病院からの帰り道。
夕焼けの中を、迎えに来てくれた津軽さんと並んで歩く。
子どもはできていなかった。
調べてもらったけど異常らしい異常も見当たらず、生理が遅れているのは過労と心労によるものだろうとの話だった。
もっと自分をいたわるように言われてしまった。
「ほんとに直帰でいいんですか?」
「いいよ、今日は。俺も戻りたくないし」
明日からまた大変だけどねー、と津軽さんは言う。
「…このたびはお騒がせしてすみませんでした」
自己管理が出来てないせいでこんな事になった。
情けないし、大ごとにしてしまったことを私は反省していた。
「謝るのは俺の方だから」
津軽さんはかぶりを振った。
「不安にさせて本当にごめんね。責任は俺にあるのに」
不透明だったものが明らかになったことにはほっとしている。
自分の体に何が起きているのかわからないというのは、やっぱり不安だっだから。
でも、子どもができていなくて残念に思っている私もいる。
「津軽さんは」
「ん?」
「子どもは、欲しいとかは…」
(って私なに聞いてるの!!?)
こんな騒ぎを起こしておきながら。
自分の発言に驚愕した。
「すいません! 今の質問は無しで!!」
撤回しながら、自分の口を縫ってやりたいと思った。
「いつでもいいよ」
津軽さんは前を向いたまま答えた。
「Firstnameとなら」
私の足が止まる。
手を繋いでいる津軽さんも、歩みを止める。
「でも」
津軽さんは振り返らない。
「Firstnameだってドレス着たいだろうし」
眩しい夕日に向かったまま続ける。
「Firstnameの家族にもまだ会ってないし」
津軽さんが今どんな顔をしているのかは、背中を向けられているからわからない。
わからないけれど───
「俺も、ちゃんと言いたいし」
どこか独り言のように言う津軽さんの声は、それでもはっきりとした音を持って私の耳に届く。
「…なんて」
ゆっくりと振り返った津軽さんの顔は、逆光でよく見えないけれど。
「Firstnameちゃんが俺でいいならの話だけどね」
きっと、優しい目で微笑んでいる。
「あ、の、え、えっと」
心臓がバクバクしてうまく喋れない。
「つ、津軽さんでいいっていうか、津軽さんがいいっていうかっ…」
ぶっ、と彼は噴き出した。
「あっははは! 声が裏返ってるよ!」
大きな声で笑われる。
「顔も真っ赤だし。ウサちゃんじゃなくてタコちゃんなの?」
「…津軽さんだって赤いですよ!!」
「そんなわけないでしょ。適当なこと言わないの」
うぅ、と私は目を瞑った。
自分だけ焦っているのが恥ずかしかった。
「Firstname」
繋いだ手をぐっと引かれる。
津軽さんの胸に飛び込む形になった私を、彼はしっかりと受け止めて抱きしめた。
「もう少しだけ待ってて」
津軽さんの声は柔らかく、けど揺るぎない響きを持っていて。
すごくすごく嬉しくて、私は何度も頷いた。
今はまだ会えない。
でも、その日はきっと来る。
きっと会えると思う。
いつか、未来のどこかで。
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