」
鳴子と私も教室を去った。
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