昼休みの教室。


俺は机に突っ伏してスマホを触っていた。



何度LIDEのトーク画面を開いても、並んでいるのは俺が送ったメッセージばかり。


既読はついてるけどFirstnameからの返事はない。


もちろん電話も繋がらない。



「はぁぁぁ〜…」



情けないため息が出る。


突っ伏したまま、隣の席の親友に助けを求めた。



「秀樹くぅーん…」

「気持ち悪い声を出すな、津軽」



秀樹くんは文庫本から顔を上げずに言った。



「俺、死ぬかもしれない」

「そうか。葬式には出てやる」

「冷たいなぁ… 親友がこんなに落ち込んでるのに」

「勝手に親友にするな」

「Firstnameちゃん、俺のこともう嫌いなのかな」



昨日も一昨日も、俺は授業が終わってすぐにFirstnameの教室へ行った。


けどFirstnameはすでに帰った後で会うことはできず、電話も取ってもらえず。


テスト前の今は部活も休みだから、話す時間はあるはずなんだけど。



Firstnameは完全に俺を避けている。



(絶対誤解してる)

(あんな言い方されたらするなって方が無理だ)



あの元カノとはもちろん切れていた。


自然消滅だったけど、そもそもちゃんとした付き合いだったかと聞かれたらそんなことは全然無いし───どの女の子ともそうだったけど───お互いに本気じゃないのがわかっている、楽な付き合いだった。


向こうも男に困らないから執着しないし、要は似た者同士だ。



けど最近になって来ていた電話を、面倒だと放っていたのが癇に障ったのか。


わざわざ学校まで来るなんて驚いたし、しかも体の話まで持ち出すなんて。



Firstnameはまだ何も知らないのに。



(引くよな)

(気持ち悪いって思われたかも…)



電話を放置せずに、もう連絡は取らないと元カノにはっきり告げるべきだった。



すべては自分の適当さ、だらしなさが招いたことだ。



後悔してもしきれない。



(このままマジで終わったら…)



Firstnameとの楽しかった日々が走馬灯のように過ぎる。



「………」



泣きそうになった。



秀樹くんが文庫本が閉じる。



「気の毒なのはお前じゃない。Surnameの方だ」

「………」

「自信を無くしただろう。裏切られたショックだけじゃない」

「裏切ってないっつの!!」

「なら誠意を尽くせ。お前に出来ることはそれだけだ」

「………」



秀樹くんに淡々と言われる。



Firstnameと別れるなんて嫌だ。


ちゃんと謝って、話して、俺にはFirstnameだけだってわかってほしい。



「…でも誠意を尽くしてもダメだったらどうすんの?」

「その時は諦めろ」

「………」



できる気がしない。


Firstnameのいない毎日なんて想像できない。



けどもし本当に、Firstnameの気持ちが俺から離れてしまっていたら───



考えたくなくて、思考を閉じ込めるように目を瞑った。



(…頑張ったら…)

(また好きになってもらえんのかな…)






今日はHRをサボってFirstnameのところへ行く。


LIDEを送ったらきっとまた避けられてしまうから、送らずに直接。



そう考えていると昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。



体を起こし、ふと窓の外を見る。





どんよりした空から、ぽつぽつと雨が降り始めていた。






→→




























- ナノ -